No.5 1989.3.27

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

新しい機械化農業の展開

高畦全面マルチの機械作業  農業の機械化が粗放経営につながるものとされたのは、昭和30年代のことです。確かにトラクタが普及し始めた頃の機械は、細かな作業をこなすには十分なものではありませんでした。
 ところが現在の農業機械は、パワフルでかつ作業精度で非常に高い性能をそなえ、粗放化どころか手作業では及ばないほど高精度化しています。例えば、タマネギの移植は手植えよりも丁寧に植込み、根を傷めることがありません。活着性や初期生育に優れ、これが生産性を著しく向上させました。
 これまでの農業機械に要求されてきたのは、省力化と増収です。しかしこれからの機械化には、低コストでかつ良品質な農産物を生産することが求められています。この二つは相反するところがありますが、魅力あるテーマです。
 日本の農業には大型トラクタの導入はむつかしいとされながらも、今日の高度な機械化技術体系を確立してきました。今後はますます農作業の幅広い分野で、人間の集約的な作業にとって替わる精緻で正確な作業をしかも高速で処理できる、新しい農業の機械化が進められるに違いありません。

(中央農業試験場農業機械部)

研究の展望

機械化農業の発展方向

野菜の機械化栽培

 北海道農業の特長は経営面積の大きいことです。野菜作でも府県とは違ったスケールメリットを求めることができますが、そのためには育苗法、移植法であたらしいシステムが要望されます。
 昭和63年度には、畦を作りながらマルチングする機械と、それを合わせた移植、播種、収穫を含めた高畦全面マルチ栽培技術を確立しました。次の課題は大規模化に伴う技術整理です。近い将来、カルフォルニアと同じように、苗の育成農家と栽培農家に専業分化することも予想され、これまでとは視点を変えた研究が必要となります。

野菜の機械選別調整施設

 量から質へと需要の動向が変化しているなかで、野菜もまた高品質化が求められています。質が良くなければ買われないという時代になりました。これに対応するためには常に消費者に良い品を提供する体制を整えねばなりません。
 基本的には栽培技術の改善ですが、選別調整も重要な部門です。正確に選別して均質化し、商品性を高める必要があります。コンピュータ技術を組み込んだ選別機が開発されて、各種の野菜の選別に使われるようになりました。その性能にはみるべきものがあり、消費者の信頼を高めています。
 しかし、扱い量が少なくては、償却費が負担となることがあります。協業化を推進するなど、利用体制の整理が必要です。
 次の課題は、メロンやスイカ、ばれいしょなどの内部品質を破壊することなく検査選別できる方法の確立です。打音で判定するとか、CTスキャナで透視判定するなどが検討されています。近い将来、実用技術として登場するでしょう。

汎用コンバインの利用拡大

 米麦生産の収穫機械経費は、全機械費の約45%を占めています。低コスト化を望むとすれば、ここにメスを入れることになります。自脱型コンバインに替わって高能率化で経費を低減し、さらに、大豆など他作物に利用拡大して償却費を分化すれば大幅な低コスト化が可能になります。
 これまでコンバインの汎用化は、すべてを満足させることにはならず、問題が多いとされてきました。しかし、長い間の研究が実を結び、ようやく実用化に成功しました。米、小麦、大豆、ひまわり、そば、にまで広く利用できます。
 収穫は共同作業、あるいは請負作業で対応すぺきものです。利用面積を作目ごとに拡大することが一層低コスト化につながります。現在の汎用コンバインの刈幅(2.1~2.4メートル)は、圃場区画や移動のしやすさを考慮したものです。今後の利用形態をみて大型化を検討することになります。

穀類乾燥調整の高度化

 穀類の食味の良さは、粒揃いがよく均質であることと密接な関係があります。仮に水分15%で取引きされるからといって、平均水分が15%になれぱよいというものではなくむらなく乾燥調整されていることが肝要です。乾燥方法や乾燥速度をチェックせよといわれるのはこのためです。
 乾燥法を改めて検討するとともに、マイクロ波乾燥など新しい技術の導入についても考慮すべき時代です。豆類と水稲については、マイクロ波乾燥によって食味が良くなることが明らかになっており、その実用化の研究が進められています。

(中央農業試験場農業機械部)

