第5回 エゾシカを食べる

シリーズ講座   北海道の生物多様性と私たちの暮らし
~ 害獣・希少種・外来種とのつきあいかた
エゾシカを食べて生物多様性を守る

2010年10月13日(水)
環境・地質研究本部 環境科学研究センター宇野裕之(うの  ひろゆき)
森林研究本部 林業試験場明石信廣(あかし のぶひろ)

こんなお話をしました

(宇野より)
 DSC_0284.JPG  エゾシカの生息数は、1980年代に道東地域を中心に爆発的に増加しました。1990年代以降道北の日本海側、道央や道南地域にも分布を広げ、これらの地域で農林業被害や交通事故などが増加し大きな社会問題となっています。道東地域の2009年度の生息数は約32万頭、北海道全体では約50~60万頭ではないかと推定されています。

なぜ、エゾシカの数は増えたのでしょうか?その主な理由として、1) 高い繁殖力、2) 生息環境の改変による餌資源の増加、3) 冬の温暖化・豪雪年の減少による死亡率の低下、4) 捕獲圧の低下(狩猟者の減少)、などが考えられています。人間による捕獲がない場合、エゾシカは年に約20%の割合で増えること、つまり3~4年すると元の生息数の約2倍に増えることが知られています。

人間とエゾシカとの軋轢を軽減するためにも、森林など生態系を保全していくためにも、増えすぎたエゾシカの個体数(密度)を適正なレベルまで減少させること~個体数管理が必要です。「エゾシカ保護管理計画」に基づいて、現在、この個体数管理に取り組んでいます。

また、エゾシカは大変優れた「自然資源」です。鹿革は、なめされてバックスキンやセーム皮になり、様々な製品に加工されます。鹿肉は、高タンパク・低脂肪のヘルシーな食材です。豊富なミネラル、特に鉄分が多く含まれており、鉄分が不足気味な日本人には理想的な肉です。ヨーロッパでは宮廷料理にも使われ、旬の食材(ジビエ)として人気があります。

北海道は、安全・安心なエゾシカ肉を供給するため、衛生処理マニュアルを全国に先駆けて作りました。また、(社)エゾシカ協会が安全・安心な食肉処理を行っている施設を推奨する制度を設けています。

私たちは、エゾシカを「山の恵み」として、ありがたくかつおいしく頂くことが重要です。「食べる」ことが森林を守ること、北海道の「生物多様性保全」につながることを知っていただけたら幸いです。

(明石より)
 DSC_0280.JPG  シカが増えすぎると、森はどうなるのでしょうか。草食動物であるシカは、草本植物、木の葉や枝、樹皮などを食べますが、森林は緑におおわれていても、大きくなった樹木の葉は、シカには届きません。シカが増えすぎて、シカが届く範囲の葉をすべて食べてしまうと、外から見れば緑の森ですが、シカにとっては、食べるものがありません。

森林の大きな樹木も、いずれは枯れてしまい、森に穴の開いたところができます。これを「ギャップ」と呼んでいます。ギャップでは、太陽の光が森の下のほうまで差し込み、ここで光を浴びて次の世代の木が育ちます。小さな芽生えが大きくなるには、ギャップが必要です。

シカが増えすぎると、樹皮を食べて枯れる木が多くなります。小さな木は食べられて成長できません。こうして、ギャップが増えて、いずれは森林とはいえなくなってしまいます。

小さな草本はシカが食べられる高さにしかないので、もっと大きな影響を受けています。シカが非常に多い状態が続いている洞爺湖中島では、かつて記録された植物の多くが見られなくなっていますが、その多くが草本植物です。他の地域では、どんな植物が生育しているのか記録されているところは少なく、変化があっても知ることもできません。

シカの影響は、明らかにシカが増えすぎてしまった森林だけでなく、北海道の多くの森林にも、多くの人が気付かないうちに広がってきています。あまりシカの影響を受けていないと思われていた広葉樹の森でも、シカが入れないような柵を作ってみると、明らかに植生が変わってしまったところがあります。私たちが普通の状態と思っている森も、少なからずシカの影響を受けて成り立っていたのです。

人工林、すなわち人が木を植えた場所では、どのくらいシカが木を食べたかを数えることができます。北海道の調査結果から、トドマツやアカエゾマツに比べてカラマツや広葉樹は食べられやすいこと、日高や釧路、根室などで被害が多いことが分かっています。自然の森でも、これらの地域の広葉樹に特に影響が現れています。

エゾシカがかつてないほどに増加し、このままでは、いくつかの植物が絶滅したり、森が少なくなってしまったりするかもしれません。森が変わることは、他の多くの生き物にとっても大きな問題です。私たちは、北海道の森と生物多様性を次の世代に受け継ぐために、人の手でシカの数をコントロールすることが重要だと考えています。

質問にお答えします

 

質    問

回    答

先月、三國清三シェフが「北海道のエゾシカは、最高級のシカ肉」であり、「中国への輸出を開始する」と言ってました。
エゾシカ肉流通のネックとなっているのは何ですか

部位にもよりますが、家畜と比較して価格が高く、需要が伸び悩んでいます。
また、認証制度の普及・周知が十分ではないです。

 

さらに詳しく知りたい方は・・・

  動画北海道公式チャンネル

  案内チラシ

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