No.12 1991.7.30

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

リモートセンシングの将来

秋小麦収量推定図  人工衛星から見た、暗黒の字宙を背景にうかぶ青い地球の姿は、人々の字宙観に大きなインパクトを与え、「かけがえのない地球環境」を認識する先駆けとなりました。 そして、1972年にアメリカが打ち上げたランドサット衛星は、185km四方という地表広い範囲を一度に写し、くり返し観測されるデータによって、時間的な変化のようすを画像に描くものでした。しかも、観測データはだれでも自由に買えるなどその活用にとって面期的な利点があったため、地理、地質、農業、林業、土木、測量などあらゆる分野で宇宙から地表を観測(衛星リモートセンシング)する推進力となりました。アメリカが行ったソ連の小麦の収量予測は、農業分野における初期の成果として、よく知られています。
 日本で農業分野に利用されるためには、雨や曇のためにデータの得られる回数が少なく、また圃場が小さいことから精度のよい解析ができないなどの難しさもありますが、北海道は耕地の規模が大きく、比較的条件に恵まれているといえます。衛星センサーの地上分解能は、1号機の80mから4号機の30m、さらに、1986年打ち上げのフランスのスポット衛星では20mと格段に向上してきました。また、1990年代には全天候型のレーダーや、より観測波長の多いセンサーを積んだ衛星の打ち上げが数多く計画されており、農業における応用分野も飛躍的に拡大してゆくことが期待されています。

(中央農業試験場農芸化学部)

研究の展望

リモートセンシングと土地情報

 近年、FA0やEC諸国などにおいて土地利用の評価に関する研究が活発化しています。
 その背景として、地球環境問題をからめたLISA(低投入持続型農業)の概念の登場、先進国の生産過剰対策として粗放化農業政策がとりあげられるなど、土地利用の評価・再編成を必要とする諸問題があげられます。
 北海道においても、品質向上・低コスト化の要請に加えて、肥料・農薬の使用量の削減を求める声があり、気象・土壌・地形、交通などの立地条件を生かした、新たな適地適作戦略のための研究が求められています。
 コンピューターを用いて土地情報のデータベース化、加工、評価をおこなう仕組みを地理情報システム(GIS)と呼びます。1980年代後半から日本の地方自治体レベルでも導入されるようになりましたが、GISの運営にあたってデータの入力・更新に莫大な費用がかかり、土地情報をいかに効率よく安上がりに収集するかがポイントになります。
 そこで、人工衛星から地上を観測する、衛星リモートセンシングの出番となります。ランドサット5号機に例をとると、東西185km×南北170kmの地域をわずか25秒で観測するという広域・同時性を持ち、16日周期で同一時刻(午前9時40分)に観測する時系列データを送ってきます。また、コストの点では1回の観測データ(可視光線から熱赤外線までの7つの波長帯のセット)の入手価格が14円/km2となります。これは、既存の地形図からデジタル標高データを作成するコストの100の1以下にあたり、コンピューターで利用できる土地情報としては最も割安な情報源です。
 ただし、実際には曇りや雨の日があるため、雲量ゼロに近い農耕期間中の衛星画像は、年3回程度しか得られていません。現状では、単年度の作物生育を時間を追ってみるような使い方は難しく、1990年代前半に予定されている観測衛星の増加に期待がもたれます。
 わが国における農業分野へのリモートセンシングの応用は、主に国の研究機関が中心となって行われてきました。有珠山噴火時の降灰分布調査に用いたのが最初で、実用的な成果があがってきたのはこの10年といえます。
 データ処理の流れとしては、通常、はじめに土地被覆分類を行い、土地利用状況などの情報が得られます。さらに、分類結果から作物あるいは土壌だけを抽出し、分光反射特性による区分を行います。作物の場合は、おもに可視と近赤外波長域を用いて、バイオマスに関する情報を得て、冷害や干ばつ、病害虫被害の解析に利用しています。
 土壌の場合は、可視域の反射率と腐植含量の関係、二つの時期の中間赤外反射の差と有効水分量、などの知見が得られています。しかし、これらはまだ1事例の解析にとどまっている例が多く、今後はGISを用いて地形データや土壌図、メッシュ気象、行政区分等を衛星画像に重ね合わせることによる土地情報の統合、解析の高度化、効率の向上を目指す必要があります。
 道立中央農業試験場においても、衛星画像解析とGISを統合したシステムが、農業試験研究情報システム(HARIS)整備の一環として平成2年度に導入され、道央転換畑における小麦収量と土地条件の関係解析、畑地の保水・排水能地図の作成などの課題に取り組んでいます。

(中央農業試験場農芸化学部)


