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林業試験場

キンケクチブトゾウムシ

キンケクチブトゾウムシ

写真1 老齢幼虫。道北地方、アカエゾマツ苗畑、2010/10/29。

写真2 雌成虫。写真1と同じ畑で2010/10/29に採集。

写真3 アカエゾマツ苗木の被害。写真1・2を採集した畑、2010/10/29。。

被害の特徴
樹 種 アカエゾマツほか様々な樹木・草本。
部 位 根。
時 期 通年(幼虫加害時期)。
状 態 苗木が枯れる。葉や枝・幹に食べ痕はみられない。根が少なくなったり、細い根の表面にかじり跡がある。
土中にイモムシ(幼虫)、地表にゾウムシ(成虫)がみられる。
幼 虫 体長最大約10mm、白色でやや黄色または赤色、まばらに毛が生える。
ゾウムシ科の幼虫は胸脚・腹脚がなく、一般に頭部は褐色。
成 虫 体長約8.5mm。黒褐色であまり輝かない。鞘翅には黄色の斑点がある。口は太く短い。

 1980年に静岡県で発生が確認された侵入害虫である;中央ヨーロッパ原産で、観賞植物の移動により世界各地に侵入しており、日本へはアメリカから球根ベゴニアの輸入とともに侵入したと考えられている(文献1983a)。北海道では1993年に札幌市の農園で発見され、その後の調査により道内の広い範囲で確認されている(文献1996)。2009年にアカエゾマツ苗木が多数枯死する被害が確認された(文献2010)。


和名  キンケクチブトゾウムシ

学名 命名者   Otiorhynchus sulcatus Fabricius

分類  コウチュウ目(鞘翅目)Coleoptera、ゾウムシ科Curculionidae


形態  上記のとおり(詳細は文献1983a)。

生態  成虫は葉・茎・花を縁から食べ、幼虫は根を食害する;成虫・幼虫とも果樹・野菜・観賞植物・雑草など広範囲の植物を加害する(文献1983a)。道内の野外で幼虫の寄生が認められた樹木はイチイ・レンゲツツジ・エゾヤマザクラ・アジサイ(文献1996)、アカエゾマツ(文献2010)。
 雌のみで単為生殖により世代を繰り返す;雌成虫は寄主植物のまわりの土壌表面、土中深さ数cm、植物の枝葉などに卵を1個ずつバラバラに産む;孵化した幼虫はただちに土に潜り、植物の地下部を食べて成長する;土の中で蛹になる(文献1983a)。成虫は飛ぶことができず、夜間活動する;日中は葉の裏や枯れ草・石などの下に隠れている;羽化の1ヶ月後に産卵を開始する(文献1982)。
 北海道では年1世代;主に中~老齢幼虫で越冬、一部は成虫で越冬する;室内飼育下では幼虫で越冬したものは翌春蛹化し、5月中旬~6月下旬頃に成虫になり、6月末~10月中旬まで産卵する;幼虫は7月中旬頃から発生する;成虫で越冬したものは飼育下では5~10月上旬まで産卵する(文献1996)。なお、以上は道央平野部での調査結果である。
 天敵として病気が確認されている(文献1983b)。

分布  国外では原産地の中央ヨーロッパのほかにヨーロッパ全域・アメリカ合衆国・カナダ南部・オーストラリア南部・ニュウジーランド・セントヘレナ島に分布する(文献1983a)。
 国内では本州(文献1983a)、北海道(文献1996)で見つかっている。

発生観察地域 (文献1996;ウエブサイト2007)

被害  国外ではブドウを枯死させた例があり、イチゴで甚大な被害が発生している(文献1982)。本州ではシクラメンや球根ベゴニアの被害が記録されている(文献1983a)。北海道ではシクラメン・食用ユリ・イチゴで被害が確認されている(ウエブサイト2003、2006、2007)。樹木では外見上の被害は草本植物のように早期には表れない;苗木では加害を受けた翌年に被害が現れる場合が多い(文献1983a)。
 北米では苗木の害虫としても知られている(文献1988)。 最近、道北地方の苗畑でアカエゾマツ苗木が多数枯れる被害が発生した(文献2010)。

防除  幼虫に対してはカルボスルファン粒剤の株元処理により密度が半減した;成虫に対してはプロチオホス乳剤・DMTP乳剤の茎葉散布及びカルボスルファン粒剤の株元処理で実用的な有効性が認められた(ウエブサイト2000)。カルボスルファン粒剤は商品名ガゼット粒剤・劇物・魚毒性Bs、プロチオホス乳剤は商品名トクチオン乳剤・普通物・魚毒性B、DMTP乳剤は商品名スプラサイド乳剤40・劇物・魚毒性Bである(ウエブサイト2009a、2009b参照)。農薬散布適期は成虫が羽化する5月中旬~6月下旬と考えられる(文献2010)。

文 献
[1982] 真崎誠, 1982. 侵入が警戒される重要甲虫類-ゾウムシ類を中心として-. 植物防疫, 36: 299-304.
[1983a] 松谷茂伸・真崎誠, 1983. キンケクチブトゾウムシの生態と防除. 植物防疫, 37: 380-386.
[1983b] 西東力・池田二三高, 1983. キンケクチブトゾウムシに寄生するBeauveria bassiana (Bals.) Vuill. 日本応用動物昆虫学会誌, 27: 307-308.
[1988] Johnson, W. T., and H. H, Lyon, 1988. Insects that feed on trees and shrubs. Second edition. 556pp. Cornel University Press, New York. 
[1996] 奥山七郎・岩崎暁生・小野寺鶴将, 1996. 北海道におけるキンケクチブトゾウムシの発生と生態的知見. 北農, 63: 161-174.
[2010] 原秀穂, 2010. 最近、北海道で樹木被害が確認された外国からの侵入害虫. 光珠内季報, 159: 13-17.

ウエブサイト
[2000] 花卉野菜技術センター研究部病虫科, 2000. 鉢物類のキンケクチブトゾウムシに対する防除対策-シクラメン, ベゴニア, プリムラ-(侵入害虫に対する防除対策試験). http://www.agri.pref.hokkaido.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/h12gaiyo/2000517.htm. (2009年11月10日確認.)
[2003] 病害虫防除所, 2003. [平成5年度新発生病害虫]シクラメンのキンケクチブトゾウムシ(新発生). http://www.agri.pref.hokkaido.jp/boujosho/sinhassei/html/93/0519.htm . (2009年11月10日確認.)
[2006] 上川農試・上川農業改良普及センター大雪支所, 2006. [平成18年度新発生病害虫] 食用ゆりのキンケクチブトゾウムシ(新寄主). http://www.agri.pref.hokkaido.jp/boujosho/sinhassei/html/H18/1808.htm. (2009年11月10日確認.)
[2007] 道南農試・病害虫防除所・花野菜技術センター・空知農業改良普及センタ-本所・留萌農業改良普及センタ-南留萌支所・檜山農業改良普及センタ-檜山北部支所, 2007. [平成19年度新発生病害虫]いちごのキンケクチブトゾウムシ(新寄主). http://www.agri.pref.hokkaido.jp/boujosho/sinhassei/html/H19/1910.htm. (2009年11月10日確認.)
[2009a] 農林水産消費安全技術センター, 農薬登録情報検索システム. http://www.acis.famic.go.jp/searchF/vtllm000.html. (2009年11月10確認.)
[2009b] 農林水産消費安全技術センター, 登録執行農薬情報, 登録農薬有効成分の魚毒性・毒性一覧. http://www.acis.famic.go.jp/toroku/dokusei.htm. (2009年11月10日確認.)

2010/3/31