No.30 1997.12.25

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより

ジャガイモ風景
抵抗性品種 比較男爵 フェロサント施用 対象区
育成中の抵抗性品種 比較の男爵いも フェロサント施用(pH4.8) 対象区(pH5.5)
抵抗性品種の検定 土壌酸度調整資材による防除

北海道のばれいしょ生産とジャガイモそうか病

 ジャガイモそうか病は、ストレプトミセス(Streptomyces)属放線菌によって起こるばれいしょ塊茎部の病害です。1891年にタクスターによって初めて報告された大へん古い病害であり、その後世界各地で広く発生が確認されています。北海道では1906年の北海道農会報の記載に始まります。
 現在、道内各地のばれいしょ栽培地で発生しており、1997(平成9)年度の北海道病害虫防除所の調査では、発生面積23,738ha(発生面積率 36.5%)、被害面積 6,132ha (被害面積率9.4%)に及んでいます。病原菌によっていも(塊茎)の表面にあばた状の病斑を多数形成するので、食用あるいは加工用ばれいしょとしての商品価値が著しく低下します。また、発病程度が高まるにつれて塊茎内のでん粉価が減少し、重度発病塊茎では無発病に対して14.2%減少する調査結果があります。それを基に1992年のでん原用ばれいしょの被害額だけを単純に計算しても、実に2億7千万円となります。
 このような被害状況から、近年わが国をはじめ諸外国でもその防除対策に取り組んでいますが、本病は防除が難しい土壌病害であることから、まだ十分な防除対策が確立されるに至っていません。北海道では、1980年頃から十勝農業試験場病虫科で本病に関する研究を進めてきました。さらにこれまでの成果を一層発展させ早急に総合的な防除対策を確立するため、1994年から病虫部門だけでなく土壌肥料、作物、育種、生物工学などの研究部門も参加したプロジェクトチームを結成し、試験研究を行っているところです。
 この研究チームでは、道内で知られている4種の病原菌の同定・識別と土壌中の病原菌の定量法の確立、病原菌の発生生態の解明、土壌の理化学的改善による発病の軽減対策、抵抗性品種の育成と拮抗微生物の利用などによる生物的防除法の確立、殺菌剤など化学的物質を利用した防除対策などについて検討しています。


(道立農業試験場ジャガイモそうか病研究班)


研究の展望

ジャガイモそうか病総合防除開発試験

道立農試ジャガイモそうか病研究班の主な成果をとりあげ、今後の研究テーマの方向について考えてみることにします。

1.病原菌の診断技術について

 ジャガイモそうか病の病原菌の研究の歴史は古く1890年代まで遡り,現在も新種の報告がなされています。北海道では谷井の詳細な記載を基にして,4種類の病原菌の分布およびその種名が明らかにされました。
 それによると,胞子鎖の形態が螺旋型でメラニン色素産生のStreptomyces scabies subsp.scabies,同じく螺旋型でメラニン色素非産生のS.scabies subsp. achromogenes,胞子鎖が直~波状型で緑黄色色素非産生のS. turgidiscabies, 同じ直~波状型で緑黄色色素産生のStreptomyces sp.(種名未提案)です。
 日高山脈を境に,前2者は道央以西に,
S.scabies
S.turgidiscabies
そうか病菌の胞子鎖の形態
(上:S.scabies,下:S.turgidiscabies
後2者は道東にと著しく偏った地理的分布を示します。
 また,S. turgidiscabies は本道に固有の新種とされ,細菌学的性質を始めとして,DNA 相同性等の遺伝学的性質が他と大きく異なりました。
これら病原菌の土壌中の動態解明を最
あばた状の病はん
ジャガイモそうか病のあばた状の病斑
終的な目的として,抗血清によるELISA法,アクチノファージ利用法,PCR法を用いた病原菌の特異的識別法の開発を試みました。海外での研究ではコーネル大学の Loria らの,病原菌産生毒素 thaxtomin およびその産生遺伝子 nec1を用いた方法が報告されています。
 血清学的診断法として,抗原解析を基に,S. scabiesS. turgidiscabies に特異的な抗体を吸収血清法により調整し,ELISA 法で識別を行った結果,前者では一部の非病原菌で非特異的反応が認められたものの,後者では高い精度で特異的識別が可能でした。
 アクチノファージ法では,道内各地から分離した多数のファージ株に様々な寄生性の分化が認められましたが,その中からS. s. achromogenesに特異的な寄生性を示す8株を選抜できました。これらを用いて,S. scabiesを亜種レベルで識別することが可能でした。
 一方,PCR法では上記,4病原種を含む各種Streptomyces属菌のリボソーマル DNA 遺伝子およびそのスぺーサー領域のシークェンス解析を行い,各種病原菌に対するPCR用のプライマーが設計されました。それらを用いて平板コロニーおよび塊茎上の病斑から病原菌の識別を試みた結果,各病原菌で特異的なDNA断片の増幅が確認されました。
 今後はさらに特異性の高いアクチノファージの探索と同時に抗血清を用いたコロニーELISA 法,Ne-sted PCR などによる病原菌定量法の確立を目指します。

