No.32 1998.9.10

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより



豆類のいろいろ植物遺伝資源種子貯蔵管理施設の全景(1998年3月完成)
植物遺伝資源種子貯蔵管理施設の全景
(1998年3月完成)
同施設の内部:極長期用の保存管理風景
豆類のいろいろ(遺伝資源)同施設の内部:極長期用の保存管理風景
(-10°C、湿度30%、100ml缶詰)

北海道における植物遺伝資源の収集と保存


 近年、地球規模での開発や環境破壊、経済作物への偏った栽培などにより、世界の数多くの貴重な野生種や在来品種などが急速に失われつつあります。野生種には、栽培化の過程で失われた貴重な遺伝子が保存されていることが多く、また、在来品種にも貴重な遺伝子を多く持っております。これら貴重な植物遺伝資源が地球上から消滅する前に広く海外や国内から収集・保存することは大きな意義があります。
 一方、北海道農業も国際化、消費者ニーズなどの多様化の波にさらされ、北海道がわが国最大の食料供給基地としての役割を一層高め、安定的に食料供給を行うためには、技術開発などの試験研究が益々重要になっております。
 道立農業試験場における品種開発には、これら貴重な植物遺伝資源に頼るところが大きく、品種開発が北海道農業の生産性の向上などに果たしてきた役割は大きなものがあります。最近では、障害型耐冷性強で極良食味米の「ほしのゆめ」や耐穂発芽性に優れ、耐雪性強の秋まき小麦「ホクシン」などの開発にみられるように、求められる育種目標が高度化・多様化する傾向にあり、これまで以上に広範囲な植物遺伝資源の収集が重要になってきました。特に、厳しい冬と冷涼な夏という気象条件の北海道では、独自の新しい品種開発が求められております。
 植物遺伝資源センターは、昭和61(1986)年、その前身である中央農業試験場原原種農場を改組して設置されました。そして従来の種子生産事業のほかに、国内外から多種多様な植物遺伝資源を探索・収集し、その保存管理・配布と特性調査・情報提供といったあらたな事業が加わりました。さらに、先端技術を駆使した植物遺伝資源の保存法の開発や植物遺伝資源を利活用した育種素材の開発など、中核的な研究機関としての役割も担っております。これらの事業は、21世紀に向けて道立農業試験場が掲げる北海道農業の振興や寒地向け作物の品種開発の基盤となるものであります。

(北海道立植物遺伝資源センター)


研究の展望

人類の貴重な財産・未来へつなぐ植物遺伝資源

1.植物遺伝資源の保存・管理


(1) 探索と収集
 センターで取り扱う植物遺伝資源とは、種子、塊茎、苗木その他の植物体の全部または一部で、農業上有用な遺伝形質を有するものを指しております。センターでは品種開発などに役立つ野生種や在来品種などを他の道立農業試験場と協力しながら、国内および海外に出掛け探索・収集をしています。


海外遺伝資源の収集(メキシコから収集されたとうもろこし)
海外遺伝資源の収集(メキシコから収集されたとうもろこし)


探索・収集は、海外では昭和58(1983)年から開始され、これまで出掛けた国は36にもなります。一方、国内においては、センターでは道内を中心に東北や関東地域を対象として、これまで約7千点を探索・収集しておりますが、遺伝資源を取り巻く環境はいずれも厳しくなり、一回の収集点数は少なくなりつつあります。


(2) 保存管理と再生産
 平成90年3月現在、道立農業試験場全体で保有している植物遺伝資源は、358植物種29,593点であり、その内センターでは、220植物種18,106点の種子遺伝資源と775点の栄養系遺伝資源、合計18,881点を登録保存しております。この他に約4千点の登録保存に向けて作業中の遺伝資源があり、いずれも年々増加しております。センターにおける植物遺伝資源の登録保存目標は、他場からの移管を含め種子遺伝資源が3万6千点、栄養系遺伝資源が6千点、合計4万2千点であります。
 収集あるいは受け入れた植物遺伝資源は、少量なものは増殖し、ワーキング・コレクションとして登録カード(パスポートカード)に由来や簡単な特性を付けて登録します。保存管理は、配布用(アクティブ・コレクション)として18,106点を1リットルポリ瓶に入れ-1℃、湿度30%の条件と、極長期用(ベース・コレクション)として100ミリリットル缶詰に密閉し-10℃、同30%の条件で保存しています。
 登録中の保存種子は、配布用種子量が不足した場合や定期的な発芽力検定によって発芽力の低下がみられた場合には、再生産し新しい種子に入れ換えます。なお、種子遺伝資源の中には、圃場で日長感応性や温度・日照不足のため採種が困難なものがありますので、本年新築する難採種遺伝資源増殖温室の利活用で克服したいと考えております。


