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林業試験場

トドマツオオアブラムシ

トドマツオオアブラムシ

写真1 寄生状況(枝付け根や幹上に土くずのようなものが付く)。松前、トドマツ。2005/7/15。

写真2 アブラムシ。写真1の個体群。

写真3 アブラムシ被害による衰弱木に発生するトドマツがんしゅ病。

被害の特徴
樹 種 トドマツなどモミ属。
部 位 幼木の幹や枝。
時 期 春~秋。
状 態 幹や枝が土や木くずで覆われ、その下にアブラムシとアリが共生している。
木が枯れる。
昆 虫 体長最大3~4mm。体は暗い緑色または緑色を帯びた黒色(ときに淡い褐色)、短い卵形。
トドマツの幹や枝には他にトドミドリオオアブラムシ、ハネナガオオアブラムシ、ハットリオオアブラムシが寄生する。トドミドリオオアブラムシは鮮やかな緑色で、成虫は体長2mm強と小さい。ハットリオオアブラムシとハネナガオオアブラムシの成虫は体長がそれぞれ5mm、6mmと大きい。また、これら3種では加害部位が土で覆われることはないようである。

和名  トドマツオオアブラムシ
別名 トドマツオオアブラ(文献1943)

学名 命名者・年   Cinara todocola Inouye, 1936

分類  カメムシ目(半翅目)Hemiptera、アブラムシ科Aphididae


形態  上述のとおり(詳細は文献1936、1956、1969、1994)。

寄主  モミ属:トドマツ(文献1936)、ウラジロモミ(文献1994)。

生態  生活環の概要は下表のとおり(文献1985を改変)。卵越冬、5月上中旬に孵化する;幼木の幹や枝で吸汁加害し世代を繰り返す;一部は7月上中旬に有翅の雌成虫になり、ほかの木に移動する(文献1943)。札幌付近では、卵は4月末から5月上旬に孵化し、有翅の雌成虫の移動は6月下旬~7月上旬ころに集中する(文献1994)。雌のみの胎生で8月末まで5~6世代を繰り返し、9月からは雌雄が出現し、10月中旬~11月下旬まで産卵する(文献1994)。卵は針葉裏に産みつけられる(文献1943)。
 必ずと言ってよいほどアリが共生しており、トビイロケアリが最も多い(文献1985、1994)。アリはアブラムシの隠れ家(土莢、どきょう)を作って保護する(文献1943、1994)。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 卵(越冬) ◎◎◎ ◎◎◎ ◎                    ◎◎ ◎◎◎
 幼虫~成虫(寄生・繁殖)         ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆  

分布  北海道(文献1943)。本州、サハリン(文献1985)。

被害  幼齢のトドマツ単純林、特に鬱閉の破られた林に多い(文献1943)。トドマツを造林すると2~3年の内に侵入・定着し、被害は樹高が2m前後になるまで続く(文献1977)。植栽後6~7年前後がピークとなる(文献1994)。本州ではウラジロモミ造林地で被害が目立つ(文献1994)。
 生長を阻害するほか、連年多数の寄生を受けると枯死する(文献1943)。二次的にトドマツがんしゅ病を誘発し枯死するものも少なくない(文献1994)。木が小さいほど枯死しやすい(文献1994)。春から夏に温度が高い地域で枯死被害の危険が大きく、道北内陸部・道東内陸部・道央・道南に危険地域がある(文献1994参照)。

防除  造林地では適度の鬱閉を保つことが予防上重要である(文献1943)。帯状または小面積に造林し、周囲に天然林を残す、または他の樹種を造林する;樹下植栽を行う(文献1994)。
 造林地では薬剤散布による駆除が実施されている。薬剤(粒剤)は樹冠の範囲内に散布する;できれば6月上中旬ころまでに実施する;寄生木だけでなく、林分内の全木に散布する(文献1994参照)。


文 献
[1936] Inouye, M., 1936. Two new species of Aphididae from Hokkaido. Insecta Matsumurana, 10: 128-134. (原記載、形態の記述)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除)
[1956] 井上元則, 1956. 北海道・東北地方の針葉樹に寄生するアブラムシ. 林業試験場北海道支場業務報告, 特別報告, 5: 204-238. (形態、生態)
[1969] Inouye, M, 1969. Revision of the conifer aphid fauna of Japan (Homoptera, Lachnidae). 林業試験場研究報告, 228: 57-102. (分類、形態、生態)
[1977] 山口博昭, 1977. Ⅲ虫害. 横田俊一・坂上幸雄・山口博昭・魚住正・樋口輔三郎, 北海道の森林保護: 84-133. 北方林業会, 札幌. (被害と防除の解説)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1994] 山口博昭, 1994. 小林富士雄・竹谷昭彦(編), 森林昆虫, 総論・各論: 395-399. 養賢堂, 東京. (形態、生態、被害、防除を詳述)

2011/5/15