森林研究本部へ

林業試験場

リンゴチュウレンジ

リンゴチュウレンジ

写真1 終齢幼虫(体長23mm)。 千歳、エゾノコリンゴ、2008/8/7。

写真2 幼虫の側面、写真1と同じ個体。

被害の特徴
樹 種 リンゴ属(リンゴ、ズミ、エゾノコリンゴ)。
部 位 葉。
時 期 6月~7月、9月(幼虫食害時期)。
状 態 葉縁から食害され葉脈が残る。食害部位に幼虫や幼虫の脱皮殻が見られる(写真1~2)。被害部位の下に虫糞や幼虫の脱皮殻がある。秋から翌春までは被害木下の落葉や表土中に繭がある。
幼 虫 体長最大20mm。頭部は黄緑色、頭頂から両側に向かう暗褐色の線がある。頭部は終齢前までは黒色。胸腹部は緑色、背面中央両側が淡黄色、全体に微細な褐色毛がある。腹脚は小さく、腹部第2~6節と10節にある。
ミフシハバチ科では胸脚爪のそばに吸盤があり、腹部第1~9節の小環節数は3(背面の横じわは2本)。 ハバチ亜目では眼(側単眼)は左右に各1個、脱皮殻は頭部から腹部までつながり、頭部が縦中央で割れる。

 北海道で1900年代初頭に激しい被害が発生し、新種として発表された(文献1906)。それ以降、目立った被害は発生していないようである(文献2010参照)。


和名  リンゴチュウレンジ
別名 リンゴハバチ(文献1906)

学名 命名者・年   Arge mali (Uchiyama, 1906)(文献2009参照)

分類  ハチ目(膜翅目)Hymenoptera、ハバチ亜目(広腰亜目)Symphyta、ミフシハバチ科Argidae


形態  幼虫の形態は上述のとおり(文献1906、1910、2010)。成虫は体長9mm、黒色、腹部第3・4節は黄色、触角は黄褐色、翅は透明に近く、暗い帯がある(文献1932、1965)。

寄主  リンゴ(文献1906)、ズミ(文献2003)、エゾノコリンゴ(文献2010)。ナシの記録(文献1924、1937)は再確認を要する(文献2010)。

生態  北海道では年2回発生、成虫羽化時期は6月上旬と8月中旬;雌成虫は葉縁の組織内に産卵する;幼虫は葉を縁から食べ、葉脈を残す;幼虫は振動を与えると地上に落下する;老熟すると地上に降りて乾いた雑草などに潜り繭になる;越冬は繭内で行う(文献1906)。卵は1枚の葉に1~数個ずつ産みつけられる(文献1910)。

分布  北海道・本州・東シベリア・朝鮮半島(文献1935)。道内では空知・石狩・胆振地方で確認されている(文献2010)。

被害  被害は1904年に北海道空知地方市来知で初めて確認され、翌年には札幌のリンゴ果樹園で発生した;全葉を失うほど食害され、果実はたいてい未熟落下した(文献1906)。1910年代まで北海道や青森県で多発し重要害虫であったが、近年は放任樹にみられるにすぎない(文献2003)。緑化樹や森林で多発した記録はなく、むしろまれである(文献2010)。

防除  果樹園では他の害虫防除のための農薬散布により駆除されていると思われる;緑化樹における防除は現状では不要である(文献2010)。なお、2010年現在、登録された農薬はない。


文 献
[1906] 内山繁太郎, 1906. 苹果樹の葉蜂. 北海道農事試験場報告, (2): 53-55, pl. 5.
[1910] 西谷順一郎, 1910. りんごはばち(Hylotoma mali Mats.)に就て. 昆虫世界, 14: 141-143.
[1912] 松村松年 1912. 續日本千蟲図解, 4: 1- 247; Tab. 42-55. 警醒社, 東京.
[1924] 数井正俊, 1924. 梨害蟲目録(承前). 昆虫世界, 28: 226-237.
[1932] Takeuchi, K., 1932. A revision of the Japanese Argidae. Transactions of the Kansai Entomological Society, 3: 27- 42.
[1935] Gussakovskij, V. V., 1935. Chalastogastra (pt. 1). Faune de l'URSS (n. s. 1), Insectes Hym?nopt?res, II (1). XVIII+453pp. ?dition de l'Academie des Sciences de l'URSS, Moscou, Leningrad.
[1937] 渡邊福寿, 1937. 日本樹木害蟲総目録. 487pp. 丸善, 東京.
[1939] Takeuchi, K., 1939. A systematic study on the suborder Symphyta (Hymenoptera) of the Japanese empire (II). Tenthredo, 2: 394-439.
[1965] 富樫一次, 1965. ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, キバチ科, クビナガキバチ科, ヤドリキバチ科, クキバチ科, ヨフシハバチ科, ハバチ科, マツハバチ科, コンボウハバチ科, ミフシハバチ科. 朝比奈正二郎・石原保・安松京三(監修), 原色昆虫大図鑑III: 243-254, pl. 122-127. 北隆館, 東京.
[2003] 奥俊夫, 2003. リンゴハバチ. 梅谷献二・岡田利承(編)、日本農業害虫大事典: 493. 全国農村教育協会, 東京.
[2009] Blank, S. M., A. Taeger, A. D. Liston, D. R. Smith, A. P. Rasnitsyn, A. Shinohara, M. Heidemaa and M. Viitasaari, 2009. Studies toward a world catalog of Symphyta (Hymenoptera) . Zootaxa, 2254: 1-96.
[2010] 原秀穂, 2010. 北海道における膜翅目ハバチ亜目の樹木害虫I:ナギナタハバチ科, ヒラタハバチ科, ミフシハバチ科, コンボウハバチ科. 北海道林業試験場研究報告, 47: 51-68.

2010/3/31