No.34 1999.3.31

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより



十勝岳の麓に広がる水田地帯水とふれあう農村公園
ヒマワリで彩る農村景観基盤整備された大区画水田(1区画5ha)

北海道の農業・農村環境整備


 北海道農業の幕開け、明治2年(1969)の開拓使の設置に伴う屯田兵による農耕地の開墾 に始まりました。その後多くの拓殖事業を経て本格的な農業生産が展開され、戦後は国 内の食糧生産蕃地として、その重要性がますます大きくなっています。
 国内で最も耕地面積の広い北海道には、重粘土・火山性土・泥炭土などが多く分布し ており、これまで各種土層改良の施工や土壌改良資材の投与によって、これら特殊土壌 の理化学性の欠陥を是正し、生産力向上の基盤を築いてきました。
 近年・地球規模で環境悪化が問われるなかで、農業生産の場面においても農薬・化学 肥料の削減や家畜糞尿の農耕地への適正還元など、持続的生産が可能な環境保全型農業 への取り組みに本腰を入れなければならない時代になってきました。
 一方、人々の生活が豊かになるにつれて、農業・農村に求められるものも多様化しつ つあります。農耕地は、従来のようにただ単に作物生産の場だけではなく、それを取り まく自然環境と調和した潤いと安らぎに満ちた農村景観を形成し、それが般住民にとっ ても大切ないこいの場であると考えられるようになってきました。
 北海道の豊かな川・平坦地・丘陵地・山岳地の連鎖は、その気象環境とあいまって、 他府県とは異なる特徴のある農村空間を創出しています。この恵まれた自然環境と多面 的な景観を活かして、環境負荷の小さい新たな土地利用計画と基盤整備・環境整備指標 を策定することが、地球環境にやさしいクリーン農業(環境保全型農業)を実現する第一 歩として、いまわれわれに求められているのではないでしょうか。


(北海道立中央農業試験場 農業土木部)


研究の展望

自然環境と調和した
農業生産を展開するために



1.持続的生産基盤の造成


 北海道の土地基盤整備は、これまで土壌の物理性および化学性の改善に重点がおかれ ておりました。しかし、農薬や化学肥料を減じたクリーン農業を推進するためには、有 機物施用による土壌生物活性化とそれによる根圏環境改善を目指した質の高い基盤整備 工法の開発に取り組むべきです。土壌生物活性化のための有機物資材の適切な施用技術 の確立は高品質、高栄養農産物の生産にとって重要ですが、その効果発現の基本は生産 基盤整備の良否にかかっています。
 今後北海道においては、ゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)の立場から、各々の地域で 容易に得られる各種資材を有効に活用した省資源型農業循環システムをそれぞれの地域 において体系化する必要があります。


生物性改善基盤整備に必要な有機物(堆肥等)
生物性改善基盤整備に必要な有機物(堆肥等)


2.新しい土層改良法の開発

土層改良は表土あるいは下層土に何らかの欠陥がある場合に、主として土木的な改良対 策を実施したり、他の土壌や材料を添加したりして土壌の物理性を改良するものです。  北海道の畑土壌は、正常な作物生産を上げるうえでの各種の欠陥を持っており、種々 の改良を必要としています。さらに、寒冷多湿な気候が土壌の欠陥と大きく関係し、畑 作物の生産を一層不安定にしています。  土層に欠陥を持つ土壌には重粘土、火山性土、泥炭土があります。とくに火山性土は 土層を構成している火山灰の性質が大きく異なるため、混層耕、心土肥培耕、改良反転 客土耕など独特の土層改良法が考案され、増収効果をあげてきました。  最近は作物の品質向上に主眼をおいた土層改良が中心となり、火砕流堆積物や軽石流 堆積物などの砂質客土が全道的に実施されています。


有材心土改良耕の施工時の様子
有材心土改良耕の施工時の様子


また、プラウによって出来る耕盤層の生成を防止するカルチタイン付有材心土改良耕や 堅密な下層土を膨軟にしたり、透水性の向上を図るためのオープナ付有材心土改良耕が 開発されました。今後は、元来良好な土壌であったものが、練り返しや踏圧などの人為 的な作用によって不良化していますが、この土層を元に回復させるリハビリ的な工法の 開発が必要となります。


