法人本部

第23回 地球温暖化と農作物

地球温暖化は北海道の農作物にどう影響するか

2012年3月23日(金)
農業研究本部 中央農業試験場 中辻 敏朗(なかつじ としろう)

こんなお話をしました

 地球温暖化は世界の人々の強い関心事の一つとなっています。日本の平均気温は過去100年で1.1℃上昇しており、一昨年(2010年)の夏の猛暑に代表されるように、1990年以降、特に高温年が頻出しています。北海道も例外ではありません。

 道総研農業研究本部では、地球温暖化が道内の各種農作物に及ぼす影響について、近未来の2030年代を対象に予測を行い、今後想定される課題への対応方向を検討しました。

 予測の前提となる温暖化気候データには、「気候変化メッシュデータ日本(Yokowazaら、2003)」を利用しました。このデータによれば、2030年代の道内の月平均気温は現在よりも1.3~2.9℃(年平均2.0℃)上昇し、主要な農耕期間である5~9月は平均1.8℃上がると見積もられています。年間降水量は現在の1.2倍、農耕期間の日射量は現在より15%減少と予測されています。

 このような2030年代の気候が作物へ及ぼす影響について、水稲の例を紹介します。

 水稲は気温に敏感な作物です。気候登熟量示数という指標を用いて水稲の収量を予測したところ、温暖化で稲の穂が出る時期が早まり、現在よりも安定した気象条件で実ることができるため、現在よりも6%ほど増収すると見積もられました。

 

 温暖化は米の美味しさにも影響します。アミロース(でんぷんの仲間)含量が少ない米は粘り気が強く、日本人好みの食感となります。米のアミロース含量は穂が実る期間の気温が高いほど少なくなる傾向にあるので、2030年代にはその量が現在よりやや低下し、北海道のお米がいっそう美味しくなることが期待されます。

 ただし、良いことばかりではありません。詳しい解析の結果、2030年代の冷害発生の危険度は現在とあまり変わらないことが分かりました。当面は、北海道の宿命とも言える寒さに対する備えも必要です。

2030年代に向けて各種農作物に共通して必要な対応を、品種開発と栽培技術の2つに分けて概説します。

 品種開発においては、第一に、高温でも収量や品質が低下しない品種の開発が必要です。特に、小麦やてんさいはもともと涼しい気象条件を好む作物なので、これらをいかに高温に耐えるようにしていくかが重要です。また、この研究で用いた気候データでは、2030年代には雨が増えると予測されています。高温・湿潤な環境では、一般に病気や害虫の多発が予想されるので、各種病害虫に対する抵抗力が従来にも増して必要です。その一方で、水稲に代表されるように、2030年代にも冷害の危険性は残るため、寒さに耐える性質も求められます。

 栽培技術の対応方向としては、温暖化で各種作物の生育の進み具合が変わることから、種まきや収穫時期の変更、肥料のやり方の見直しなどが必要になるでしょう。また、畑作では雨量の増加に備えて、これまで以上に畑の水はけを良くするための土地改良などが求められそうです。

質問にお答えします

質問

回答

会場からの質問
温暖化により米以外のおいしい作物には何が有りますか。 今回検討した8つの作物のなかでは、温暖化によって食味の向上が期待される作物は米だけでした。ただし、一般に、作物の食味は、品種改良や栽培技術の改善によって良くすることができます。道総研農業試験場としては、今後の温暖化気候下でも食味が低下しない品種の開発や栽培技術の改善などを通して、これまで通り、北海道のいろいろな作物のおいしさを高め、付加価値を高めていきたいと考えています。
稚内天塩の地域等で10~20年後、小麦耕作は可能ですか。
また、南区南沢東海大学隣接地で、柿(渋柿)竹の栽培可能でしょうか。
稚内で小麦、札幌で柿や竹の栽培ができれば夢のある話ですが、10~20年後では実現は困難かと思われます。今回の研究で用いた気候シナリオでは、10~20年後には農耕期間の平均気温が道内平均で1.8℃上昇すると見込んでいます。ただし、これはあくまでも「平均」であり、気温の年次変動幅についてはよく分かっておらず、寒い年もあれば、暑い年もあると予想されます。したがって、産業としての安定生産(冷害への備え)を考慮すると、10~20年後の近未来であれば、現状の農業地帯区分(宗谷地方は酪農、十勝・北見地方は畑作、道央は水稲、といった区分)については、当面は小さな変化にとどまると思われます。

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