No.22 1995.3.25

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

いちご新品種「きたえくぼ」(品種登録出願中)

いちご新品種「きたえくぼ」の果実  いちごは全国的には冬の果物ですが、道内では主に春から夏にかけて収穫されています。道内の栽培面積は366ha(平5)で、やや減少傾向にありますが、子供や女性に好まれる果物として、今後も需要の伸びが期待されます。
 「きたえくぼ」(「道南8号」)は、道立農試で育成された最初のいちご品種です。昭和57年から育種が開始され、「宝交早生」の欠点としての外観品質や日持ち性耐病性などを補うものとして、平成5年に優良品種となりました。今年の春には店頭に並ぶものと思います。
 「きたえくぼ」の特徴は、中性で生育が旺盛、葉や花が大きく、萎黄病・萎凋病等土壌病害に強いことです。果実は果形が円錐形、果皮色が鮮紅で光沢があり、外観品質が良好です。また、大果で屑果の発生が少なく、上物収量が多く、食味は甘味と酸味がほどよく調和したさわやかな味です。さらに、果皮、果肉が硬く完全着色してから収穫しても日持ち性に優れています。以上の特性を生かして、現在、道外移出向け栽培法の研究に取り組んでいます。本州では端境期に入る6~7月の出荷に向けて、いちご栽培の新たな可能性を拓く品種として期待されます。

(道南農試 園芸科)

研究の展望

幅広い研究・環境へのチャレンジ
-道立農試における環境化学研究-

  1. 環境と農業研究
     最近、環境という言葉が溢れています。それも小は極身近な問題から大は地球規模に及んでいます。現在、一般に流布している環境は、人間の生活、生命に影響を与えるものとして捕らえられており、人間中心の環境ですから、仮に人間環境と称しておきます。一方、農業研究においては、環境とは作物を中心とした農業生産に影響を与える気象、土壌などを指していました。これを仮に作物環境としておきます。農業研究は、この作物環境を如何に正確にとらえ、如何に環境に適合させながら作物を栽培し、生産性を確保するかが中心のテーマでした。環境に適合させるだけでなく、積極的に環境に耐える技術研究もあり、耐冷性品種の育成や冷害対策技術などが挙げられます。さらに、環境をコントロールする技術も研究開発され、施設を利用した農業へ発展しています。
     このように、農業研究は、生産性を主目標に作物環境を対象とした研究が主体でした。ところが、1970年代に公害が社会問題となり、農業場面にも影響が及んできました。重金属による土壌汚染が代表的なもので、その解明、対策技術の研究が必要となり、また、都市化水汚泥の農業利用技術や工業から発生する大気汚染物質の農作物への影響調査などの研究も求められました。人間環境を対象とする農業研究の始まりです。現在では、農業そのものが環境に負荷を与えているとの認識が強まり、人間環境対象の研究の比重が増して来ました。この作物環境、人間環境両方を研究対象としているのが環境化学部門です。
  2. 環境化学研究の流れ
     現在、環境科学研究は、道内7農業試験場全てにある土壌肥料科及び関連研究科で、それぞれの地域環境を踏まえた研究として進められています。この環境化学研究は、その時代の要請に応えて研究内容を変えてきました。従来、環境化学研究は、土壌肥料研究と言われ土壌・肥料学を基礎として生産性向上を目的とした研究が主流でした。明治以来農耕地土壌の調査を行い、特に、1959年以来20年にわたって実施された地力保全基本調査は、道内農耕地の土壌特性を集大成したもので、現在でもあらゆる方面の農業技術を進めるに当たっての基礎データとして用いらえています。この土壌調査の成果が土地・土層・土壌改良技術へと発展し、火山性土、重粘土、泥炭土など特殊土壌の占める面積の多い北海道農耕地の生産性向上に多大な貢献をしてきました。
     一方、土壌肥料研究のもう一つの流れである肥料の方は、技術的に施肥法開発として進められてきました。施肥は栽培技術の中でも大きな比重を占めており、全作物が対象となって、各作物の栄養整理的特性肥握の研究を基幹として、肥料の特性さらに土壌の特性、気象条件など環境要因と関連づけながら作物生産性に最も効果的な施肥技術を示してきました。さらに、土壌肥料研究の大きな命題として地力解明があり、土壌肥沃度としてのアプローチ、土壌有機物あるいは土壌微生物を中心とした土壌生物性解明の研究として進められ、土壌診断技術や有機物管理技術として成果が出されました。これらは農業場面で「土づくり運動」の技術対策として活用されています。このように、生産性向上を主目的とした土壌肥料研究ですが、前述しましたように1970年代に入って公害問題への対応が求められ、土壌・水質・大気それぞれについて汚染物質の農業への影響、その対策技術の研究いわゆる環境保全に関する研究もその範ちゅうに入ってきました。この時点では農業外からの負荷物質を如何に排除するかあるいは有効に利用するかという生産性が根底にある研究でしたが、1975年以降、生産性向上を追求した結果として肥料の過剰扱与が問題となり、農産物の品質低下をもたらすと共に、余剰の肥料成分が農業系外に流出し、人間環境へ負荷を与えているとの危損が高まってきました。とくに、家畜糞尿の処理が環境保全の問題として農業場面での対応を追られています。これらを背景として環境と調和した農業いわゆるクリーン農業への志向が強まり、そのための農業技術開発が求められ、土壌肥料研究も人間環境をも対象にした研究へ比重を移し、環境化学研究としてより幅広い研究に展開しています。
  3. 環境化学研究の方向
     環境化学研究に対しては、作物・人間両面の環境を対象にその調和を図りながらより高度な農業の技術化が求められているといえます。このような環境化学研究を進める上で“環境”、“生態”、“情報”の3つがキーワードとして挙げられると思います。作物・人間両面の環境について個別に対応するのではなく総合的に把握し、解析する研究が重要となります。とくに、漠然とした環境を環境容量として定量的に示すことが必要です。例えば、土壌環境容量は、耕地土壌を一つの器と見立て、肥料成分をどれだけ収容できるかその大きさを表す尺度ですが、適切な施肥あるいは家畜糞尿を含めた有機物管理の基礎データとなります。現在、環境化学部の主要テーマとしてその解明とマッピング化に取り組んでいます。また、土壌のみならず水系あるいは植生も含めて環境を面的、立体的に捕らえて定量化し、土壌・施肥管理上指針を作成することも重要です。生態は、広義には環境に含まれるものですが、ここでは土壌生態として環境化学研究の重要なテーマに位置づけられます。土壌生態にかんしては土壌肥料研究の一分野として土壌微生物性を中心に研究が進められてきました。しかし、なお未解明の部分は大きく、他方、環境を保全するキーポイントとして注目され、期待が高まっているものです。今後、土壌微生物の特性解明やその評価法確立と共に土壌バイオマス把握など土壌生態さらには系外も含めた農地生態研究を進める方向です。一方、情報は、個々の環境要因を総合化し、定量化する手法として、また、リモートシング技術を利用するなど定量化された環境情報を広域的に展開させる手法、あるいは作物生産情報と環境情報の組み合わせによる新しい情報を策定するなどの技術化がこれから重要な研究をして位置付けています。

