
第27話 直播栽培に向くお米「えみまる」
近年、農業従事者の高齢化や農家戸数の減少が進んでいます。将来にわたってお米を安定生産し続けるには、規模の拡大や作業の省力化が不可欠です。田んぼに直接種を播く直播(ちょくはん)栽培は、苗作りが不要な省力栽培技術として北海道内での栽培面積が増え続けており、令和5年度には4,898ha(東京ドーム約千個分)と道内水田面積の5%を占めるようになりました。この直播面積の拡大に貢献している品種が「えみまる」です。

北海道における直播栽培は、播(は)種適期が5月中旬と年によってはまだ肌寒い時期になるため、種を播いた後の気温が低い場合でも十分に芽が出て生育することが重要となります。この特性を「低温苗立(ていおんなえだち)性」と呼びます。また、直播栽培では、あらかじめ苗を育てて田んぼに移す通常の移植栽培よりも生育が遅くなるため、中生(ちゅうせい)品種が栽培可能な道南地域を除いて、生育期間の短い早生品種が用いられます。以前は早生(わせ)・良食味の「ほしまる」が直播向け品種として主に作付けされていましたが、低温苗立性が不十分であり、収量性も十分とは言えませんでした。そのため、直播栽培をさらに普及拡大させるためには、当時の主力品種「ほしまる」よりも優れる低温苗立性を持ち、生育期間が短く、収量も確保でき、食味の良い新品種が求められていました。

「えみまる」は、2008年に「緑系07216」を母親、「上系06181」を父親として交配を行いました。母親はホクレン農業協同組合連合会との共同研究により育成された低温苗立性の良い系統で、父親は早生で耐冷性・耐病性の強い系統を用い、直播栽培に必要な特性を併せ持った品種の育成を目標として選抜が進められました。その後、生産力試験はじめ各種特性検定試験や優良品種決定現地試験などを行い、2018年に北海道の優良品種に認定されました。

「えみまる」は低温苗立性が明らかに「ほしまる」より優れています。このため、春先に遭遇しやすい低温条件下でも苗立数を確保しやすいと言えます。また、出芽揃いが良好なため、効果的なタイミングで除草剤が使用できることや、出芽するまでの落水(らくすい:田んぼの水を抜くこと)期間を短縮できることにより肥料の損失が軽減できることなど、より適切な栽培管理が可能となります。また、「えみまる」は「ほしまる」並に生育期間が短く、収量性は同等以上です。さらに品質上問題となる乳白・腹白の発生は少なく玄米品質も良好です。最近は高温傾向ですが、北海道においては依然として冷害に遭遇するリスクが想定されます。「えみまる」の幼穂が形成される穂ばらみ期の耐冷性は「ほしまる」や現行品種と同じく“やや強”と優れています。

また、温暖化により重要性が高まっているいもち病に対して、「えみまる」は現行品種に比べ抵抗性が向上しており、安定生産に向けたリスク軽減が期待できます。食味については、直播栽培した「えみまる」は移植栽培の「ななつぼし」並の評価が得られており、既にスーパーでの袋売り・業務用など、いろいろな場面で使用されています。
これらの特性により、主に「ほしまる」で直播栽培に取り組んできた道北・道央地域で普及が進んでおり、北海道米の安定生産に貢献しています。
[2025年10月21日 公開]
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