No.36 2001.1.31 ISSN 0914-8418


特集 道立農試機構改革

 道立農業試験場の新しい姿にご理解を

                中央農業試験場長 下野 勝昭

  21世紀の船出に当たり道立農試の試験研究に常日頃,ご協力,ご支援を賜っている皆様に改めて厚く御礼申し上げます。

  ご承知の通り道立農試は昨年4月,組織機構の一大改革を行いました。その理念は,平成10年3月に農政部が策定した「北海道立農業試験場 新研究基本計画」に基づきます。中でも,道立農試の役割を「21世紀における国際化に対応した本道農業の技術革新を展望し,地域農業の体質強化を支援する技術開発の拠点として専門研究の充実を図りつつ,地域の多様な研究ニーズに機動的に対応する」と規定したことが重要です。

  このため,中央農試の研究体制を10部から5部に再編・統合,滝川畜試の新得畜試への統廃合による新たな道立畜産試験場の立ち上げ,中央農試に企画情報技術センターを創設,植物遺伝資源センター以外の9場に専門技術員を中心とする技術普及部の新設など,様々な組織改革を断行しました。

 また,組織の改革に伴って,各種制度の見直しも必要となりましたが,とくに北海道農業試験会議の諸制度や,評価重視の研究推進システム確立など重要問題については,内外の期待に応えるよう着実に改善・前進を図りつつあります。

 同時に職員の意識改革も重要です。例えば,今回の機構改革の目玉として技術普及部内に設置した技術体系化チームは,課題に応じて研究科から適切な人材を送り込むことになっていますが,その成否は送り込まれた研究員の意識如何にかかっていると言えます。チーム員は選抜されたことを誇りとし,地元の関係者が蓄積した多くの知恵に学びつつ,それを自身の知識と融合することによって技術組立に励んで欲しいと思います。研究科の大型化はこのような視点で行われたことを再認識し,地域密着・実証プラント型の試験活動を展開する所存です。

このような改革・改善を行っているさなか,本庁の総合企画部主導の下,本年度は道立試験研究機関の予算要求の一元化が進められました。とくに,国の競争型研究予算獲得システムを参考として設けられた「重点領域特別研究予算枠」は画期的な試みで,道立農試も積極果敢に応募いたしました。応募結果は間もなく判明すると思いますが,今後とも実用化に結びつく研究課題の発掘と改善効果の著しい技術開発を行い,予算確保に努めたいものです。

  道立試験研究機関の一元化は研究予算にとどまらず,より踏み込んだ展開が予想されます。また,今は前例のないことを実行し,内外に変化を示す時代とも言われています。先行きの不透明感を払拭できない状況にありますが,私達が取り組むべき当面の対応ポイントは,道民の理解を得ることと,社会への貢献を旨とすることに尽きると考えます。そのためにも道立農試全体の研究基盤を一層強固に,そして常にフレキシブルな活動ができる体制にシフトする必要を感じています。さらに,的確な情報発信と明解な説明を心がけることによって,地元住民に愛され,都市住民にも信頼される開かれた道立農試でありたいと念じています。その一環として,既に道立農試10場の広報・宣伝紙「Letter HAGRES」をインターネット上で公開しています。ご活用,ご叱正頂ければ幸いです。

  最後になりますが,農業関係者はもとより道民の皆様にも変わらぬご支援,ご理解,ご愛顧を賜りますようお願い申しあげ,結びと致します。




道立農試21世紀の試験研究および技術普及の展望


売れる品種作りを目指して

中央農試作物開発部長 吉田 俊幸

  内外の厳しい農業情勢の中で,北海道農業を今まで以上に維持,発展させていくには,それを内側から支える新しい品種の開発が必要です。今回の組織機構改革によって,これまで稲作部,畑作部,果樹部で個別に行ってきた品種の開発を,作物開発部に一元化し,効率のよい品種開発を目指します。

  また,これまでは様々な保護のもとに,ともすれば農業者が作りやすい品種の開発に偏りがちであったものを,今後は実際にそれを使う実需者や消費者などの声に耳を傾け,まず第一に売れる品種づくりを目指します。もちろん,いくら売れるといっても病気や様々な障害に弱かったり,機械作業に向かないものは安定生産,安定供給が困難となり,最終的には実需者や消費者の期待を裏切ることになりますので,開発される品種は今まで以上に農業者が安心して作れるものでなくてはなりません。


先端技術の開発と総合化技術の確立を目指して

中央農試生産システム部長 山本  毅

  生産システム部は,これまでの経営部・農業機械部・稲作部の栽培分野に先端技術を加えた総合部として再編しました。栽培技術,機械化技術から経営管理技術に至る,先端技術の開発と体系化・実用化技術を組み立てる研究組織となりました。

