No.1 1987.12.20

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

刊行にあたって

 北海道立農業試験場は、北海道庁所管の7農業試験場、2畜産試験場、および植物遺伝資源センターの10か場で構成しています。
 私どもは、最近の農業情勢とりわけ農畜産物の輸入自由化問題にも大きな関心を払っていますが、それと同じ位に、農家の皆さんや現地の指導者、行政担当者に役立つ技術を、より早くご提供したいと考え努力しております。その結果、毎年たくさんの新技術を発表しておりますが、とかく試験場の刊行物は専門的で一般になじみが薄いものになりがちです。
 そこで試験場の研究活動について、既刊の刊行物とは違った視点からとりあげ、関係ある方々へ幅広くお伝えしたいと考えました。LetterHAGRES(レター・ハーグレス)は、いままで刊行していた情報誌「技術連絡情報」を引き継ぎ、号数を改めて発行するものです。
 農業試験場は農業技術情報の重要な送り手ですが、その役割をこの「レター」にも託したいと思います。

(中央農試場長 森 義雄)

*HAGRESは、北海道立農業試験場の英文名:HokkaidoprefecturalAGRicuItural ExperimentStationsからつくった、いま一つの名称です。

研究の成果

バイオへの挑戦

~国内初の葯培養による水稲品種の誕生~

 バイオテクノロジーの一つの手法である葯培養により、味が良く、寒さにも強い水稲品種「上育394号」が育成され、普及に移されることになった。
 従来、北海道米は「まずい米」のレッテルがはられ、府県の稲作に比較して高率の減反を強いられ、将来の北海道稲作に対して、強い危機感があった。
 そこで道立中央、上川、北見、道南各農業試験場の稲作部門が結集して、昭和55年から「優良米早期開発プロジェクトチーム」を作り、良質・良食味米の早期育成に着手した。
 一般に交雑育種の場合、雑種第一代は両親の遺伝子を一組づつ持っており、F2以降世代を重ねるにつれて分離し、目的とする形質が遺伝的に固定するまでには、交配してから10年程度が必要である。
 このため、冬期間の温室や鹿児島・石垣島などの暖地を利用して、世代促進を図って来たが、今までの方法を2年短縮出来る程度であった。つまり一年で三世代を促進させることが可能となったが、この方法での早期開発はこれが限度であった。
 しかし、せっぱ詰った北海道米を府県米に比肩させるためには、より良い米を早急に育成することが必要であり、葯培養の手法がとり入れられることになった。
 葯培養とは、おしべの先端にある花粉形成器官である葯をとりだし、人工的に培養し植物体を得る方法である。普通には子供は両親から一組づつの染色体を受け継いでいる。しかし葯(花粉)は一組の染色体しか持っていない。したがって、普通の交雑では、優性遺伝子に隠れてしまう劣性の形質が表現型として現れてくる。ただこの場合に、染色体が一組しかないために、このままでは子孫(種子)を得ることが出来ない。このためコルヒチンなどの薬品処理によって、染色体を倍加してやる。そうすると全ての遺伝子が安定したホモ接合体となるため、迅速に目的の形質を持った純系が得られることになる。
 この方法に着目し、昭和55年~56年、冬期温室で育成中の「しまひかり」と「キタアケ」のF1植物の葯をとりだし、試験管内で培養を行った。得られた植物体について、通常の育種における後期世代の検定に準じ、農業試験場及び現地試験を積み重ね、昭和61年に優良品種に決定した。
 交配から品種登録まで6年の期間は、通常の育種法より4~5年、暖地利用法に比較しても2年短縮することが可能となった。本手法により育成中の有望系統は、現在粳・糯各2系統が農業試験場段階で検定中であり、バイオテクノロジーが育種技術の中で生かされた先駆と言えよう。

(上川農業試験場)


