森林研究本部へ

林業試験場

ナガチャコガネ

ナガチャコガネ

写真1 老齢幼虫、体長20mm。トドマツ苗畑、2001/11/27。

写真2 幼虫腹部先端の下側。写真1の幼虫。

写真3 成虫。

被害の特徴
樹 種 針葉樹、落葉樹など。樹木ではイチイや苗畑の針葉樹で被害が多い。
部 位 根。
時 期 夏~翌春(幼虫加害時期)。
状 態 苗木が枯れる。庭のイチイやツツジの木が枯れる。
細根がない。土中に幼虫がみられる。
幼 虫 体長最大約25mm。頭部と胸脚は黄褐色、胸腹部は白色(写真1)。
コガネムシ科の幼虫はC字型、全体一様に色が淡い;触角はくの字状に近い、大アゴは強大、胸脚はくの字状。
本種では、腹部末端節腹面の刺毛列は縦2列で平行し、各列の刺毛は15本内外(写真2);肛門裂は3裂、縦裂は短く、横裂は縦裂の約2倍の長さ。
備 考 苗畑ではナガチャコガネの他に、ヒメコガネ、スジコガネ、ツヤコガネ、サクラコガネが害虫として問題になる(文献1985)。

和名  ナガチャコガネ
別名 キイロコガネ、キコガネ

学名 命名者   Heptophylla picea Motshuclsky

分類  コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera、コガネムシ科Scarabaeidae


形態  幼虫については上記のとおり(文献1943、1964、1994b)。
 卵は白色、短楕円形、長径1.2mm、短径1mm;蛹は体長10mm、淡黄色、土を固めて作った楕円形の部屋(土窩)内にある(文献1943)。

寄主  スギ、ヒノキ、ヒバ、アカマツ、クロマツ、カラマツ、トドマツ、エゾマツ、コウヤマキ、イチイ等の針葉樹及び様々な広葉樹(文献1943)。ドイツトウヒ(文献1928)。

生態  生活環は下表のとおり(文献1985を一部改変)。年1世代(文献1985)。成虫は6月下旬~7月下旬に発生;成虫は地中に潜み、黄昏時の午後6時から8時に現れ、地表近くを飛翔する;成虫は照明にはわずかに誘引されるにすぎない(文献1943)。成虫の食物は草本(文献1925)や稲の葉(文献1937);成虫はほとんど摂食しない(文献1928)。雌成虫は交尾後、地中に潜り、地下6~9cmの深さに卵を点々と産む;1雌の産卵数は32個内外(文献1943)。産卵後すぐに死ぬようである;卵は2~3週間で孵化する;幼虫は苗木の根を食害し、北海道では11月頃まで食害が続く;翌春4月頃に再び地表近くに移動して根を食べる;6月上旬頃に蛹になる(文献1928)。越冬幼虫は地中深く、多くは15~20cm(最大35cm)潜入して越冬する(文献1943)。食害量は秋に多い(文献1994b)。

 発育ステージ ~3月   4    5    6    7    8    9   10   11~
 幼虫(摂食・成長◆、越冬◇) ◇◇◇ ◇◇◇ ◆◆◆ ◆◆    ◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◇ ◇◇◇
 蛹           ? +++ +                  
 成虫・卵                 ◎◎◎ ◎              

分布  北海道・本州・四国・九州(文献1943)

被害  苗圃の各種の針葉樹の苗木に著しい被害を及ぼす;細い根が食い切られたり、根の樹皮が食い剥がされたりする;小さな苗木ほど被害程度は激しく、1年生苗は主根が噛み切られるためほとんど枯死する;なお、被害を与えるのは幼虫のみで、成虫による樹木の被害はまったくない(文献1943)。庭のイチイやツツジでも被害がしばしば発生し、ときに広域で多発することがある(文献1982、1992など)。被害により木が衰弱または枯死することがある。

防除  6月下旬~7月下旬の黄昏時に発生する成虫を捕虫網等を用いて捕殺する;秋の苗木の掘り取り仮植の際や春の移植の際に幼虫を捕殺する(文献1943)。農薬による駆除については文献1994a・bを参照。ただし、コガネムシではスギ・ヒノキ・ツツジ類で農薬が登録されているにすぎない(2009年9月時点)。


文献
[1925] 木下栄次郎, 1925. 金亀子の生態に就て. 札幌農林學會會報, 17: 72.(文献1943から引用)
[1928] 相沢保, 1928. 落葉松林の被害と其防除法に就て. 北海道林業會報, 26(8): 512-526.
[1937] 桑山覺, 1937. コガネムシ類概説. 北海道農事試験場彙報, 61, 病虫害雑誌, 26.(文献1943から引用)
[1943] 松下眞幸, 1943. 森林害蟲學. 410pp. 冨山房, 東京. (形態、生態、被害、防除、過去の文献;なお、上記引用箇所の出典は確認していない)
[1964] 後閑暢夫, 1964. 森林害虫としてのコガネムシ類. 森林防疫ニュース, 13: 46-51.
[1982] 小泉力(北海道森林昆虫談話会), 1982. 昭和56年度北海道に発生した森林害虫. 北方林業, 34: 168-172.
[1985] 林康夫・吉田成章・小泉力・高井正利・秋田米治・福山研二・前田満・柴田義春・中津篤・田中潔・遠藤克昭・松崎清一・佐々木克彦, 1985. 北海道樹木病害虫獣図鑑. 223pp. 北方林業会, 札幌. (北海道での生態、カラー写真)
[1992] 福山研二・前藤薫・東浦康友・原秀穂, 1992. 平成3年度に北海道に発生した森林昆虫. 北方林業, 44: 271-274.
[1994a] 倉永善太郎, 1994. ヒメコガネ. 小林富士雄・竹谷昭彦, 編集, 森林昆虫, 総論・各論: 371-373. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)
[1994b] 倉永善太郎, 1994. ナガチャコガネ. 小林富士雄・竹谷昭彦, 編集, 森林昆虫, 総論・各論: 378-379. 養賢堂, 東京. (形態、生態、防除)

2011/7/1