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林業試験場

ニレチュウレンジ

ニレチュウレンジ

写真1 中齢幼虫(体長約12mm、函館産)、ハルニレ、2008/8/2。

写真2 終齢幼虫(体長20mm)、栗沢、オヒョウ、2004/8/11。

写真3 雌成虫(体長10mm)、札幌、2003/9/5採集。

被害の特徴
樹 種 ニレ属(ハルニレ、オヒョウ、ノニレ、アキニレなど)。
部 位 葉。
時 期 7月~9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉縁から食害され主脈が残る。食害は隣接する葉から葉へと連続的に発生する。 食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1~2)。 被害部位の下に虫糞や幼虫の脱皮殻がある。 秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
幼 虫 体長最大23mm。頭部と胸脚は黒色。胸腹部は乳白色から黄色で、多数の黒斑がある(写真1~2)。尾脚の後方も黒い。集団性。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節の小環節数は3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。
長さ9~14mm、俵型、淡褐色。2層からなり、外層は網状。
成虫 体長7~12mm、黒色でやや青い光沢がある(写真3)。胸部は橙色の部分が広がるが、ときに完全に黒い。翅は暗い。
注) 最近ハルニレでハバチ科の1種による激しい食害を観察している。この種も集団性で頭部と胸脚が黒いが、胸腹部は暗緑色から暗黄色で黒い斑紋がない。

和名  ニレチュウレンジ(文献1959など)
別名 ムネアカルリハバチ(文献1912)、ムネアカルリチュウレンジ(文献1937)、ムネアカチュウレンジ

学名 命名者・年   Arge captiva (Smith, 1874)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫・繭・成虫は上述のとおり(詳細は文献2009)。

寄主  ニレ属(文献1932)、アキニレ・ハルニレ・オヒョウなど(文献2009)。ハンノキの記録(文献1937)はたぶん誤りであり、ケヤキの記録(文献1993)は再確認が必要である(文献2009)。

生態  道央平野部では成虫は5月末から9月中旬、幼虫は7月上旬~9月中旬に採集されている;生活環は不規則だが、北海道では年2回程度発生;雌成虫は葉縁の葉内に卵を並べて産む;幼虫は集団で葉を食べ、老熟すると地面に降りて繭になる(文献2009)。繭内で前蛹態で越冬;春に蛹になる;孵化幼虫は葉裏に群生し、葉脈を残して葉を食べるが、老齢では葉全体を食害する(文献1977)。

分布  北海道・本州・四国・対馬、ロシア極東、朝鮮半島、中国、台湾、モンゴル、インド北部;道内では道北・道東から道南まで広い範囲で確認されている(文献2009)。北海道では古くから生息が確認されている(文献1912参照)。

被害  ニレ属が寄主であることは古くから知られているが(文献1932)、近年まで被害記録はなく(文献1960参照)、1970年代頃の被害(文献1977)が初めての記録のようである。アキニレでは多発すると木全体の葉が食いつくされ、樹勢が著しく衰え枯死することもある(文献1977)。北海道では被害記録はないが、2000年に札幌の街路樹のハルニレで食害が発生したようである(文献2010参照)。庭や公園で普通にみられ、幼虫集団が大きいため食害が目立つ(文献2010)。

防除  雌成虫は動作が緩慢で葉上に静止しているので見つけ次第捕殺する;発生初期の幼虫は一部の枝や葉に群生しているので、その部分を切り取って処分する(文献1977)。2010年現在登録された農薬はないが、樹木に広く適用できるDEP乳剤とMEP乳剤の各1000倍液が本種に有効とする報告(文献1977)がある。


文 献
[1912] 松村松年, 1912. 續日本千蟲図解, 4: 1- 247; Tab. 42-55. 警醒社, 東京.
[1932] Takeuchi, K., 1932. A revision of the Japanese Argidae. Transactions of the Kansai Entomological Society, 3: 27- 42.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.(分類、形態)
[1937] 渡邊福寿, 1937. 日本樹木害蟲総目録. 487pp. 丸善, 東京.
[1959] 奥谷禎一, 石井梯, 安松京三, 1959. 膜翅目. 江崎悌三, 石井悌, 河田党, 素木得一, 湯浅啓温, 編集, 日本幼虫図鑑: 546-590. 北隆館, 東京.(幼虫の形態、生態)
[1960] 井上元則, 1960. 林業害蟲防除論, 下巻(I). 210pp. 地球出版, 東京.
[1967] 奥谷禎一, 1967. 日本産広腰亜目(膜翅目)の食草(I). 日本応用動物昆虫学会誌, 11: 43-49.(宿主)
[1977] 奥野孝夫・田中寛・木村裕, 1977. 原色樹木病害虫図鑑. 365pp. 保育社, 大阪.
[1993] 吉田成章・宮下俊一郎, 1993. 森林病虫獣害発生情報. 森林防疫, 42: 201-203.
[2005] 原秀穂・篠原明彦, 2005. ミフシハバチ科(Argidae). 青木典司ほか, 日本産幼虫図鑑: 276-277. 学習研究社, 東京.(幼虫や生態の概要)
[2009] Shinohara, A., H. Hara and J.-W. Kim, 2009. The species-group of Arge captiva (Insecta, Hymenoptera, Argidae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Tokyo, Series A, 35: 249-278.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.(解説、被害、文献など)

2010/3/31