3.排水改良の取り組み

 北海道の排水不良土壌は水田24万ha、畑地40万haです。排水不良により湿害発生、圃 場条件の悪化などは依然として問題となっています。従来の排水改良は地域の排水路や 暗渠排水で改良されてきました。
 水田の排水改良は暗渠以外に耕起法・心土破砕・溝切り等の営農的な基本技術が重要 です。畑地では土壌や地形などを考慮した排水構造や組織の改善が急務で指針などに反 映させる必要があります。
 近年、暗渠排水資材の利用が活発に行われ、貝殻、木材および伐根チップ、火山性噴 出物等の地域資源が利用されています。営農による対策ではプラソイラーなどの心土破 砕機が改良されています。最近では排水改良の低コスト化が実現してきています。代表 例では泥炭地の転換畑、畑地、草地に適応でき無材型暗渠排水施工機が開発されました。
 また、現在の疎水材暗渠も施工機の改良により低コスト化への取り組みが行われてい ます。さらに、調査設計のデジタル化により約10%前後のコスト減を目指しています。
 その他にも深層暗渠、オプナ一型畑暗渠施工機、土管や樹脂管の改良、生分解樹脂管 の開発、低コスト疎水材や疎水材投入械の開発などが進められています。
 将来は、土壌管理による透排水性維持技術、泥炭地の地下水位制御法などについて取 り組んでいきます。


カラマツチップ疎水材暗渠の断面
カラマツチップ疎水材暗渠の断面


4.豊かな水辺空間の創出

 農村の水辺空間の保全は、生物資源の維持・増殖などの目的の他に、都会には無い価 値の創造として、保健休養機能などもあります。この機能の計量計算は、22,565億円と も言われ、農村の多面的機能の中の洪水防止機能と並んで、最も高い評価額になってい ます。よって、水辺空間を自然環境に配慮して整備することは、将来的に農村の活性化 にも繋げることができます。農村を流れる河川の整備の現状は、近自然という言葉で代 表されるように、自然に似せた方法が取られています。

近自然工法による排水路
近自然工法による排水路


そのため、蛇行はしているが河畔林が全く無かったり、護岸に自然石を使用しているが 魚が住めなかったり、植物の在来種が帰化植物に占有されたりしています。施工する側 も非常に混乱しているのです。このような整備で難しいところは、治水や地下水位の低 下など農業の排水路としての機能を確保しつつ、自然環境との調和を図らなければなら ないことです。そのためには、動植物の生息・生育とともに、排水路としての効果を一 体的に見ていかなければなりません。これからの農業・農村の活性化においては、農村 の価値を生かして人を呼び新たなニーズの創出を図ることが必要になります。今後は、 河川整備技術としての取り組みの他に、住民合意や意識啓発、さらには、活性化への活 動までを含めた展開が重要です。




基盤整備中の水田
基盤整備中の水田



5.土壌流亡の改善と水系への影響

北海道の農村風景を代表する一つでもある、広大な畑作丘陵地帯は、一方で土壌流亡の 深刻な被害で悩まされている地域でもあります。この土壌浸食というものは、営農上多 大な損害を与えるのみならず、近年の環境保全の高まりから、水系への環境負荷など生 態系に対する影響も問題となっています。本試験では、土壌流亡をまず発生源の圃場に おいて、抑制・緩和する手法を確立するのを目的としています。その鍵としては、トラ クター等による踏圧から圃場を養生して、浸透・保水しやすい圃場作りをし、地表流の 発生をいかに抑制するか。
圃場の土壌浸食の状況
圃場の土壌浸食の状況


また、発生した地表流をいかに分散して、一カ所に集中させないように出来るか、この 2点に絞られます。それと同時進行して、道立林業試験場・道立水産孵化場と共同で、 土壌浸食が魚・水生昆虫等へ及ぼす影響や、圃場から水系に至る途中の過程において、 河畔林がもたらすその緩衝機能の評価も行なっています。圃場と川の中間に位口する河 畔林の存在が、土壌保全の立場からも、生態系保護の立場からも、今後ますます重要視 されるものと考えられます。