(3) 特性調査と情報管理
 収集した植物遺伝資源は、その特性を明らかにして初めて役に立つものです。昨年度、センターは植物遺伝資源連絡委員会(各場1~5名の代表連絡委員で構成)と協力して、データーの基準化を図るため、稲、麦類などの主要25作物について、

現在研究中の超低温保存法のフローチャート
菜豆かさ枯れ病抵抗性系統の育成
菜豆かさ枯れ病抵抗性系統の育成


一次評価項目(区別性、栽培関連の特性)と二次評価項目(環境ストレス耐性、病害虫抵抗性、加工適性など)を選定した特性分類階級区分表を策定しました。センターでは、毎年、これらの一次評価項目を中心に稲、麦、豆類、穀物類など約1,500点を調査しております。さらに、ルーピン類の一次、二次特性および小麦醤油醸造適性に関する特性を明らかにしました。これまでの水稲、麦類、豆類の特性調査結果は成績書にまとめ関係機関に配付するとともに、パスポート情報はデータベースに収録して育成場などが検索出来るようにしております。


2.遺伝資源の保存法の開発研究

 道立農業試験場では、栄養系遺伝資源の牧草類を北見農試、天北農試、ばれいしょを北見農試、果樹類を中央農試、野菜類・花き類を花・野菜技術センターなどでそれぞれ保存をしておりますが、今後これらの遺伝資源は条件整備されるとともに順次センターに移管いていく予定です。


いちご遺伝資源のインビトロ保存
いちご遺伝資源のインビトロ保存


一方、センターでも花き、野菜および薬草などの栄養系遺伝資源は枠圃場などで保存しておりますが、病害虫被害などにより失われる危険性や広い圃場と多くの労力を必要としています。このような状況を解消するため、センターでは、イチゴ、ユリ、ニンニクについて、組織培養技術を用いて茎頂を培地上で温度・照明のコントロールにより約2か年間保存できるインビトロ(試験管)保存法を開発しました。さらに、極長期間保存するために、リンゴ、バレイショ、ユリ、イチゴ、ヤマノイモの生長点などを脱水後液体窒素中に投入して急速冷却し、長期間保存した後に加温、培養再生させる超低温保存法を開発研究しており、目下その成果が生まれつつあります。今後さらに、様々な栄養系遺伝資源の保存法を確立し、近い将来、超低温保存法、試験管保存法および圃場の3種類を使い分けして効率的な保存を考えております。

あわ
あわ
栄養系遺伝資源の保存風景
栄養系遺伝資源の保存風景


3.品種開発のための遺伝資源開発研究

 道立農業試験場では、水稲、麦類、豆類など数多くの品種開発を行っています。センターでは、これらの品種開発をサポートするために、保存中の野生種や在来品種などの遺伝資源を利用して、品質や病虫害抵抗性など有用な特定形質の遺伝子を持った新らしい育種素材開発をしております。これまで、保存植物遺伝資源を利用して大豆の品種を分類するため、アイソザイム(同じ酵素作用するが電気的性質などが異なる酵素群)分析による新たな分類と評価法を開発するとともに、有用形質との関連性を明らかにしました。さらに、菜豆の金時類では、実用品種がいずれも種子伝染性のかさ枯病に弱いので、戻交配により実用品種に抵抗性因子を取り入れた育種素材を作出したほか、大豆では交配や放射線照射による突然変異利用によりアブラムシによって伝搬されるわい化病に対する高度抵抗性を持つ育種素材を、小麦では、戻交配で製めん性や製粉性に優れた特性を付与した育種素材の作出にそれぞれ取り組んでおります。また、高級菜豆では、極大粒の有用な育種素材を独自に収集した遺伝資源の中から検索しております。

