No.35 1999.9.10

letter HAGRES 北海道立農業試験場だより



(健康な牛群)パイプハウス堆肥舎
パイプハウス堆肥舎
電気伝導度の測定
(健康な牛群)電気伝導度の測定

家畜ふん尿の適正な処理と有効活用をめざして
-家畜糞尿処理・利用の手引き1999- 発行


 北海道の家畜飼養頭数は平成10年度現在、乳用牛88万頭、肉用牛41万頭、豚54万頭、鶏1,078万羽であり、これらの家畜から排せつされるふん尿は年間11.4万トンにも達しています。家畜飼養頭数は年々増加する傾向にあり、これにともない排泄物も今後さらに増加することが予想されます。
 一方、飼養頭数の増加にともなう草地や飼料作物畑の増加はそれほど望めず、耕地面積あたりの飼養頭数が増加します。家畜排せつ物は有機質肥料として有効に活用されてきましたが、近年は草地や飼料畑への還元量も多くなり、一部に過剰な施用がみられたり、草地の片隅に野積み状態でおかれる例もみられます。家畜ふん尿は適正な管理と利用がなされないと環境汚染の原因ともなり、硝酸態窒素による地下水汚染、各種ガス揮散による悪臭などが発生します。家畜ふん尿に由来する環境汚染を防止するためには適正な管理が必要であり、施用にあたっては肥料成分含量を把握して施肥標準に準拠した利用が求められます。
 家畜ふん尿による環境問題が顕在化するなか、これらに対処するため平成6年から10年度にかけて、北海道立農業・畜産試験場のプロジェクト研究として「家畜糞尿利用技術開発事業」に取り組んできました。これらの成果をもとに「家畜糞尿処理・利用の手引き1999」を刊行致しました。ここでは、堆肥化技術やふん尿処理物の施用にあたっての基本的な考え方や技術を紹介しています。家畜ふん尿に由来する環境問題解決のため各種の事業等が進められていますが、これらに役立てて頂ければ幸いです。


(北海道立農業・畜産試験場 家畜ふん尿プロジェクト研究チーム)


研究の成果

家畜ふん尿の適正な管理と有効活用で
環境調和型農業の確立を

1.家畜ふん尿処理・利用の基本的考え方


 家畜ふん尿の処理や利用技術を導入するにあたっては、いくつかの基本的な事項を考慮する必要があります。
処理方法として
  • 簡易で確実な方法であること
  • 低コストであること
  • 管理が容易で容量が十分であること
利用にあたっては、
  • ふん尿の肥料としての価値を有効に活用すること
  • 環境に負荷を与えないこと
管理上留意することとして
  • 流出、地下浸透による水質汚染の危険を少なくすること
  • 悪臭を軽減すること
  • アンモニアの揮散を最小限とすること
などがあげられます。

1)肥料として有効活用を
 家畜ふん尿は窒素やカリウムなど肥料成分が多く含まれます。北海道で飼養されている家畜から排せつされるふん尿に含まれる窒素は化学肥料として施用されている窒素量を上回る量(11.4万トン:平成10年度)となっています。これを有効に活用することが、低コスト生産、かつ環境汚染防止上重要です。


2)ふん尿の適正な管理が求められる
 本年7月に「家畜排泄物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が定められ、耕地への野積みや素掘ラグーンなどの解消を求めています。速やかな対応が必要となります。


堆肥舎と第二貯留槽
堆肥舎と第二貯留槽


3)費用負担能力の把握を
 家畜ふん尿処理・利用技術の導入にあたって、経営的な観点からの検討も必要です。ふん尿処理技術の導入のため、畜産経営がどの程度の費用負担能力を有しているのか把握する必要があります。 技術導入に伴う費用負担の増加額は、ある地域の調査例で以下のようになっています。

   年間費用負担増加額
堆肥舎方式     2,180千円
スラリー方式     2,140千円
固液分離方式     5,842千円


2.ふん尿処理・利用の基礎知識

1)堆肥化の目的  家畜ふん尿を堆肥にして利用する理由はいくつかありますが、今、求められているのは、
  • 汚物感や悪臭をなくし取り扱い易くすること、
  • 病原菌、寄生虫、雑草種子を不活化させること、
の2点です。

2)堆肥化に関与する要因
 あらためて、水分の調整と通気性の確保(酸素の供給)の重要性が確認されます。水分含量を少なくも80%以下にすることが必要です。適正な水分含量であっても通気性が改善され酸素が供給されないと発酵は進みません。切り返しによる酸素の供給によって発酵が維持されます。


水分含量を異にした牛糞の発酵温度
水分含量を異にした牛糞の発酵温度
(新得畜試1998)