5.地域と取り組む水環境の改善

 今各地で農村を流れる河川の水質の悪化が問題になっています。環境負荷分を減らす ためには、汚濁源の改善や環境保全型の農業を進めることが必要です。しかし、それで も流出してくるものは、農村の系内で浄化処理し、下流への影響を最小限に抑えなけれ ばなりません。そこでよく行われることは、植生などの自然の力を活用した方法です。 しかし、まだ決め手に欠けるのが現状です。水質浄化の効果を分析することはもちろん 必要ですが、地域の住民が意識を持ち、積極的に取り組みに関わることはさらに重要な ことです。そして、環境教育の一環として、学校教育などにも組み込まれるとその効果 は大きいものになります。西欧などでも見られるように、子供の時から意識を育むこと は、遠回りなようで最も確実な方法だからです。子供たちと一緒に地域の人達が、河川 の水質を考えることは、ビオトープとしての位置づけなど水環境全体への意識に発展し 、農村の多面的機能の認識にも繋がります。個々の成果を地域へ適用することは当然必 要ですが、研究段階であってもその役割を担いながら、地域と連携して水環境の保全に 向けて進むことが求められています。


(北海道立中央農業試験場農業土木部)


地元小学校の自然環境学習風景
地元小学校の自然環境学習風景




研究の成果

水稲の簡便な開花期耐冷性検定法の確立


 北海道の稲作にとって冷害は最大の障害です。不稔を発生させる冷害については穂ば らみ期についで開花期が危険期であることが知られています。また、品種の開花期耐冷 性には遺伝的な差異があることもわかっています。  しかし、穂ばらみ期耐冷性が冷水田(地下水を潅漑水に混ぜ常時19℃前後にして幼穂形 成期以降から穂揃い期までの稲体に深水潅漑する耐冷性検定法)利用により初期世代の選 抜から後期世代の検定まで行われているのに対し、開花期耐冷性については現在の奨励 品種についてさえも明らかにされていないのが実状でした。その理由の一つには、これまでいくつかの検定法が提案されたのですが、その検定に要する労力が大きいため、多数 の材料を扱うことが必要な育種においては実用的でなかったことがあげられます。  今回開発された検定法は、縦15X横5×高さ10cmの小型ポットに主桿のみ8株植したもの を、50%遮光幕付人工気象室を用い出穂日から17.5℃15日間処理に3ポット供試し、9穂調査するという簡便なものです。  本法により全国に先駆けて開花期耐冷性の選抜が可能となり、道産米の安定生産に寄 与することが期待されます。

(北海道立上川農業試験場)
図
現在の奨励品種において穂ばらみ期と開花期の耐
冷性は必ずしも同じではありません。



hagres

平成10年度の研究成果から

 国および道の農業試験場などで開発された研究成果は、北海道農業試験会議を経て普 及に移されます。平成11年1月の同会議には320件の成果が提出されました。
 このうち新品種が11件、栽培技術や家畜の飼養管理、経営などに関するものが94件、 農薬や肥料など新資材の効果確認に関するものが183件、各種機械や施設の性能に関する ものが19件となっています。
 主なものは、新品種:そうか病に強く調理用に適したばれいしょ「根育31号」、早春 から晩秋まで旺盛な生育を示す放牧用牧草ペレニアルライグラス「天北2号」、越冬性に 優れた放牧、採草兼用牧草メドウフェスク「北海12号」、メロンつる割病抵抗性台木「 空知台1号」など、栽培関係:たまねぎの早期播種による前進栽培技術、ねぎの根腐萎ち ょう病菌に対する還元殺菌法、RIPA法(迅速免疫ろ紙検定法)による作物ウイルス病の簡 易検定技術などです。
 また、畜産関係では、平成6年度から始まった家畜糞尿利用技術開発に関するプロジ ェクトの成果が、バイオベッド方式による豚の管理システム、低コスト堆肥化施設、草 地に対する適切な糞尿還元量の設定をはじめとして19件あります。
 これらの技術については、新技術発表会の開催や普及センターによる技術指導、技術 マニュアルの作成などにより普及が図られてゆきます。

(企画情報室)

還元殺菌後のねぎの生育
還元殺菌後のねぎの生育
左:稲わら混和、中央:無混和、右:フスマ混和




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