(中央農試 環境化学部長)


ハーグレス

海外との研究交流について

 北海道の農業分野における国際交流は、古くは開拓使時代に欧米の農業技術指導者の招へいや作物種子、家畜、農業機械を導入したことに始まると言えるでしょう。近年は北方圏地域との交流が推進されており、その一環としての農業研究については農業試験場が担っていますので、いくつか紹介します。
 中国黒竜江省との間では、1985年から水稲、1987年から大豆の品種改良について共同研究を実施しており、道立農試(水稲:中央農試、大豆:十勝農試)と省農業科学院との間で研究員の派遣・受入れを相互に行っています。これまで、道からは水稲で5人、大豆で3人の研究員が派遣されています。さらにカナダアルバータ州を加えた三地域間での協議により、1990年から小麦品種改良の三地域間共同研究(北見農試)が開始され、各地域の育種材料を交換して試験したり、研究員が派遣されたりしています。
 また、地理的に近いロシア極東との交流では、道の経済協力プログラムなどで農試職員も度々訪問していますし、ホクレンの仲介により1989年から畑作、園芸、飼料作物の種子交換による共同研究(中央農試、滝川畜試)も行われています。
 このような機関単位の事業による研究交流とは別に、研究員の資質向上を主たる目的として若手研究員を長期に海外の研究機関で研究させたり、海外から研究員を招へいするなども研究交流と言えます。
 こうしたさまざまの機会を通じて、物的人的な交流をおこなっていくことにより農業試験場の研究能力向上が期待されます。

(企画情報室調整課)

ハイテクNow

冷害気象実験ドーム

冷害気象実験ドーム全景  稲品種の耐冷性はかなり強くなっています。しかし、平成5年は夏の低温が極めて厳しく、作況指数は40と戦後の冷害年次の中では最悪の年でした。
 平成6年度、中央農試に整備された「冷害気象実験ドーム」は稲が穂を作り始めてから、出穂、開花するまでの1ヶ月間の気温を約19℃に保ち冷害気象を人工的に再現するための施設で、ドーム内の水田に品種育成のための材料を栽培します。その形状は幅15m、長さ30m、高さ7mの鉄骨造の硬質ビニール張りで、屋根部分がかまぼこ形です。ドームは二重構造で、内側の膜の内部の空気を大型クーラー6台で冷やします。屋根部の外側の膜と内側の膜との間の空気を絶えず換気し、温度上昇を抑えます。両者は互いに独立して開閉が可能で、処理期間以外は二重の膜を解放し、自然条件で稲を栽培します。
 この施設を利用して耐冷性の検定・選抜を行い、穂ばらみ期から開花・受精期までの長期の低温に対する耐冷性品種の育種研究を開始します。

(中央農試 稲作部)


研究の成果

休日確保型酪農ヘルパー組織の運営安定化

専任ヘルパーの稼働実態  道内では平成2~4年にかけて多くの休日確保型酪農ヘルパー組織が設立されました。
従来の緊急対応型ヘルパー組織とは違って、専任ヘルパーをおくなど運営上の難しさがあります。休日確保型酪農ヘルパー組織には、農協直営型と利用組合型があります。農協直営型ヘルパー組織では、専任ヘルパーは農協職員として雇用されるので身分的には安定しますが、緊急対応をも含むため稼働率を高め安定させることは難しいという問題があります。利用組合型の場合は専任ヘルパーの身分を安定化させるため農協等との連携が必要ですが、組合員農家が運営責任を理解することにより稼働率の向上・安定化が期待できます。

(根釧農試 経営科)




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