4.今後の植物遺伝資源研究の方向と展望

 「遺伝資源は各国の主権的権利下にある」という概念の「生物多様性に関する条約」(平成5年)の発効によって、遺伝資源を取り巻く国際環境が大きく変化し、海外からの遺伝資源の収集は困難になってきております。そのため収集については長期的な計画を立て、遺伝資源の国際機関や国のジーンバンク事業、さらに、海外の大学や研究機関などとの連携を一層密にして周到な計画のもとに出掛けることが重要になってきました。
 一方、センターの保存遺伝資源を一層有効に利用するために、育成場で開発が困難な有用な育種素材開発および品種開発で必要とする作物の特性調査の優先順位を決めて集中的に実施するかどうかについて、育成場や関係部門と協議しながら、センターの遺伝資源開発研究の推進方向および戦略的課題などを明確にすることが重要であると考えられます。さらに、保存植物遺伝資源の分類・評価および実用形質の効率的選抜と育種素材開発へDNAマーカーやアイソザイムなどの先端的ハイテク手法を応用する研究が今後の課題であります。また、インターネットが農業試験場などに整備されるのに伴い、その利用による遺伝資源情報提供のためのシステム再構築が急務であります。


(北海道立植物遺伝資源センター)

ツタンカーメンのえんどうの特性調査
ツタンカーメンのえんどうの特性調査



研究の成果

コメのアレルゲン性評価法の開発


 近年、食物アレルギーが増加しており、社会的にも大きな問題となっていますが、日本人の主食である米に対してもアレルギー反応を示す患者さんが多くいます。
 米アレルギーの原因になっているのは、米に含まれる特定の蛋白質(アレルゲン)ですが、米の品種や処理の仕方により含まれるアレルゲンの量が異なる可能性があり、アレルゲン量の少ない品種や処理方法が解明されれば、米アレルギーの人でも食べられる米ができるかもしれません。
 そこで、穀物利用科では米に含まれるアレルゲン量を精度高く、しかも効率的に測定できるアッセイ(=分析)系の開発に取り組みました。その結果、アレルギー患者の血清を一次抗体として、アレルゲン量に比例したアッセイ強度が得られる測定系を作成することができました。このアッセイ系を用いて、まずは米粒中のアレルゲンの分布を測定したところ、アレルゲンは米の極表層に非常に多く集積しており、内部になるに従って急激に減少することがわかりました。これにより、米の表面を多く削る、すなわち高度精白する事により、低アレルゲン化が図れる可能性があります。現在、このような高度精白米を調整して、患者さんに実際に食べてもらう臨床試験を実施していますが、概ね良好な結果が得られています。今後は、品種間差や蛋白質以外の要因も含めた総合的なアレルゲン性評価法の確立を目指します。

(中央農業試験場 農産化学部)
図1.図2



hagres

新しい農業情報ネットワークHao(ハオ)

 平成10年7月1日から、「北海道農業情報ネットワークシステム」(英語名「Hokkaido Agriculture Online」、略称Hao)がサービスを開始しました。Haoは、試験研究情報、普及情報をはじめ農政部関係各課が蓄積してきた農政情報およびその他農業農村に関する情報を、広く生産現場・消費者などにわかりやすい形で提供するとともに、ネットワーク内部における情報共有を推進することを目的としています。これまで営農技術情報の一般提供をおこなってきたパソコン通信ACEnetおよび研究・普及を支援してきたHARISの役割は、Haoに発展的に引き継がれることになります。

北の農業情報広場

 Haoでは、農試、農業大学校および普及センターを一括して、高速の回線でインターネットに接続しています。公開ホームページ「北の農業情報広場」では、農試の研究成果や普及センターによる栽培マニュアル、病害虫防除所の発生予察情報などを提供しています。任意のキーワードによる記事検索が可能で、8月現在で約3,800件の記事が登録されています。内部向けには電子メール、電子掲示板などのコミュニケーション手段、気象情報、農業統計などのデータベースがあります。今後とも内外のコンテンツの充実を図り、使いやすいシステムとして育てて行く予定です。
(情報課)



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