No.11 1991.3.30

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

これからの病害虫防除

ジャガイモ疫病発生予察システム  農業の歴史は病害虫との戦いの歴史であるとも言われています。より高い収量とより良い品質を求めて品種改良が進むほどに病害虫の攻撃も激しくなりました。
 第2次大戦後、化学的に合成された農薬が次々と登場し、これら病害虫に対して劇的な効果を示して、収量の増加と品質の向上に大きく貢献しました。病害虫との戦いに勝利の兆しが見えたかに思われた時期もありましたが、農薬の使用頻度や使用量が増加するのに伴い、農薬に抵抗性を持った病害虫の出現、天敵を含む自然の生物相の撹乱、加えて残留毒性による環境汚染などが新たな問題となって来ました。
 これまでの、農薬だけに頼る防除技術を見直して、生物的防除や耕種的防除を組み合わせた総合的な防除体系の組立が必要です。さらに、発生予察情報を活用して、病害虫の発生状況に応じた的確な防除を行うことにより、農薬の使用回数を少しでも減らしていくことが求められています。

(中央農業試験場病虫部)

研究の展望

病害虫の発生予察と防除

 現在、道内で発生が確認されている農作物の病害虫の種類を数えると、病害は216種、害虫は282種にもなります。ただし、この中には近年栽培が増加している花きや地域特産の新しい作物は含まれていませんから、それを加えると更に膨大な数に上るはずです。それらの病害虫に対して、適切な防除対策を行わないと予測された収量、品質は望み得ません。
 病害虫の防除対策を確立するためには、まず対象とする病害虫の生態を知る必要があり、それによって、いつ、どの様な手段を使えばよいかということが判ります。しかし、年によって、また場所によって病害虫の発生状況が大きく変動するのが普通であり、そのため、毎年の発生する時期や発生量を予察することで、効果的な防除が可能になります。
 発生予察と防除は、農業試験場における病害虫研究の昔も今も変わらぬ大きなテーマであり、かつ車の両輪のような一体の関係であるといえます。昭和25年に制定された植物防疫法に基づいて発生予察事業が各都道府県で実施されています。
 北海道でも病害虫防除所と各地の道立農業試験場が連携して、発生予察のための各種の調査を行って、予報や注意報などの情報を提供しています。また、より精度の高い、地域環境の違いに応じたきめ細かな予察が出来るように、試験研究を継続しています。
 病害虫の発生には気象をはじめ、天敵や作物の生育状況、地形や土壌などの多くの環境要因が複雑に関与しています。それらの関係を解析して発生期や発生量を予測する方法を開発するために、非常な労力と時間を必要とします。
 しかし、最近ではコンピュータを利用することで、多くのデータを取り扱い、より高度な解析が可能となりつつあります。また、気温や降水量はとくに病害虫の発生との関係が深いのですが、数年前からアメダスによる全道各地の気象データがリアル・タイムで中央農試のコンピュータに送信されて、手軽に使うことが出来るようになっています。 既にコンピュータとアメダス・データを利用した発生予察法が、水稲のいもち病とジャガイモの疫病について実用化の段階に入ろうとしています。ジャガイモの疫病では慣行の暦日による防除開始に比べて、年によっては1~2回の農薬散布が節減出来ると試算されています。
 また、ヒメトビウンカ(上川農試)、アカヒゲホソミドリメクラガメ(中央農試稲作部)大豆のわい化病とアブラムシ類(十勝農試)、タマネギの主要病害虫(北見農試)についての新しい発生予察法の開発が現在進められています。更に、過去30年以上に及ぶ発生予率事業において蓄積されている病害虫発生状況データベースの構築も今年度から始まって、試験場内外への提供を目指しています。
農業における情報化が進行する中で、精度の高い発生予察情報を迅速に現地に伝えることが出来る体制が整いつつあります。発生予察の充実と活用による的確で効率的な防除の実施が、今後クリーン農業を推進する上で不可欠なことです。

(中央農業試験場病虫部)


