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林業試験場

カラマツヤツバキクイムシ

カラマツヤツバキクイムシ

写真1 成虫。足寄、カラマツ、2008/5/22。

写真2 樹皮下の成虫、体長5mm。滝川、カラマツ、2001/9/3。

写真3 穿孔木から排出される木くず。1982/6。

写真4 樹皮下の穿孔状況と幼虫や蛹。1982/7。

写真5 カラマツ生立木被害。和寒町、1984/7/20。

被害の特徴
樹 種 カラマツ属、まれにマツ属。
部 位 幹の樹皮下。
時 期 春から秋。
状 態 木が枯れる。 幹に穴が開く。穴は円形、直径約3mm。 穴から粉状の木くずややにがでる。
樹皮下に甲虫・幼虫・蛹がいる。また、幅3mmの複数の坑道(母孔)が1カ所から上下に延び、母孔の左右から先端に向かい太くなる坑道(幼虫孔)が多数ある。幼虫孔は木くずが詰まる。
幼虫・蛹 体長最大約5mm。白色。幼虫は頭部が黄褐色、体が湾曲し、脚がない。
成 虫 体長5~6mm。 光沢のある黒色または暗褐色。ほぼ円筒形で、尾端の背面左右に各3個の短い刺がある。

和名  カラマツヤツバキクイムシ(文献1994など)
別名 カラマツヤツバキクイ(文献1943)、マツノオオキクイムシ、カラマツオオキクイムシ

学名 命名者  Ips subelongatus (Motschulsky, 1860)(文献2005など)
最近まで Ips cembrae (Heer, 1836) が学名として用いられてきた (文献1943、1994、2007など)。

分類  コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera、キクイムシ科Scolytidae


形態  上述のとおり(詳細は文献1994参照)。

寄主  カラマツ属-カラマツ・グイマツ(文献1943、1994)。マツ属-アカマツ(文献1943、1994)、ヨーロッパアカマツ・チョウセンゴヨウマツ・ストローブマツ(文献1994)。
 主に内樹皮を食べる。

生態  北海道の寒い地域(釧路市近く)では年1世代、暖かい地域(札幌市近く)では年2世代(文献1994)。樹皮下で成虫で越冬する(文献1943、1994);多くは伐根の樹皮に穿孔し、地表付近で越冬する(文献1943);普通、樹幹部の樹皮下で3~10匹の集団で越冬(文献1994)。北海道では5月中旬の暖かい日に成虫が出現する(文献1994)。成虫の飛翔のピークは5月下旬と8月上旬(文献1950)。衰弱木や新鮮な倒木、伐採木、ときに健全木に穿孔し、繁殖する(文献1943、1994)。雌成虫は内樹皮に上下方向に長さ15cm内外の母孔を掘り、その壁に産卵する;幼虫は母孔に対しほぼ直角の方向に内樹皮を食い進む(文献1943、1994)。幼虫は樹皮下で蛹になり、羽化した成虫は樹皮下を食べた後、外に脱出する(文献1994)。

分布  北海道、本州;極東ロシア、シベリア、朝鮮半島、中国北部、モンゴル(文献2005)。

被害観察地域 (樹木害虫発生統計資料に基づく)

被害  風雪害、葉食性害虫の多発などにより、衰弱した林木に寄生し枯死させる;また、間伐跡地に放置された伐採木で繁殖し、残存林木に多大な被害を与えることがある(文献1994)。道内では2002年に葉食性害虫被害発生地で大規模な枯損被害が発生した(文献2004)。穿孔された生立木はたいてい枯死するが、穿孔数が少ないときは生き延びる。

防除  間伐材は剥皮するか、林外遠くに搬出する;挫折木・風倒木は速やかに処分する(文献1943)。主伐・間伐は9月以降に行い、伐採丸太を長く林内に放置しない;直径8cm以上の丸太は繁殖源となる可能性が高いので、伐採後できるだけ早く林外に搬出する;山土場はカラマツ造林地に隣接して作らない(文献1994)。その他の防除方法についてはヤツバキクイムシを参照。なお、フェロモンで捕獲する技術が確立されているが(文献2007)、農薬登録されていない。


文 献
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除、過去の文献;なお、上記引用部分の出典は確認していない)
[1950] 井上元則, 1950. 唐松食蟲に就て(第1報). 日本林学会誌, 32: 112.
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (生態、被害、カラー写真)
[1994] 小泉力, 1994. カラマツヤツバキクイムシ. 小林富士雄・竹谷昭彦(編集), 森林昆虫, 総論・各論: 183-184. 養賢堂, 東京. (形態、生態、被害、防除)
[2004] 上田明良・尾崎研一・原秀穂・石濱宣夫, 2004. 2002年に北海道で発生した森林昆虫. 北方林業, 56: 85-86.
[2005] European and Mediterranean Plant Protection Organization, 2005. Data sheets on quarantine pests. Ips cembrae and Ips subelongatus. EPPO Bulletin, 35: 445?449.
[2007] 原秀穂・三好秀樹・徳田佐和子・石濱宣夫, 2007. カラマツヤツバキクイムシ防除のための集合フェロモンの利用について. 北海道林業試験場研究報告, 44: 129-138.

2018/7/10