3)堆肥化過程における変化
 ふん尿と敷料混合物は、易分解性物質→ヘミセルロース、セルロース→リグニンと順次分解され、それぞれの過程で適合した微生物種が働きます。ふん尿敷料混合物のなかには種々の微生物が存在し、その数は1g当たり数億から10数億程度存在することが知られています。分解過程で働く微生物の種類は逐次変遷していきます。特定の微生物が優占して特異的に作用することは極めて困難です。

4)環境への影響
 ふん尿処理の過程で環境への負荷はガス揮散及びれき汁の流出によって引き起こされます。好気的発酵によって、アンモニアが、嫌気的条件によってメタンや亜酸化窒素などが排出されます。アンモニア揮散は発酵過程でのpHをコントロールすることで抑制することが可能です。



過リン酸石灰混合によるアンモニア揮散抑制
過リン酸石灰混合によるアンモニア揮散抑制
(新得畜試1998)


嫌気的条件では有機酸や硫化水素の発生もあることから、好気的条件に保つことが重要です。また、発酵温度を高く保つことで、病原性微生物の不活化を図ることができます。


3.ふん尿処理の基本システム

1)ふん尿の性状と基本的な処理方法
 ふん尿敷料混合物はその水分含量によって、以下のように区分されます。
  • ソリッド(水分84%未満):麦稈・オガクズなど敷料が十分に使用され(1日1頭当たり6~10kg程度)、簡単に積み上げることができます。これはそのまま堆積・切り返しをすることで堆肥化が可能です。
  • セミソリッド(水分84~87%):敷料の使用量が1日1頭当たり1~2kg程度の場合。積み上げても50~100cm程度にしかなりません。半地下式で、トラクタなどが入れる施設に貯留します。
  • スラリー(水分87%以上):敷料の使用量が極めて少なく、ふんと尿を分離しないで搬出した場合の形状です。貯留は地下ピット、簡易バッグ、スラリーストア、遮水シート敷設ラグーンに貯留します。



飼養方式別の糞尿処理方式
飼養方式別の糞尿処理方式


2)取り扱い性の改善 セミソリッド状のふん尿でも比較的水分が低い場合は水分調節材や戻し堆肥と混合して堆肥化処理が可能となります。セミソリッドで水分が高い場合やスラリーの場合はパーラや牛舎の洗浄水等で水分を92%以上に希釈して固液分離が可能となります。固形分は堆肥化処理、分離液はスラリー処理ができます。


4.ふん尿利用の実際

1)施用量の制限
  • 作物の生育・収量・品質に悪影響を及ぼさない施用量とします。
  • 地下浸透水中の硝酸態窒素濃度が10ppmを越えない施用量とします。
  • 作物ごとにふん尿の種類・施用量に応じて「北海道施肥標準」から施肥量を差し引きます。
  • 減肥量はふん尿中の肥料成分量から決定します。
2)施用時期などの制限
  • 作物が作付けされているか、または施用直後に作付けが予定されている農地以外にはふん尿を散布しない。
  • 積雪期の雪上および土壌凍結時には散布しない。
  • 秋の畑地(裸地)への堆肥散布は地温が十分低下してから(10月中旬以降)実施する。スラリーは散布しない。
3)肥料成分含有率の推定 ふん尿処理物に含まれる肥料成分含有率は、電気伝導度、乾物率および簡易型反射式光度計の測定値から推定することができます。

 肥料成分推定式の例

堆肥
 全窒素 0.0459EC+0.0124DM+0.1249
 リン酸 0.0238EC+0.0092DM+0.0918
 カ リ 0.1428EC+0.1601

スラリー
 全窒素 0.0445EC-0.0438
 アンモニア態
 窒 素 0.0009EC2+0.0091EC+0.008
 リン酸 0.0069EC+0.0119DM+0.009
 カ リ 0.0387EC+0.0268

EC:電気伝導度(mS/cm、25C補正値)
DM:乾物率(重量%)

4)具体的な施用法 -牧草を例に-

(1)肥効率の考え方
ふん尿に含まれる養分のうち牧草に吸収・利用される割合を肥効率と呼びます。肥効率は様々な要因によって変動するので、補正することが必要です。

基準肥効率
ふん尿処理物肥効率(%)
252
当年2年目3年目当年当年
堆肥251053090
スラリー403090
牛尿703090

施用時期による補正
施用時期補正係数
~9月上旬0.8
9月中旬~10月上旬0.6
10月上旬~11月上旬0.5
4月下旬~5月上旬1.0
5月上旬~5月下旬0.8
7月中旬~8月上旬0.8

