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林業試験場

写真1 ヤチダモの被害。新得、1990/6/1。

写真2 幼虫と成虫。新得、アオダモ、1990/6/8。

写真3 幼虫、成虫、天敵のクサカゲロウの卵。美唄、マルバアオダモ、1999/6/17。

樹種ヤチダモ・アオダモ・ハシドイなどモクセイ科、トドマツ。
部位モクセイ科では葉や細い枝。トドマツでは根。
時期春はモクセイ科、夏~秋はトドマツに発生。
状態モクセイ科では新葉が縮れる。アブラムシが多数みられる。 
トドマツ苗木が枯れる。根にアブラムシがいる。
昆虫体長最大約4mm。体は黄褐色で、濃緑色の横縞がある、あるいは白い綿状の物質でおおわれる。雌成虫の一部はやや曇った翅を持つ。
被害の特徴

和名  トドノネオオワタムシ 
別名 雪虫(文献1994参照)

学名 命名者  Prociphilus oriens Mordvilko

分類  カメムシ目(半翅目)Hemiptera、アブラムシ科Aphididae


 

形態  上述のとおり(文献1943、1994)。

寄主  モクセイ科(ヤチダモ・アオダモ・シオジ・トネリコ・チョウセントネリコ・コバノトネリコ・ハシドイ)とトドマツ(文献1943)。ライラック・イボタ・レンギョウにも産卵するが、孵化幼虫は生長できず死滅する(文献1943)。

生態  生活環は下表のとおり(文献1985を改変)。年5~6世代(文献1985)。モクセイ科樹木の幹の隙間で卵で越冬、4月中旬~5月上旬に孵化する;幼虫は新芽や新葉の裏面に寄生・吸汁し、幹母(無翅の雌成虫、第1世代)になる;幹母は幼虫を胎生し、これらの幼虫が生長し有翅の移動雌成虫になる(第2世代);6月下旬~7月上旬にトドマツに移動し、根際に約30匹の幼虫を胎生する;幼虫は無翅の雌成虫となり、幼虫を胎生する;夏の間に根で数世代を繰り返す;9月下旬ころから有翅の雌成虫が現れる(文献1943)。有翅の雌成虫になる時期は10月中下旬(文献1994)。モクセイ科樹木に飛来し、樹皮の裂け目や冬芽の周囲に雌雄成虫を胎生する;この雌雄は交尾し、雌は樹皮の裂け目などに産卵する(文献1943)。

 発育ステージ 寄主~3月  4   5   6   7   8   9  10  11~
 卵(越冬) モクセイ+++++++       +++
 幼虫・幹母(無翅雌成虫)・幼虫 モクセイ  ◆◆◆◆◆◆◆◆◆      
 有翅雌成虫(移動)・卵 トドマツ     ◎◎      
 幼虫~成虫 トドマツ     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  
 有翅雌成虫(移動) モクセイ        ◎◎◎◎ 
 無翅雌雄成虫 モクセイ         ◎◎◎ 

分布  北海道・本州、サハリン、朝鮮半島、シベリア(文献1943)。

被害  モクセイ科樹木では葉がしおれて縮み、生長が阻害される(文献1943)。アオダモでは被害による幼木の枯死が1例記録されている(文献1997)。トドマツの被害は苗畑の幼齢木に多いが、壮齢木に発生することもある;活着不十分な新植苗木は枯死することがある;被害部は縦の裂け目ができる、扁平になるなど奇形になる;キクイムシ類などの二次被害を誘発することがある;一般に良好な立地に生育する健全な森林では被害は少ない(文献1943)。トドマツの被害は近年、記録がない。

防除  トドマツとモクセイ科樹木の混植や近接して植えるのは避ける(文献1943、1994)。寄主とならないモクセイ科樹木(ライラック・イボタなど)をトドマツと混植する方法(文献1943)もあるが、効果は検証されていないようである。


 

文献 
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除;引用元は確かめていない。) 
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真) 
[1994] 尾崎研一, 1994. トドノネオオワタムシ. 小林富士雄, 竹谷昭彦, 編集, 森林昆虫, 総論・各論: 401-403. 養賢堂、東京. (形態、生態、防除) 
[1997] 福山研二, 1997. アオダモ幼齢造林地におけるトドノネオオワタムシの寄生分布におよぼす高木寄主の影響. 日本応用動物昆虫学会誌, 41: 105-107. (枯死記録、生態)

2011/5/16