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林業試験場

ハンノキハムシ

ハンノキハムシ

写真1 幼虫、中齢、体長6mm。新得、ハンノキ、1991/7/12。

写真2 幼虫、終齢、体長9mm。1991/7/20。写真1を飼育。

写真3 成虫、体長7mm。写真1を飼育。

写真4 被害。静狩、コバノヤマハンノキ。1968/9/4。

被害の特徴
樹 種 ハンノキ属、シラカンバ。まれに他の広葉樹。
部 位 葉。
時 期 6~8月。
状 態 葉が茶色になったり、食べられる。茶色の部分は表面にかじり跡がある。幼虫や甲虫(成虫)がみられる。
幼 虫 体長最大12mm。全体黒色、または黄土色の地に黒い斑紋が多数ある。
葉上に見られるハムシ科の幼虫は、胸脚がくの字状、尾端は吸盤状、腹脚はない。
成 虫 体長6~7mm、全体黒青色、触角が長い。
注) ハンノキ属には他にルリハムシ、トホシハムシ、ミヤマヒラタハムシなどよくみられる。ルリハムシは幼虫の色彩や形態がかなり異なる。トホシハムシとミヤマヒラタハムシの幼虫はどちらも発生時期が6月と早い。また、トホシハムシの幼虫は体が後方で太くなり、葉を縁から食べる。ミヤマヒラタハムシの幼虫は体が後方に向かって細くなり、穴を開けながら葉を食べる。

和名  ハンノキハムシ

学名 命名者   Agelastica coerulea Baly

分類  コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera、ハムシ科Chrysomelidae


寄主  ハンノキ属(ハンノキ、ケヤマハンノキ)。ほかにヤナギ科(ドロノキ、ヤナギ属)、カバノキ科(クマシデ属、ハシバミ属、カバノキ属)、ブナ科(クリ)、ニレ科(ニレ)、バラ科(サクラ、リンゴ、ナシ)も食べるという。

生態  生活環は下表のとおり(文献1985)。年1世代、成虫越冬;成虫は葉の開き始めるころに出現し、葉裏に産卵する;卵は黄色で、葉裏にまとめて産み付けられる(文献1985参照)。成虫は葉を穴を開けるように食べる。激しいときは主脈を残すのみになる(文献1985)。幼虫は葉の表面を削るように食べるので、被害葉は網目状になる(文献1985)。老熟した幼虫は土中に小さな部屋を作り蛹になる;約2週間で成虫になる;羽化した成虫は葉を接触した後、9月に落葉・地被物または土中の浅い所に潜り越冬する(文献1985)。より詳しくは文献1994。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 成虫(+越冬、◎摂食・産卵) +++ +++ +◎◎ ◎◎      ◎◎◎ ◎++ +++ +++
 幼虫(摂食・成長)             ◆◆◆ ◆◆◆                
 蛹                  ◇◇ ◇              

分布  北海道・本州・四国・九州、シベリア東部、朝鮮半島、中国東北部。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害など  北海道では、ハンノキ属各種及びシラカンバで被害記録があり、1960年代後半から1970年代にかけて、道南地方を中心に長期的に被害が発生した(樹木害虫発生統計資料を参照)。その後の被害は単発的である。街路樹のシラカンバに多発することもある。食害のみで木が枯死することはなく、食害後に再び葉が開く(二次開葉);激害木にはカイガラムシの1種が寄生し枯死に至ることが多い(文献1994)。道内でも食害で木が枯れた例(文献1977b)があり、被害の長期化と関係すると思われる。
 被害が1~2年で終わる場合、木が枯れることはほとんどないため、森林では放置して終息を待つ方がよいと考えられる。薬剤防除は効果的であるが(文献1994)、ハンノキ・シラカンバのハムシ・ハンノキハムシ用に登録された農薬はない(文献2009参照)。


文献
[1973] 井上元則, 1973. 林業害虫防除論, 中巻. 293pp. 地球出版, 東京. (形態、生態、防除)
[1963] 中根猛彦ほか, 1963. 原色日本昆虫大図鑑Ⅱ(甲虫篇): 1-18, 1-443, pls 1-192. 北隆館, 東京. (分類、形態)
[1977a] 小林富士雄, 1977. 緑化樹木の病害虫(下)害虫とその防除. 290pp. 日本林業技術協会, 東京. (生態、防除)
[1977b] 山口博昭, 1977. Ⅲ虫害. 横田俊一他, 北海道の森林保護: 84-133. 北方林業会, 札幌. (生態、被害)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1994] 木元新作・滝沢春雄, 1994. 日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説. 539pp. 東海大学出版会, 東京. (分類、形態、生態)
[1994] 奥田素男, 1994. ハンノキハムシ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編集), 森林昆虫, 総論・各論: 355-356. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)
[1994] 農林水産消費安全技術センター(監修), 2009. 農薬適用一覧表-平成21年9月30日現在-2009年版. 859pp+CD1枚. 日本植物防疫協会, 東京.

2011/6/24