2.土壌環境の改善による防除法

[土壌酸度調整資材による防除]

 十勝および網走管内のそうか病発生圃場で土壌酸度調整資材の全層施用を行った結果,土壌 pHが 5.0 以下になると高い防除価が得られました。
 また資材が表層 10cmまで混和されていれば,培土後も塊茎が形成される部位の pH は十分に低下していました。
 なお,資材の施用により pH が 4.7 程度まで低下しても、馬鈴しょの収量や品質に影響はありませんでしたが,4.5 以下になると萌芽遅延が生じ,収量および品質が低下しました。また,資材を施用した圃場でも馬鈴しょ収穫後の耕起(ブラウインク)により表層と作土下層の土壌が混和されれば pH が高まり,後作への影響はほとんどありません。ただし資材施用当年の pH が 4.7 以下の場合は耕起しても pH が高まらない場合があり,後作の収量が低下することがあります。
土壌PH

[資材とかん水の併用効果]
 資材施用とかん水の併用は,それぞれ単独より高い効果を示しました。かん水を行う場合は,早い時期から pH を低下させた方が効果的に発病を抑制でき,萌芽期に一度に 25mm以上の多量かん水を行うことが有効です。また,かん水期間は7月末までで十分です。かん水開始点は従来通り pF 2.3 で問題はなく,茎葉の上からかん水する機材(レインガン、スプリンクラー,吹き上げ型チューブなど)を用いても,疫病などの病害発生の増加は見られませんでした。

[資材の施用法と留意点]
 発病抑制効果,馬鈴しょ収量,後作への影響を勘案して資材の施用目標値を pH 5.0 とします。pH を低下させる対象土層は表層 10cm とし,培養試験による緩衝曲線に基づいて施用量を算出します。資材としては肥料登録のあるフェロサンドを用いてください。
 かん水後は病害発生に十分注意する必要があります。また,畑輪作では低 pH に弱いてん菜や豆類も作付けされるので,畑輪作において生産性を維持するという観点から,作土の pH が 5.5 以下の圃場への資材の施用は避けます。

3.抵抗性品種の開発

 そうか病抵抗性品種の開発は、そうか病対策の大きな柱の一つです。この課題に、根釧農業試験場がそうか病研究チームの発足よりも早い1985年以前から取り組んできました。
 当時は小規模なそうか病汚染枠しか使えなかったため、試験内容は主にそうか病抵抗性品種育成のための母本の検索でした。1993年から北見農試,翌年から十勝農試の協力で現地汚染圃場での育成系統の抵抗性検定が始まり、本格的に新品種の育成に取り組むことになりました。 現在の検定の規模は、交配から3年目の世代(系統選抜)で約250系統,4年目(予備検)で約40系統,5年目(生検)で約10系統です。現在までの成果としては根育31号の育成があげられます。
 根育31号は,発生程度が低い圃場では抵抗性品種として期待できますが,発生程度の高い圃場ではまだ不十分です。
そうか病試験圃の全景
そうか病試験圃の全景(芽室町博進地域)
T-AY-20
交配母本のT-AY-20
圃場で栽培してもほとんど病斑がつかない
 複数の形質を一つの系統に持たせることは大変難しく、この難題を克服するする方法の一つとして育種規模の拡大があります。現状の規模で抵抗性の強い系統は見つかっていますが,農業形質等品種として成り立つような特性を合わせ持った系統はまだできていません。
 来年度より根釧農試の馬鈴しょ科が北見農試に移転するのに伴い、そうか病抵抗性品種の育成の規模拡大が予定されており、実用品種の育成が早まることが期待されます。
 抵抗性品種を育成する上で問題になっているのは,(1)抵抗性の強い交配母本の確保,(2)効率的な選抜法の開発です。(1)について今注目しているのは、 T-AY-20 という南米から導入した系統です。抵抗性は強いのですが熟期が遅い等の欠点があり、この抵抗性の実用品種への導入にはもう少し時間がかかりそうです。
 その他にも近縁野生種からの抵抗性の導入も考えています。(2)については現在汚染圃場を使って検定を行っていますが,労力がかかること,反復を多くしないと精度が低いことが問題です。圃場を使わないでできる毒素による検定法の開発や,将来的には抵抗性遺伝子のDNAマーカーの利用等の開発が必要です。