品質による補正
乾物率(DM%)補正係数
50~0.3
40~500.4
30~400.5
20~300.7
15~200.9
 ~151.0

(2)還元量の設定
  • ふん尿処理物1トンから供給される肥料成分量Y(kg/t)を成分毎に求めます
  • 「北海道施肥標準」に従い、対象とする草地の必要肥料成分量Fを設定
  • ふん尿処理物の施用量をA(t/10a)とし、Y×A=Fとなる量を還元量の上限とします。


5.発酵床方式の提案

 家畜管理とふん尿処理を結合した発酵床方式(バイオベッド方式)も家畜や環境に優しい新たな家畜管理方式として有効です。発酵床方式は敷料(堆肥を用いる)を厚く(数10cm以上)敷設した上で家畜を飼養します。ふん尿は敷料と混じり合い発酵し、畜舎内で処理されます。発酵床の管理は水分の調整と酸素の補給で、堆肥化の基本技術を適用します。

1)メリット
  • 除ふん作業が省かれます。
  • 堆肥舎・尿溜は小規模で済みます。
  • 敷料の使用量が節減されます。
  • 畜舎の建設コストは低くなります。
2)導入にあたっての留意点
  • 発酵床の管理方法の検討
  • 敷料の確保
  • 衛生プログラムの検討



発酵床で休息する牛
発酵床で休息する牛



研究の展望

新たな取り組み
「家畜ふん尿循環利用システム開発事業」

 家畜ふん尿利用技術開発事業(平成6~10年度)を基に、「家畜糞尿処理・利用の手引き1999」を刊行しました。しかし、今日の環境問題を考えると、さらに解決を要する課題が数多くあります。家畜ふん尿にかかわる環境問題は、飼料が家畜に給与されてから排泄物が耕地に還元され作物に吸収されるまでの一連の過程で、環境負荷量を最小限にすることを求めています。すなわち、各過程で負荷物質が系外へ流出することを防止しなければなりません。
新たな取り組みにあたっては、次のことを主要な柱としています。

I.家畜ふん尿による環境汚染防止技術の体系化

 不適正なふん尿施用、ふん尿の野外堆積、パドックの泥ねい化、放牧地(傾斜地)からの養分流出、処理過程での流亡・揮散等、ふん尿処理・利用過程の各々が環境負荷発生の要因となっています。そこで、各過程での汚染物質排出量を定量的に把握し、効果的な環境保全対策を進めるために重点的に対策を講ずべく過程を明らかにする必要があります。また、環境負荷低減の目標値を定め、それにそったふん尿処理・利用技術の体系化を図る必要があります。

II.家畜ふん尿主体の施肥設計システムによる高度利用技術の開発
 ふん尿に起因する環境汚染はふん尿を耕地へ「捨て場」的に過剰施用することも大きな原因となっています。ふん尿を環境に負荷を与えることなく資源として有効に活用するためには、ふん尿の施用時期、施用量、施用方法を地域別、土壌別にきめ細かな技術として確立する必要があります。また、推進にあたっては、土壌診断、土壌診断に基づく施肥対応と結合し、立地条件を加味した1筆ごとの施用量を簡易に示す施肥設計プログラムの開発が有効な手段となります。

III.家畜ふん由来病原性微生物の動態解明と低減技術の開発
 家畜ふんに由来する病原性微生物が新たに問題となっています。この対策として、家畜からの病原性微生物の排泄低減、ふん尿処理過程における病原性微生物の不活化を図らなければなりません。そのためには、免疫機能や生菌剤を活用して家畜からの病原性微生物の排出を低減する技術の確立が必要です。また、排出された病原性微生物は堆肥化過程での高温により不活性化が図られますが、十分な発酵温度が確保できない場合には他の方法を活用した不活性化技術を検討する必要があります。

IV.バイオベッド方式によるふん尿処理技術の実証
 バイオベッド方式は、養豚に対しては利用マニュアルが作成され導入が図られつつありますが、乳牛・肉牛飼養への導入に対しては、衛生対策や経営評価が不十分です。そのためには、乳房炎発生防止を主眼とした衛生対策を確立し、床の発酵を維持しつつ飼養密度を高める必要があります。飼養管理とふん尿処理を結合したバイオベッド方式は環境調和型畜産確立の有効な手段となります。

V.組織的対応によるふん尿処理・利用システムの成立条件の解明
 個別経営の大規模化により、個別処理方式が困難な例が多くなりつつあるとともに、家畜飼養農家の偏在化にともなってふん尿排出量が地域によって大きく異なってきました。ふん尿を有効に活用し、負荷量を低減するためには、ふん尿処理物の地域内あるいは地域間の流通が必要になってきました。これらに対応するため、集中処理方式の成立条件とその組織体制のあり方について検討が必要となっています。



屋根付き堆肥舎
屋根付き堆肥舎



尿散布(採草地)
尿散布(採草地)




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