  今,農業の生産現場では,国民への安全・安心な食料を安定的に供給するとともに,農村に暮らす地域住民の生活,そこで持続的で生産性の高い営農を展開し,都市住民が訪れたくなる農業・農村活性化への関心が高まっています。この農業・農村及び消費者からの研究ニーズを基本に,衛星リモートセンシングを活用した高品質米生産技術や各種センサーを利用した高精度機械化技術など先端技術開発の推進。米直播栽培の確立や野菜の自動移植と自動収穫体系などの,新たな技術開発及び実用化技術への経営経済的評価を重点に試験研究を進めています。

  さらに,農業の担い手や農地利用など地域の営農条件に応じた農業の発展方向を展望し,このための高収益・低コスト,省力化など多様な実用化技術を確立・評価し,地域農業振興と農村活性化を支援する試験研究を推進しています。


クリーン農業技術のシステム化とステップアップ

中央農試クリーン農業部長 尾崎 政春

  クリーン農業に関する技術開発を効率的に推進するには,病害虫や土壌肥料など基幹となる関連分野の一体化が必要であるとの視点から,これまでの病虫部と環境化学部を再編・統合し「クリーン農業部」が設置されました。当面の目標は,第一に技術のシステム化,第二に技術のステップアップです。道立農試ではこれまで,減化学農薬や減化学肥料などの分野を中心に,70を越す技術を指導に移してきました。これら技術の普及・定着を促進するため,新設された「技術普及部」との連携を強化し,個別技術を体系的に組み立てたシステムとして提示することを考えます。また,クリーン農業技術による栽培が可能な作目数を増やすための技術開発や,天敵や拮抗微生物などを組み入れた総合的病害虫管理技術の開発に取り組むほか,「土づくり」をベースにしたクリーン農業の原点とも言える課題にも取り組みたいと考えます。


土・水環境の保全と豊かな生産基盤づくり

中央農試農業環境部長  能代 昌雄

  化学肥料及び化学農薬に過度に頼った近代農法は土壌,水質汚染を引き起こしてきました。21世紀は農業と環境の時代です。これからの環境研究では,広大な農地を基盤とした持続的な土地利用型農業を創出するため,①土壌,水質の保全技術,②地域における環境容量の把握とマップ化,環境容量内での施肥管理技術,③家畜ふん尿,林・水産系未利用資源,食品加工残渣など地域有機質資源の再利用技術,④簡易迅速な土壌及び作物栄養診断システムなど,生産環境情報の高度利用技術の開発に取り組みます。

また,生産効率一辺倒の基盤整備は健全な耕地生態系,農村景観を破壊してきました。これからの生産基盤研究では,安全で安心な農産物を生産するため,①生物機能を強化した高水準生産基盤造成技術,②自然環境と調和した環境整備技術,③農村の多面的機能の維持・向上技術の開発などに取り組みます。これらの農業環境研究はクリーン農業,生産システム,農産品質研究部門と密接に連携をとりながら効率的に推進させていきます。


道産農産物の可能性を拡大する先端技術

中央農試農産工学部長 村上 紀夫

作物に求められている耐病性などの付与や消費者・実需者のニーズに応える高品質など,多様な作物資源の利用拡大を図ります。また,道産農産物の販売拡大に向け,農産物の特徴を明らかにして新たな用途開発を目指します。バイオテクノロジーに関する試験では,培養が困難な作物の細胞・組織培養技術の開発,育種のための葯・胚培養技術や体細胞突然変異等の利用による新育種素材の作出,有用遺伝子を解析・単離し,遺伝子導入技術の開発や育種の効率化のためのDNAマーカー選抜技術などを開発します。また,難防除ウイルス病の遺伝子を解析し,遺伝子診断技術を開発します。農産物の品質に関する試験では,道産米や麦類・豆類・野菜類などについて,機能性成分などの品質特性の解明,用途別の加工適性,品質評価基準値・指標値,評価判定法などを開発します。開発された評価判定法の簡便化を図り,栽培現場や育種などにおいても利用できるものとします。さらに,北海道の自然環境を生かした農産物の高品質貯蔵法を明らかにします。


安全で多様な高品質畜産物の供給

畜産試験場家畜生産部長 川崎  勉

  本道の畜産は,畜産物の一貫した需要増加を背景に,地域農業を支える基幹部門として発展してきました。今後は,畜産経営の体質強化,飼料自給率の向上,環境調和型畜産の発展を図り,また,安全で多様な高品質畜産物を求める消費者の要求に応えるため,①受精卵クローンなど高度なバイテク技術を利用した家畜の改良と増殖,②低コストで高自給率の放牧活用型飼養技術や省力多頭管理技術,③搾乳ロボット・自動給餌システムなど電子機器を利用した高度な牛群管理技術,④繁殖性向上技術と代謝病・感染病の予防技術,⑤耐病性・耐寒耐冷性多収牧草品種の育種と地帯別高品質自給飼料の安定生産技術,⑥自給粗飼料の有効利用による良質牛肉生産技術,⑦SPF豚による高品質豚肉生産技術,⑧性判別クローン技術のフィールド利用や遺伝病のDNA修復技術,⑨家畜糞尿の高度利用技術,環境汚染防止対策技術,⑩機能性卵の作出技術,牛乳の風味や機能性成分向上技術,などの開発に取り組みます。


21世紀の花つくり,野菜つくりのために!