4.今後の研究テーマの方向

 そうか病は難防除土壌病害の代表とされています。その一因として,一度土壌に定着した病原菌は寄主作物に依存せずに長期間生存できる腐生的生活能力をあげることができます。
 今後の研究はこの点を常に考慮し,第一に病原菌の新たな定着・増殖を阻止する方向に向かう必要があります。そのためには,より高い効果の種子消毒剤の実用化とともに、病原菌の定着を可能にする各種要因の解析が急務です。さらに病原菌定量法の開発により,土壌中の生態究明が進むと同時に作付け前の土壌診断の実現が期待されます。
 一方,既に病原菌が定着した圃場に対する対策としては,各種の資材による土壌環境制御および輪作等の耕種的技術による被害軽減が大きな課題です。さらに,非病原性Streptomyces 菌を対照とした生物防除,汚染土の拡大を阻止するための土壌消毒および耕土反転処理の効果についての検討が現在進められています。
 抵抗性品種の利用は海外においても最も有効な手段とされています。北海道でも道立,国立農試で精力的な育種が進められており,今後も抵抗性系統の選抜で全面的に協力し「根育31号」に優る系統を育成する予定です。
白:トヨシロ赤:ホッカイコガネ


(ジャガイモそうか病研究班)


研究の成果

小型ピロプラズマ原虫の遺伝子解析と
ワクチン開発の試み

 これまでのワクチンについては、病原体それ自体を弱毒、不活化などの処理をして利用するものと考えられてきました。しかし、最近では病原体の一部の蛋白質やペプチドでもワクチンとして十分有効なことがわかり、遺伝子操作を用いてこれらを純粋かつ多量に生産することができるようになってきました。
 そこで、原虫の赤血球内寄生により貧血、発熱等を引き起こし、放牧牛に大きな被害をもたらしている小型ピロプラズマ病のワクチン開発を北海道大学との共同研究で進めてきました。
 まず感染防御に関与していると考えられる原虫の表面蛋白質を支配する遺伝子を解析したところ、3つのタイプ(C, I およびB 型)に分けられること、わが国における本症の多くはC, I 型の感染であることが明らかとなりました。そこで遺伝子解析の結果明らかとなった表面蛋白質のアミノ酸配列情報をもとに、これら2 タイプの原虫に対して有効と考えられる4 種類のペプチド(ワクチン候補物質)を合成しました。
合成ペプチドは、実験感染試験では原虫の寄生率を抑制する効果は認められましたが、野外での自然感染を防ぐ効果は十分でありませんでした。今後さらに投与方法、併用する免疫増強剤等の検討により、実用的なワクチンの開発が望まれています。


(新得畜試)
牛赤血球に寄生した小型ピロプラズマ原虫
ペプチド1(C型由来) EEKKEAAKADEKHKD
ペプチド2(C型由来) KEKKESKDLDASK
ペプチド3(I型由来) AEEKKDAKAEEKKD
ペプチド4(I型由来) KEKKEVKDLDASK
合成した4種類のペプチドのアミノ酸配列
A:アラニン、S:セリン、L:ロイシン、V:バリン
D:アスパラギン酸、E:グルタミン酸、K:リシン


hagres

中央農業試験場のホームページ紹介

(http://www.chuo.agri.pref.hokkaido.jp)

 平成8年9月2日に開設して以来、約1年3ヶ月が経過しました。今年8月には訪問者1万人を突破して、以後毎月1,000人を越えるアクセス数を維持しています。
 知る人ぞ知る、農業関係者にはすっかり馴染みのホームページになりました。

(1)どこからの来訪者が多いか。
 第1位は北海道庁のホームページからの来訪者で、全体の14%になります。道外から初めての来訪者は、このリンクを利用しているものと思われます。

(2)人気ページ
 来訪者の21%がウェルカムページですが、大部分は見たいコンテンツ(内容)ページへ直接アクセスしています。またリンク集目当ては1%もあります。
 夏季には道立農試作況、病害虫発生予察情報のアクセス数が増えることから、農業者の関心が寄せられていることが伺えます。

(3)今後の展開
 道立各農試それぞれのホームページも徐々に開設されてきました。今後は中央農試のホームページの中から全場に関わる内容を道立農試ホームページへとリニュウアルして、そこに道立農試刊行物・研究成果等のデータベースを登載し、内容を充実していきたいと計画しています。

リンク元ベスト5 (11月)
第1位 北海道庁ホームページ
(http://www.pref.hokkaido.jp/link/link.html )
第2位 農林水産省農業研究センターホームページ
(http://ss.narc.affrc.go.jp/narcdir/kouritu.html )
第3位 北海道庁ホームページ研究機関マップ
  (http://www.pref.hokkaido.jp/industry/agri/research/research.html)
第4位 道立十勝農業試験場ホームページ
(http://www.tokachi.agri.pref.hokkaido.jp/info/linklist.htm)
  第5位 北海道畜産会ホームページ
(http://cali.lin.go.jp/japan/k01/index.htm )

(情報課)



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