No.19 1994.3.25

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

小麦新品種「春のあけぼの」

春のあけぼのとハルユタカの栽培風景  小麦は一般には冬作物であり、秋に播かれ冬の低温を経過して実を結びます。しかし寒さの厳しい地域には、低温を要求しない春播小麦も存在し、日本では北海道でのみ栽培されています。現在、春播小麦の栽培面積は7,000haで、小麦全体の7%に過ぎませんが、パン用の良質なものが生産されることから、業者から生産量拡大の強い要望があります。
 「春のあけぼの」はパン用を目指して作られた春播品種です。本品種の良質の特性が発揮され、パン用小麦の栽培が定着することが期待されています。平成4年に優良品種となり農林139号(「春のあけぼの」)と命名されました。
 「春のあけぼの」は「ハルユタカ」に比較するとやや低収ですが、非常に強稈であり、「ハルユタカ」で問題となる赤かび病や穂発芽に対しても強く、外観品質も「ハルユタカ」より優れるため、栽培適性は高いと判断されます。熟期が「ハルユタカ」よりやや遅くなることから、収穫期の雨害を考慮して、道央中部、道央北部、道北地域に栽培が限られますが、品質が優れるものが生産され、北海道の特産品として定着することが期待されています。

(北見農試小麦科)

研究の展望

道立農試における生物工学研究について

生物工学とは  80年代のバイオフィーバーの波をうけて中央農試に生物工学部が誕生したのは1987年です。細胞育種科と遺伝子工学科から構成され、科の名が示すように作物や微生物を形作っている細胞や遺伝子の働きや仕組みを調べ、それを応用して新しい品種の開発や病害虫の防除技術について研究を行っています。
 「生物工学バイオテクノロジー」というと専門外の人には何かと堅苦しく、難しい研究と思われがちです。しかし「生き物のもっている様々な機能を私達の生活の中に生かす」のが生物工学の基本です。ですから農業とはとても関係の深い研究といえます。今まで、得られた研究をもとに今後の課題について考えてみたいと思います。

てん菜そう根病の研究から得たこと
 生物工学部発足当初から、てん莱そう根病の研究に取り組んできました。この病気が北海道のみならず世界各地に拡大し、防除のむずかしい土壌病害であったからです。私達は遺伝子工学的手法を用いて、この病原ウイルスに書き込まれているすべての遺伝情報を読み取ることができました。ウイルス遺伝子は、全部で約16,000塩基、5種類の異なったRNAテープに書き込まれています。これらのRNAテープには、少なくとも9種類のタンパク質が作られていると予想されます。ウイルスか宿主のてん莱に感染し、増殖し、組織が拡がり、病気を起こし、さらにカビで伝搬されるために、これらの遺伝子が、お互いに助けあいながらたくみに機能分担していることが次第にわかってきました。
 この研究から、病気を起こさないウイルス(弱毒ウイルス)やカビでうつされないウイルスを自由に作ることができます。個々の遺伝子を識別、検出するための遺伝子診断法も実用化できました。「毒を以て毒を制す」のように、ウイルス遺伝子の一部を植物に導入することにより、植物に抵抗性を付与することも可能になりました。この研究から得られた多くの技術と情報は、そう根病の防除法だけでなく、他のウイルス病や病害虫の診断、生物防除、抵抗性品種の育種に応用し、発展させることができます。

細胞培養で育種の効率化を
 試験管内で「細胞から植物を再生」できる。この技術は、作物の増殖や育種の発展に大きな可能性を示してくれました。
 葯培養は、半数体育種法として育種の効率化に欠かせない技術です。上川農試では、すでに水稲の新品種が育成されていますが、小麦、トウモロコシ、豆類など多くの作物では、葯(花粉)からの再生率が低く、この技術による新品種育成には至っていません。したがって、今後は各作物について効率的な培養法を確立しながら、従来育種の中に取り入れていく必要があります。
 胚培養は、遠縁雑種の作出に利用できる技術です。現在花ユリの新品種を目指して研究を進めていますが、将来は果樹、花き、野菜などの育種に効果が発揮できます。
 細胞培養は、細胞選抜、細胞融合、遺伝子導入などバイテク育種の基本的技術です。生物工学部では、水稲、馬鈴しょ、豆類、てん莱などについて、「単細胞(プロトプラスト)植物体」の研究を進めております。その結果、小豆の培養系を世界で、最初に確立し、水稲、馬鈴しょでも成功しています。しかし、大豆、莱豆、てん菜などでは、組織片からの再生個体は得られているものの、いまだに単細胞培養系は難しく、育種に利用するためには、さらに培養系碓立のための実験を続けなければなりません。

