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林業試験場

『衛星データによる有珠山の降灰分布と森林被害の実利用モニター』

『衛星データによる有珠山の降灰分布と森林被害の実利用モニター』

Monitoring of forest damage and fallout distribution of Mt. Usu eruption using
satellite data for practical use

 林業試験場 加藤正人、菅野正人

Abstract:The road and the buildings collapsed by the Mt. Usu having erupted on 31 March 2000. Moreover, there was forest damage by the fallout of volcanic ash. The research purpose is grasping of the current state of the forest around the Mt. Usu, and making of the fallout distribution map and the forest damage classification map with satellite images combining forest GIS for practical use. These maps and information are opened to the public on the home page in Internet. Moreover, material was used for the fixation of the disaster restoration area on the site.

Keywords: Mt. Usu, Satellite data, practical use, volcanic ash, forest damage,

はじめに
2000年3月31日に有珠山が噴火したことにより、火口周辺の道路や建物が崩壊し、森林についても降灰による枯死などの被害があった。 今回、噴火に伴って起こる泥流・土石流等の二次災害の危険区域や荒廃地に関する情報を提供することによって被災地の森林整備対策を支援することを目的に、ホームページを立ち上げ、衛星画像と森林GISを利用して有珠山周辺の森林の現況把握、火山灰の降灰分布図と森林被害区分図を作成した。これら資料は防災担当課、胆振支庁などの出先機関、有珠土砂対策検討委員会等に提出し、災害復旧面積の確定などに使われた。


森林GISによる現況把握
有珠山周辺区域については、森林GISが整備されていなかったことから、関係機関から図面、森林簿を入手し、GIS化を行った。 図-1は、人工林・天然林区分図を衛星画像と重ね合わせて表示したものである。衛星画像との重ね合わせ表示により、森林の現況を容易に把握することが可能である。これ以外に、森林については、樹種別、林齢別、制限林普通林別と様々な属性で表示することも可能である。 今回の噴火口周辺の森林については、天然林が多く、また、民有林については普通林が多かったのが特徴であった。

降灰分布図の作成
衛星リモートセンシング推進委員会の活動としてフランスの人工衛星SPOTの画像提供を受け、解析を行った。図-2は2000年4月3日撮影のSPOT画像を基に反射輝度値で画像分類を行って作成した降灰分布図である。東と東北東方向に噴煙が流れていったのが確認できる。噴火直後の現地調査から黒色で5mm以上、濃い灰色で5mm以下、薄い灰色で1mm以下の降灰があったものと推定される。

森林被害区分図の作成
Xs画像は、可視光線から近赤外線までを3つのバンドで観測を行っている。この中で特に近赤外線の反射輝度値によって葉緑素の含有量の違いを識別し、森林の被害状況を推定することができる(1)。
図-3は5月16日撮影のSPOT衛星の反射特性を示したものである。森林被害の有無によって近赤外域(Xs3)での反射輝度値に大きな違いが見られる。反射輝度値を基にクラスター分類を行い被害区分図を作成したところ、噴煙域周辺に被害区域が集中していた。 6月中旬と8月上旬、胆振支庁の担当者とともに有珠山周辺の現地調査を行い森林被害の検証を行った。図-4は西山火口付近の様子である。火口付近以外は植物の開葉が進んで緑に覆われていたが、火口付近は噴煙の影響で窪地に沿って広葉樹天然林が縞枯れのように帯状に枯れていた。特に火口付近の激害区域では、広葉樹を中心に枝が折れ、樹幹に傷が入っている状態であった。 現地照合の結果、噴煙下、激害については森林が枯死し、中害については森林は生存しているものの火山灰が付着して幹が折れるなどの被害を受けていた。微害については森林被害は見られなかった。 この調査結果を基に、被害区分図から微害林分の削除と森林区域のみを抽出して修正し、森林被害区分図(図-5)を作成し、森林被害面積を算出した。森林被害面積は、国有林34.9ha、民有林49.8haで計84.7haとなり、災害復旧面積として現場で活用され、高い評価を得た。

まとめ
森林GISや人工衛星データを活用することで、立ち入り禁止区域内の森林現況を把握したり、被害状況を推定することが可能であり、それらの情報を災害対策に生かすことができた。また、これらの情報は有珠山土砂災害対策検討委員会や防災担当機関に提供するとともに、ホームページ(http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/news/usu/usukohai.htm)を利用して一般に公開した。

掲載論文
(社)日本リモートセンシング学会第30回学術講演会論文集(2014年4月、119ページから120ページ)

引用文献
(1)日本リモートセンシング研究会:図解リモートセンシング:18-19, (社)日本測量協会、1992年