研究の成果

乳牛の脂肪肝

 乳牛の泌乳能力が向上するに伴い、養分摂取量と泌乳量のアンバランスが原因となりいわゆる生産病の発生が問題となっています。乳牛の生産病は職業病のようにみられていますが、最近では脂肪肝がケトージス、第4胃変位、起立不能症、繁殖障害、乳房炎等の引金になると考えられています。
ヒトの脂肪肝は肥満やアルコールの飲み過ぎにより起こりますが、乳牛では分娩後1~2週に発症することが多いようです。そこで、この試験では乳牛の分娩前後におけるエネルギーの摂取量をコントロールして、脂肪肝の発症要因を検討しました。その結果、乳牛の脂肪肝は、肝臓へ遊離脂肪酸が過剰に動員されることが主な原因と考えられました。
 乳牛ではエネルギーの摂取量が不足すると、体の脂肪が遊離脂肪酸として血中に溶け出てエネルギーの補給を行います。泌乳初期(分娩後8週まで)は養分摂取量が泌乳量に比べて少ないので、乳牛は体脂肪をエネルギーの補給に利用しています。
 しかし、高泌乳牛でみられるように大量に遊離脂肪酸が動員されると、肝臓はこれをエネルギーに変換しきれなくなり、肝臓に脂肪として沈着します。このような脂肪肝牛では、肝臓の異物排泄能を調べるBSP試験や、総ケトン体等の血液成分に異常がみられ、肝機能が低下していることが明らかとなりました。
 また、分娩後のエネルギー不足は、乳量および乳蛋白率の低下となって表れます。泌乳初期には体脂肪がエネルギーの摂取不足を補うので、エネルギー摂取量と乳蛋白率の関係はみられていませんが、その後は低栄養区で明らかに乳蛋白率が低下しています。
これは乳蛋白質の原料となるアミノ酸が、肝臓でエネルギー源として利用されてしまうためです。 このように、乳牛の泌乳能力が向上すると泌乳初期のエネルギー不足が深刻となり、脂肪肝等の生産病の発症につながります。そこで、泌乳初期には栄養価の高い粗飼料を充分給与するとともに、泌乳能力に見合う補助飼料を給与することが乳牛の健康と高品質牛乳の生産にとって大切です。

(根釧農業試験場)

研究室Now

農業生産環境の保全に向けて

中央農業試験場 環境資源部環境保全科

農業用水水質保全現地調査  環境保全科が発足してからすでに16年経過しました。この間、重金属による土壌汚染とその農作物への影響、工場排水による農業被害対策、肥料成分・家畜ふん尿等による周辺水系の富栄養化問題、そして大気汚染物質(SO2、NO2)の農作物への被害と指標作物による影響調査等の農業生産環境における環境保全に係る研究を担当してきました。
 現在は、重金属問題として、ニッケルの作物影響に対する環境基準の設定および優良耕地の保全管理指標を作るために、全道の重金属賦存量調査を実施中です。水質汚濁に関しては、農業用水および地下水の水質成分の実態把握、ならびに水田除草剤の環境への流出実態と土壌中における動態について調査研究を行っています。
大気汚染に関しては、SO2は工場等の脱硫黄装置の発達により排出量が低下していることから試験を終了することにしましたが、湿性大気汚染である酸性雨の土壌・作物への影響調査は継続して行っています。
以上のように、当科では農地の保全と安全な農作物の生産、そして周辺環境と調和のとれた農業の確立を目的とした試験研究を行ってきました。今後は農薬類の土壌・作物残留性とその動態を解析するモニタリング手法を開発し、また農耕地の養分フローに関する実態を把握することによって、さらに安全な農産物生産と環境保機能の向上を目標とする調査研究を計画しています。

(夕張郡長沼町)


ハーグレス

新得畜産試験場

アンガス種雌牛の放牧と乳牛総合試験牛舎  新得畜産試験場は、明治9年、札幌郊外の真駒内に創設された牧牛場を起源とし、その後幾多の変遷を経て、現在では肉牛・乳牛を対象とした大家畜の総合試験場として、北海道の畜産の発展に技術研究で先導的な役割を担っています。
 肉牛については、北海道の草資源を高度に利用した低コスト・高品質牛肉生産をめざして、草地・飼料作物・育種・飼養・衛生・肉質などに関する総合的な試験研究を実施しています。また優秀な種雄牛を生産者に提供するためアバディーアンガス種、ヘレフォード種の直接産肉能力検定も実施しています。
 乳牛では、十勝・網走に代表される畑地型酪農における低コスト・高品質牛乳の生産技術を確立するため、TMR(混合飼料)の給与法や乳房炎の防除法などの研究課題のほか、乳、肉牛共通の受精卵移植技術を発展させた体外受精や胚の性判別、モノクローナル抗体の作出などバイテク研究にも積極的に取り組んでいます。

(上川郡新得町)





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