遺伝子操作で育種に未来を
 遺伝子操作技術は、細胞操作とともに新しい育種法として大きな可能性を秘めています。現在まで、雄性不稔遺伝子の解析、アルビノ出現の遺伝的解析、ウイルス遺伝子解析、遺伝子診断など基礎的研究に成果をあげてきました。さらに小豆と馬鈴しょでは、パーテクルガンやアグロバクテリウムを用いた外来遺伝子導入法を確立しました。現在、ウイルス病抵抗性、耐虫性作物の作出を目指して研究を進めています。
 この技術を実用品種の育種に結びつけるためには、第一に各種作物について、その作物に適した効率的な導入法を開発する必要があります。第二に導入遺伝子源として、耐病虫性、耐冷性、品質などに関わる有用遺伝子を探索し、利用するために、幅広く国内外の研究機関との連携を密にしていかなければなりません。第三に組換え体の育種的秤価や安全性評価についての研究も今後の重要な課題です。
 一方、作物ゲノム解析についての基礎的研究が急速に進展し、RFLPやRAPDにより有用形質が遺伝子レベルで解析されています。私達も大豆の耐病性や馬鈴しょそうか病抵抗性遺伝子マーカ一の探索研究に着手しました。この技術の導入と発展により従来育種とバイテク育種の飛躍的向上が期待できます。

分子からフィールドまで
 日本で植物バイテクが活発に研究されるようになってから10年あまりがたっています。その間多くの研究成果が発表されているにもかかわらず、現実のフィールドに生かされているのは、まだごくわずかです。それは研究の歴史の浅いこともありますが、多くの場合手法開発の域を脱していないからであると思われます。
 北海道におけるバイテク研究を考えてみると、まずしっかりした目的を定めること。つまり研究テーマがフィールドに結びついていること、そしてそのテーマを解決するために最もふさわしい技術を用いること。もしその技術が不十分であれば自ら開発していくことが大切であると思います。
 いま、分子生物学を中心とした生物科学の発展が目覚ましく、幸い私達は解決のための様々な武器を手にすることが可能となりました。「生き物のたくみさに学ぶ」を基本として、得られた研究成果がフィールドにバックできる研究を進めていきたいと思います。そのためには、各場の育種部門、環境部門、遺伝資源部門との連携はもちろんのこと、大学や国立、民間の研究機関との協力が必要です。

(中央農試生物工学部長)


ハーグレス

北海道農業試験会議制度の改正について

 北海道農業試験会議制度は、昭和43年12月に要領等が整備されたもので、国立、道立農業試験場の成績を普及へ移すための検討会K議としては、昭和の初期にまで遡ることができます。
 昭和43年以降も幾度か制度改正がされましたが、新たな成績評価のあり方や国の試験研究推進会議制度との役割分担のあり方について関係者からの問題提起もあり、約2年間の検討を経て、昨年11月、全面的に改正されましたのでここにその主な改正のポ イントを紹介します。

  1. 農水省北海道との共催から、道立中央農試の主催する会議となった。
  2. 開発局開発土木研究所が加わり、道内の国立、道立関係機関を網羅する構成機関となった。
  3. 会議の構成に、次年度以降に取り組むべき課題を検討する「新規課題検討会議」が加わり、計画から成績評価まで一連の検討を行う会議となった。
  4. 成績会議での評価区分として、新たに「研究参考事項」及び「行政参考事項」を加え、幅広い研究分野の成績の検討評価ができることとなった。
以上、制度的には大きな改正でしたが、これまでと同様に、国立及び道立農業試験研究機関の研究員を心とした関係者が幅広く集まり、試験研究の計画から設計、成績評価、普及に至るまでの様々な事項について実質論議のできる会議として運営することが重要と思われますので、今後とも、関係者のご協力をお願いいたします。

(中央農試企画情報室調整課)


ハイテクNow

酵素活性測定装置

酵素活性測定装置  酵素活性測定装置は、植物の生体反応の大部分をつかさどる機能性タンパク質「酵素」を抽出し、その活性を測定するための装置です。これは植物体から酵素を抽出する部分、抽出した酵素を分離する部分、酵素反応を行わせる部分等からなっています。
 植物の持つ酵素は、例えば糖を分解して生育のためのエネルギーを供給したり、逆に光合成によって糖を作り出したりするものなど多種多様です。この装置を使って、基質(酵素作用によって反応を受ける物質)や緩衝液などを変えることによって色々な酵素の活性が測定できます。一定の処埋を加えて酵素活性の変化を測定することにより、植物の応答を解析することが可能です。
 現在、アルファルファ根のアミラーゼ(デンプン加水分解酵素)の活性測定に使用しています。これは刈取り後の再生や越冬時に重要な役割を持つ根部貯蔵炭水化物の代謝が生育条件の違いによってどう変化するかを調べるためです。様々な環境条件下でアルファルファを安定的に維持する技術の確立のために有効な手段となっています。

(天北農試 土壌肥料科)


研究の成果

系統交雑豚に対する性別・季節別
飼料給与方式について

ハマナスW1を利用した系統交雑肉豚  増体が早く、発育や枝肉の斉一性に富むなど優れた遺伝的能力を持つ系統豚を用いた肉豚生産で、その能力を最大限に発揮させるための飼料給与技術を明らかにしました。肉豚の発育速度や枝肉の筋肉・脂肪の構成割合は、摂取する飼科の成分により変化し、さらに季節や性別(雌、去勢雄)によって反応が異なります。そこで本研究で得られた成果をもとに、給与・飼科のエネルギーや蛋白質の含量を環境温度や性別によって適正に調整することにより、従来の生産方式に比べ25日程度の飼育期間の短縮が図られ、年間を通して規格の揃った枝肉を生産することが可能となりました。

(滝川畜試養豚科)




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