研究室Now

育種の効率化と中間母本の作出をめざして

中央農業試験場生物工学部育種開発科

 バイオテクノロジーが農業に寄与できる分野は作物育種をはじめ種苗の大量増殖、病害虫の生物防除、有用微生物の利用など広範囲にわたっています。
 育種開発科は生物工学部の発足と共に62年4月に新設され、作物育種に適用しうるバイオテクノロジーの技術開発とその利用を目標に試験研究を進めています。現在は、畑作物、主に馬鈴しょ、豆類の細胞・組織培養、さらには水稲の葯・花粉培養の効率化に取り組んでいます。
 馬鈴しょでは道内主要品種のプロトプラスト(裸の細胞)から再生植物体を得ており、次のステップは栽培種と野生種の細胞融合による耐病性素材の作出、および遺伝子の解析、導入により形質転換植物を作るのが目標です。
 豆類は培養が非常に難しい作物ですが、これまでの実験の結果、小豆の上胚軸カルスから植物体を再生することができました。また、小豆のプロトプラスト培養系は国内外でまだ成功していませんが、当研究室では幼植物が伸びつつあります。目下、これらの技術を利用して病原菌毒素に対する細胞レベルでの選抜方法を検討中です。
 水稲の葯培養ではアルビノ個体の発生が多いという問題があります。遺伝子解析の結果、色素体DNAの欠失が深くかかわっていることがわかってきました。
 今後は、細胞培養、細胞選抜、葯・花粉培養などを育種の現場で使えるよう手法開発を行うとともに、遺伝子解析および導入により有用な中間母本の作出を進めていきます。

(夕張郡長沼町東6線北15号)


ハーグレス

試験研究と専門技術員室

 消費者ニ一ズの多用化・高級化が進み、農畜産物輸入の外圧がますます高まる中で、農業者は新作物の探索・導入、生産物の品質向上、産地形成、生産コストの低減などと果敢に取り組んでいます。
 一方、試験場も現在の、そして未来の農業者のニ一ズにこたえるべく科学技術の進歩を積極的に試験研究に取り入れて、新技術の開発で目覚ましい成果を挙げています。このような農業生産の現場と試験場とを結ぶパイプが専門技術員室です。
 専門技術員室にはそれぞれ専門の異なる数名の専門技術員が配置され、相互に密接な連携の下、様々な情報を携えて生産現場と試験場との間を活発に往来し、パイプとしての機能を果たしています。
 専門技術員は普及員を対象に、時には、普及員と一体となって農業者を対象に、試験場の研究成果の普及にあたります。また、農業や普及の現場の問題点や研究ニ一ズを収集・発掘し試験場に持ち込みます。それらが研究成果に反映されるよう,時には試験研究と密接に連携しながら技術開発にも参加します。
 より的確な現地指導や問題点の把握が必要な場合には、試験場の研究員に現地活動を要請し、その後の調査研究に協力します。
 このように専門技術員室は、試験場が地域の農業とともに進むための水先案内役も果たします。常に広い視野を確保するため、より多くの方々からの情報提供を求めています。

(中央農業試験場専技室)


研究の成果

大豆有効根粒菌の利活用

根について単粒  大豆は畑の肉と言われるほどタンパク質含量の高い作物です。そのため、養分の要求量も多く、1俵(60kg)の大豆を収穫するためには、約5kgの窒素分を必要とします。その過半を生み出しているのが、マメ科作物の根に共生している根粒菌という細菌の一種です。
 根粒菌は、マメ科作物から光合成産物をもらって、空気中の窒索を窒索化合物に変えそれをマメ科作物に供給します。大豆の場合、固定される窒素の量はha当り200kg以上、硫安に換算すると1tにも達します。
 同じ大豆に着く根粒菌にも窒素を変換する能力の高い菌・低い菌があることが知られています。今日まで、国内外で能力の高い根粒菌さがしが続けられており、その中で選ばれた特に優れた菌が有効根粒菌として利用されています。
根粒菌  一方、十勝の畑地帯のように大豆作付頻度の高い圃場では、すでに土壌中に根粒菌(土着根粒菌)が生息しています。その数は平均して土1g当り104程度です。この数は土壌条件が悪い場合(過乾・過湿など)に少なくなる傾向が認められました。
 また、大豆根粒菌は大豆以外の作物や雑草の根のまわりで増殖することができますので、いったん土壌に居付いてしまえば、長期間大豆を作付けしなくても、数が急激に減少することはないこともわかりました。
 このような圃場では、わざわざ根粒菌を接種しなくても充分根粒が着生しているように見えます。ところが、土着根粒菌の能力は、接種用に選抜された高能力菌と比べて低いことが多く、これが大豆収量の足かせになっている場合が少なくないことがわかりました。
根粒菌接種の有無による生育の差  それ故、収量向上のためには、能率の悪い土着根粒菌を高能力の菌に置き換えることが必要となります。しかし、新たに開畑した畑や、水田転換畑と違って、すでに土着菌の棲み付いている圃場では、根粒菌の接種効果が出にくいことが知られています。
 そこで、接種根粒菌の土壌中での生存力や土着菌との競合力などを検討したところ、大豆・1株当り109~1010(菌数)の接種を行うことが安全であると推定されました。 次に実際の圃場で、この量の接種を行いました。その結果、根粒の着生量には大差ありませんでしたが、1株に数百個着生する根粒のかなりの部分を接種した高能力菌に置き換えることができました。そして、置き換わった程度の大きいほど、収量増加が大きく最大20%近い増収を得ました。
 このように、高能力根粒菌の接種効果が明らかになりましたので、今後は、より少ない接種量でより効果の大きくなるような接種技術の改良を進めていく計画です。

(十勝農業試験場)





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