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林業試験場

オオトラカミキリ

オオトラカミキリ

写真1 被害木。穂別、トドマツ。1969/9/2。

写真2 被害木。美深、トドマツ。1971/2。

写真3 穿孔跡(樹皮をはがしたところ)。

写真4 穿孔跡(蛹化のため材内に穿孔する)。

写真5 成虫。

被害の特徴
樹 種 トドマツ。まれにエゾマツ。
部 位 主に幹の樹皮下、材の表面。
時 期 通年(被害観察時期)。
状 態 幹の樹皮に茶色の湾曲した縞が現れたり、幹が円形に隆起する。または、円形に樹皮が剥がれ、その中央に直径約10mmの丸い穴がある。
被害初期では一部の下枝の葉が赤く枯れる、枝の付け根からヤニが垂れさがる症状がみられることがある。

和名  オオトラカミキリ(文献1973、1994など)

学名 命名者   Xylotrechus villioni Villard
(文献1973、1994など)

分類  コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera、カミキリムシ科Cerambycidae


寄主  トドマツ(文献1973)。エゾマツの記録もある(文献1994)。
 幼虫は生立木の形成層から辺材を食べる(文献1973)。

生態  1世代に2年を要する(文献1973、1996)。成虫は6月下旬から8月に出現(文献1985)。雌成虫は主に生枝に卵を1個ずつ産む;特に最も下の生枝とそれから上1mの範囲にある生枝に多い;まれに幹に産卵する(文献1996)。孵化した幼虫は幹に向って樹皮下を進み、枝内で越冬し;翌年、幹に侵入する文献1996)。幼虫は形成層から辺材にかけて線状または不規則に穿孔し、幹に潜って越冬する(文献1973、1996)。翌春、樹皮下を渦巻き状に穿孔し、その中心で材内に穿孔して蛹になる(文献1973)。幼虫の穿孔は幹の長さにして0.5~1mの範囲で見られる(文献1973)。

分布  北海道・本州・四国、シベリア東部。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  被害は1967年に胆振東部地方の人工林で初めて確認され、これを機に行われた調査で上川・後志・渡島地方でも被害の激しい人工林が確認された;天然老齢林では被害がトドマツが分布している地域のどこにもみられ、本数被害率30~80%に達した(文献1973)。その後は1980年代、1990年代に桧山地方で被害の激しい人工林が確認された(文献1986、1996)。激害人工林における被害本数率は林齢30~40年程度で約20~50%に達する;しかし、人工林での被害は一般に少なく、極めて局所的である(文献2006b)。
 被害木は最も小さくて樹齢22年、胸高直径8cmである(文献1996)。被害は胸高直径14cmになると急激に増加する(文献1973)。被害は発生後3~4年目にピークとなり、その後減少する(文献1973参照)。
 被害木は平坦地や緩斜面に多く、特に沢に沿った林縁に多い;また、樹勢が衰えた林分あるいは手入れの遅れた林分に多い(文献1973、1994)。
 加害部位は幹の下部(2~5m程度)に多い(文献1973、2006a)。木の生長とともに被害部位も高くなる傾向があり(文献1986)、主な産卵部位である生下枝が生長とともに高くなることと関係すると考えられる(文献2006a)。
 被害によりまれながら木が枯れたり、幹が折れることがある(文献1973、2006a)。また、被害部位から腐朽が進行する(文献1973)。

防除  健全な林分を育てる(文献1994)。被害木は除去する(文献1973)。主に下部の生枝に産卵することから枝打ちを行う(文献1996)。ただし、1度の枝打ちの効果は長続きしない(文献2006a)。また、激害林分が確認されている地域では、被害がでやすい立地環境でのトドマツ造林は避けた方がよい。


文献
[1973] 上条一昭・鈴木重孝, 1973. トドマツを加害するオオトラカミキリ. 北海道林業試験場報告, 11: 113-119. (生態、被害)
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1986] 雁田邦康・信太正治・今野博, 1986. 今金町におけるオオトラカミキリの被害状況. 森林保護, 193: 19-21.
[1994] 上条一昭, 1994. オオトラカミキリ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編集), 森林昆虫, 総論・各論: 180-181. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)
[1996] 菅原豊, 1996. トドマツを加害するオオトラカミキリ防除の試み. 北方林業, 48: 129-131.
[2006a] 原秀穂・菅原豊, 2006. オオトラカミキリの生枝打ちによる防除方法の検討と被害に関する知見. 北海道林業試験場研究報告, 43: 48-53.
[2006b] 原秀穂・菅原豊, 2006. トドマツ人工林におけるオオトラカミキリの被害と防除. 光珠内季報, 142: 1-4.

2011/7/4