法人本部

第13回 地震と津波の脅威

地震と津波の脅威-東日本大震災における道総研の取り組み-

2011年5月31日(火)
環境・地質研究本部 地質研究所  田近 淳(たぢか じゅん)
建築研究本部 北方建築総合研究所 高橋 章弘(たかはし あきひろ)

こんなお話をしました

(田近より)
    大災害の発生とともに、地質研究所は緊急調査に向けて行動を開始します。東北地方太平洋沖地震の発生を受けて、私たちは北海道沿岸での津波の調査を実施しました。海岸や河川に残された痕跡から高さを把握するとともに、津波の流動方向や津波堆積物の観察など、地質学的特徴についても検討しました。調査結果は今後の防災対策に向けての資料となるとともに、地層に記録された過去の津波(古津波)を復元するためにも貴重な情報となります。現在は過去への鍵、過去は未来を考える鍵というわけです。

地震の発生後、初動調査本部を立ち上げるとともに、情報収集と調査準備を行い、津波注意報解除を待って調査を開始しました。調査は札幌管区気象台、北海道大学地震火山研究観測センターと連携して実施しています。第1次は3班、順次補完のため3班が調査にあたりました。

調査の結果、津波の高さは襟裳岬付近から十勝・釧路海岸で3~4mと高く、当所の調査で最も高い値(遡上高)は、釧路市音別町キナシベツの5.6m(潮位補正なし)でした。キナシベツでは、海岸の砂丘の頂部まで津波が達するのが観測されました。漁船や水産施設の被害も大きく、大津漁港などでは多くの漁船が打ち上げられるなどの被害が出ています。また函館などの市街地では津波は周辺より高く、海岸地形の影響が考えられます。

今回の巨大地震津波は、869年貞観11年地震津波(貞観津波)の再来か、といわれています。産業技術総合研究所などの研究によれば貞観津波の津波堆積物といわれるものが霧多布湿原などの泥炭層の中から見つかっています。この過去の津波堆積物と今回の津波堆積物の厚さや分布を比較すると、今回の規模のほうが小さいということがわかりました。この結果は過去の津波イベントの評価にも役立つものと考えています。

東北地方太平洋沖地震は、海岸の低地をさかのぼる津波の身の凍るほどの恐ろしさを、私たちに刻みつけました。この教訓を北海道でも生かすために、地質研究所としても今後様々な研究活動を展開したいと考えています。

最後に、この震災で犠牲になられた方のご冥福をお祈り致しますとともに、被災した方々に心よりお見舞い申し上げます。


(高橋より)
   平成23年3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災は、宮城県三陸沖(宮城県牡鹿半島沖)を震源とする日本観測史上最大のM9.0、震源域は岩手県沖から茨城県沖まで広範囲な発生域となりました。この地震に伴い10mを超える大津波が発生し、死者および行方不明者が3万人を超えるなど、東日本を中心として未曾有の被害をもたらしました。

この地震発生により、被災した宮城県から北海道に対して、震災建築物応急危険度判定士の派遣支援の要請がありました。北海道からは二次にわたり20名(4月16日~18日・10名、4月19日~21日・10名)が派遣されました。道総研建築研究本部では職員3名を派遣し、さらに派遣直前に実施したガイダンス(判定時の技術的な視点や留意点等をレクチャー)の講師を担当するなど、積極的に震災対応を行いました。

派遣地となった宮城県多賀城市は、仙台市の北東約15kmに位置し、仙台市に隣接する人口6万2千人ほどの都市です。震度5強による地震動や津波浸水により約1万5千人が被災し、その中でも沿岸域は大津波により約200人の犠牲がでました。

判定活動では、市対策本部において判定地域の割り当て、調査票の記載方法等の説明を受けた後、判定地域までバスで移動し、応急危険度判定を実施しました。判定地域は新田・山王・南宮・桜木地区で、木造の戸建や集合住宅が9割以上を占める地域でした。北海道班は759棟の判定調査を行い、判定結果は危険8%、要注意20%、調査済72%で、多賀城市の判定棟数の約5割を担当しました。

判定対象建物は、昭和56年の建築基準法改正以降の建物がほとんどを占めていたことから、全壊に至る建物は殆ど見あたりませんでした。建物の被害状況は、外壁の大きな損傷や構造的な被害を受けているものはそれほど多くはありませんでしたが、屋根瓦や外壁の落下、内壁の亀裂、浴室タイルの破損、ブロック塀の倒壊、電柱の傾斜等が散見されました。

今回の派遣は、気温が低く、強風や降雨があるなど悪天候の中での判定活動となったため、各判定士にとって肉体的に厳しいものとなりました。しかし、被災した方々に対して、被害内容の説明や技術的な対応方法等について十分な説明を行ったため、判定活動に対して感謝の言葉をかけられることも多く、緊張感が持続されて充実した判定活動となりました。

また、研究機関として、今後、いつでも協力が可能となるよう、恒常的な心構えと準備等が必要なことを認識させられた判定活動でした。

質問にお答えします

 

質問

回答

会場からの質問
 私たちがするべき対策は何ですか?  日頃から、大規模地震が発生することを想定し、建物の安全性を知るために耐震診断の実施や、安全性を高めるために耐震改修を行いましょう。また、建物内においては、家具の固定、散乱物による怪我防止のために室内の安全な場所の確保、避難用品の準備などの震前対策も併せて実施しましょう。

さらに詳しく知りたい方は・・・

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ご協力いただきました

ドトールコーヒーショップ北海道庁店
(財)札幌市防災協会