研究の成果

菜豆のアファノミセス根腐病

~その病原菌と耕種的防除対策~

 菜豆(インゲンマメ)の根腐病は、菜豆の病害の中で近年もっとも発生の多いものです。この病害はフザリウム菌によってひき起こされ、6月下旬から根が赤褐色に腐敗し下葉も黄化して大きな収量減をもたらします。この菌は土壌で伝染し、なおかつ土壌中で長期間生存するので、防除が大変難しい病害です。そのため、本病に対する研究は少なく、その防除対策について早急に検討する必要がありました。
 ところが、最近、十勝地方に発生した根腐症状はこれと異なり、根が水浸状に腐敗するものが多く見られました。6月下旬には根部の腐敗により地上部の萎ちょうや枯死がみられ、非常に大きな減収となります。これらの発病株からアファノミセス菌が分離され、接種試験をおこなったところ強い病原性を示しました。本菌によるインゲンマメの病害は日本では報告がなく、新発生の病害であることから「インゲンアファノミセス根腐病」と命名しました。
 十勝地方における本菌の分布状況は、20市町村中13市町村にわたり、かなり広域に分布していることがわかりました。本病は生育初期から発生し、激発すると圃場は廃耕に追いこまれてしまいます。発病してからでは蔓延を食い止めることが難しいため、その防除対策は予防的な手段で行えないかと考えました。
 アファノミセス菌はその蔓延に遊走子という運動性をもつ胞子が大きく関与しています。この遊走子の運動性を抑制することで発病を最小限に食い止めることができます。近年アメリカでアンモニア態および硝酸態窒素が遊走子の運動を抑制するとの報告がなされ、本菌に対しても室内試験でこれらの効果を検討したところ、いずれも運動性を強く抑制しました。
 そこで、実際に発病圃場を使って窒素肥料を施用し、発病抑制効果を検討してみました。通常の作条施肥に加え、窒素肥料(硫安、尿素または硝酸石灰)を播種前に作土全層に10kg(N量)/10a施用したところ、いずれも発病の抑制が見られました。土壌中のアンモニア態および硝酸態窒素量の推移を調べたところ、10kg(N量)/10aの施用で室内試験で得られた抑制量のレベルを十分保つ量でした。
しかし、播種時の表面施用との組合せでは、抑制効果が見られない場合がありました。これで、同じ窒素10kgでも作土層中に均一に施用する全層施用の方が安定的に抑制効果を発揮できることがわかりました。収量は、発病が抑制されたことと肥料的な効果によって、無施用区に比べ増加しました。
 この方法は病原菌を殺すという薬剤的性格のものではなく、菌の運動性を抑制することによって蔓延を防ぐもので、総合的な防除の中の耕種的対策の一つと考えています。またフザリウム菌に対する本法の効果は残念ながら低いようですので、アファノミセス菌の発生圃場が対象となります。両菌が混発する場合も予測されますので、両者に対する防除体系の確立はこれからの課題と考えています。

(十勝農業試験場病虫予察科・土壌肥料科)

研究室Now

おいしくて安全な野莱づくり

道南農業試験場土壌肥料科

レタスの品質向上試験  土壌肥料科では、北海道の野菜のハウス栽培技術を確立するため、トマト、キュウリなど主な施設野莱をとりあげ、その栄養生理的な特性を明らかにしました。さらに栽培施設を周年的に利用するための施肥管理、土壌管理技術の開発に取り組み成果を上げてきました。
とくにハウス栽培で大きな問題である土壌中の塩類集積については、吸肥量の大きな野莱を作付体系のなかに組み込むことで解決し、また土壌ECを測定することによって施肥、除塩の要否を簡単に判定する土壌管理指標を設定しました。
 最近は、野莱に対する消費者ニ一ズが外観品質ばかりではなく、栄養・おいしさ・安全性といった、いわゆる内部品質に目が向けられる様になってきました。そこで、トマト・ほうれん草について、栄養性(ビタミンC)、おいしさ(糖、糖酸比)、安全性(硝酸)について内部品質基準を策定しました。
つづいて平成2年には、ほうれん草について減肥・水分管理を主体に内部品質向上のための栽培管理技術を策定するとともに、支援する簡易な診断法も開発しました。現在トマト・レタスなど移出拡大が期待できる野菜について検討中です。
さらに生産物の選別に役立つ、非破壊による内部品質簡易迅速測定法の開発研究にも着手しました。平成3年度から開始された、3つのやさしさ(自然、人、作物に対する)を求めたクリーン農業確立試験のなかでも内部品質向上を目指して研究を発展させます。

(亀田郡大野町)


ハーグレス

北海道立農業試験場の農業試験研究情報システム

HARIS

HARISのホストコンピュータ(VAX8250)  北海道立農業試験場の11カ所に配置したコンピュータを公衆電話回線で結んだネットワークシステムです。これらのコンピュータはノードと呼ばれ、各試験場間のネットワーク通信を行うとともに、各研究室のパソコン端末を結ぶLANのホストとしての役割も果たしています。このような分散、集中型ネットワークによって、試験研究に必要なデータベースなど情報資源の共有化を図り、科学技術計算や各種システム開発のためにコンピュータの優れた機能を提供することができます。
 さらにHARISは北海道農政部およびその関連部局、農業改良普及所などのパソコンと接続し、農政や技術普及に必要な各種営農技術の診断システムなどを提供するために活用されます。HARISを活用した情報処理には、つぎのものがあげられまず

1.科学技術計算と試験研究データの処理。
2.データベースの作成と提供。
3.試験研究のためのプログラム開発と提供。
4.農業生産のためのシステム開発と堤供。
5.通信機能による利用者間の情報伝達。

(中央農業試験場企画情報室)





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