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植物遺伝資源の保存と管理

 栽培植物は、その長い歴史の中で人間が選抜や改良を加えてきたため、野生種が持っている遺伝的な多様性を失ってきた。その結果、人間に好都合の遺伝子が集積される半面、人為的な保護がなくては生存できない栽培植物が増加した。また経済性が低いものは淘汰され作物の単一化が進み、その弊害が生じている。
 これらのことから、作物の品種改良にとって栽培植物の野生種や在来種、あるいは失われた作物などが持つ遺伝子の重要性が、改めて認識されるようになった。
 北海道はわが国の主要な食糧基地であるが、最北端に位置し、寒地特有の作物・品種が栽培されている。これら作物の品種改良には寒地に適応する遺伝資源が不可欠でありこの確保のいかんが今後の品種改良の鍵となる。
 道立農業試験場では従来から、国内はもとより海外からも遺伝資源の導入に努めて、品種改良に大きな成果を上げてきた。しかし、これまではそれぞれの育種研究室が個別に収集し管理保存していたため、系統だった保存や情報提供ができない状態であった。
 このような背景から、昭和61年4月、滝川の旧北海道立中央農業試験場原原種農場を改組して、北海道立植物遺伝資源センターとして発足させ、温室、バイテク実験室、種子貯蔵施設などを新設した。
 体制の整備に伴って、道立農業試験場が61年現在保有している14,000点余の植物遺伝資源を、近い将来には種子系36,000点、栄養系6,000点に拡充する計画である。これにより、可能な限り寒地に必要な遺伝資源の確保に努め、国の機関が強力に推進するジーンバンク事業の一端を担うことになろう。
 ここで、植物遺伝資源センターの運営計画について述べる。

[保存体制]

 保存の基本的考え方は、国際植物遺伝資源理事会(IBPGR)の指針を尊重し、農林水産省ジーンバンクに準じて3区分保存の体制をとる。
ワーキング・コレクション:収集担当研究室で分類同定し、若干の特性評価を兼ねて増殖する。有用な遺伝資源と評価されたものは、当センターに送付され保存される。
ベ一ス・コレクション:再生産用として極長期保存される。保存は室温-10℃、湿度30%に規制して実施する。また保存の安全保障のため、農林水産省ジーンバンクに委託保存の二重保存体制をとる。
アクテブ・コレクション:育種用・研究用に供されるもので、室温-1℃、湿度30%の条件で長期保存される。ただし、権利保護のための配布除外、保存量不足などにより供用できないものは除かれる。
 なお、種子系については、上記の体制の中で保存するが、栄養繁殖のものについては当面それぞれの場で継続して保存することにしている。

[管理業務]

 ベース・コレクション、アクテブ・コレクションの貯蔵された種子は次第に活力を失うので、定期的に発芽力を調査する。発芽率が許容限界に低下した場合は、再生産して新鮮な種子と更新する。
 ほとんどの自殖性植物の再生産は、植物遺伝資源センターで行うが、隔離栽培が必要な他殖性植物は、各試験場の協力を得て行う。
 遺伝資源を将来にわたり育種事業に利用していくためには、できるだけ多くの特性を調査し、これら特性情報が遺伝資源とペアになって管理される必要がある。
 特性調査は植物遺伝資源センターと各試験場担当研究室の協力分担によって進めるがこれら特性情報は所在情報とともに、近く発足する「道立農業試験場における情報システム」のネットワークを利用して、植物遺伝資源センターと各試験場ターミナルをオンラインで結び、コンピュータによって情報処理する計画である。

[当面の重要業務]

 植物遺伝資源センターが実施すべき急を要する業務は、道立農業試験場が保有している既存の遺伝資源の所在情報、パスポートデータなどを整理して情報化を図ること、及び10~20年の長期貯蔵種子の発芽検定と再生産である。これら業務に今後数年を要する見込みである。

(植物遺伝資源センター)

中央農業試験場農業土木研究室

稲作部の試験ほ場  今まで、土地基盤や農村環境に関する試験研究は、必要に応じ各種機関に委託されてきたが、その継続性、成果の蓄積、農業改良部門との連携などが必ずしも十分でなかった。そこで、61年4月、中央農試内に農業土木研究室が新設された。
 昨年度は、農業土木技術やそれに関連の深い文献を光ディスクに納め、検索できるシステムを開発し、現在、データを蓄積中である。本年度は、1,200件の文献を入力し、試験研究の助けにする一方、来年度から基盤整備関係機関の要請に応えて技術文献情報のサービスを開始する。
 試験研究について、土地改良と農業改良の連携が欠けがちだったことから、研究室と他部門との共同研究が開始されている。
 一つは「適正客土による泥炭地産米の食味向上試験」で、おいしい米を作るために泥炭地の水田を客土で改良しようとするものである。
 今一つは「土壌水分供給能並びに作物水分生理に関する試験」で、さまざまな土がどれだけの水を作物に与えられ、一方、作物がどれだけの水を欲しがっているかを調ベ、畑作物へのかん水技術の基礎資料を得ようとするものである。それぞれ「稲作部」「北見農試」との共同研究である。
 農業土木の研究成果は、農家に役立てるとき、補助事業などの実施を通じて生かされる場合が多い。現在、農業環境が厳しいこともあって、農業基盤整備事業はより地域に密着した方策を求められている。
 このようなことから、これからの研究は、行政との連携を図りつつ、施設を段階的に整備する技術の開発など、きめの細かい工学的な課題に取り組むことの必要性に迫られている。




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