花・野菜技術センター研究部長 志賀 義彦

  冷涼気候と広い耕地面積,本道は花および野菜の生産地として大きな優位性を持ちます。21世紀は北の時代,産地基盤の強化に資する技術開発を進め,本道の清涼感に溢れる北の花と野菜,消費文化の発信基地を目指します。

  花は冷涼性花きの安定生産と作期の拡大,道産ブランド品種の開発,新たな需要に対応した品目の開発・導入を目指します。夏期,高温期の安定生産,トルコギキョウ,アルストロメリアなどの作期拡大,ゆり,デルフィニウムの新花色,新花形品種の育成,新規需要に対応した小球根類のコンテナ栽培を進めます。

  野菜は高品質,病害虫抵抗性,新作型対応多収品種の開発,輸入対抗品目の高品質安定生産,新たな品目の開発・導入を目指します。メロンではつる割病,えそ斑点病,アブラムシなどに抵抗性を持つ高品質品種の育成,いちごでは四季なり品種の育成,たまねぎでは新作型対応品種,高機能性品種の育成も目指します。アスパラガスの多収技術,かぼちゃの省力化技術に向けた取り組みも進めます。


地域と連携した課題解決と新たな普及活動

中央農試技術普及部長 山崎 信弘

  専門技術員は,改良普及員の指導及び専門技術の調査研究を行うことが主たる業務ですが,新たに研究と普及の連携を強化し,地域課題への迅速な対応を行うという業務が加わり,専門技術員を核として技術普及部が誕生しました。

  部内に新たな業務の目的達成のため編成された技術体系化チームは,専技・研究員等で構成され,開発された技術の体系化と普及定着を目指すとともに,普及センターや現地と協力して地域課題の解決を図ることとしています。

  普及センターは,従来の活動を大幅に見直し,地域農業をどういう方向にリードしていくかという地域ビジョンを持って,地域の市町村,農協,農業者と協議した上で,役割分担を明確にして普及活動を行うこととなります。

  地域課題への迅速な対応や地域ニーズ,高度情報化への対応がより重要となり,これらの課題解決のため,研究部門と普及部門との連携,特に技術体系化チームによる課題解決手法が有効に働くこととなるでしょう。





畜産試験場新庁舎完成


ガラスカーテン壁で試験研究の先進性を表現している新庁舎


反芻家畜の基礎的な代謝整理を実験できる人工ルーメン装置


開場記念式典会場となった講堂

○新・畜産試験場のシンボル 畜産研究再編整備構想に基づき,長い歴史を持つ新得と滝川の両畜産試験場が統合され,12年4月に新しい畜産試験場がオープンしました。その総合研究庁舎は,長辺80mの4階建て本棟および平屋で別棟の講堂からなり,延べ面積は約6,500㎡,日高山脈を背景に偉容を誇り,まさに新・畜産試験場のシンボルとなっています。 4階から順に紹介します。

○肉牛研究の充実 4階には滝川から移転した中小家畜関連の2科を含む家畜生産部4研究科が配置されています。肉牛研究は黒毛和種へシフトされ,育種・飼養・肉質評価の全面的な研究充実により高品質牛肉生産技術の確立を目指しています。

○先端技術開発の拡充強化 拡充強化部門の畜産工学部4研究科が4階の一部,3階の大部分,さらに2階の東半分を占め,細胞操作実験室(クリーンルーム)・ウイルス実験室など14の実験室を駆使し,繁殖や衛生に係わる先端技術の開発に取り組んでいます。

○畜産研究の調整と技術普及 2階の西半分に「研究調整」ブロックがあり,場長室・副場長室に連絡調整室が併設され,畜産研究のセンターとして調整機能を担っています。それに隣接して技術普及部が配置されており,試験成果の体系化と現地実証を推進しています。

○畜産環境研究の強化 1階東側に環境草地部研究2科が配置され,とくに家畜糞尿の処理・利用の研究設備が強化されています。西側に総務部と枝肉調査室が配置されています。

○地域への開放 地域の生産者や技術者との連携強化のため,技術指導室や開放実験室を設置しています。別棟で150名収容の大講堂は一般にも開放され,本棟とは展示とくつろぎの空間で結ばれています。この新庁舎の機能を十分に活かし,地域に開かれた親しみやすい試験場として明日の畜産を拓いていきたいと思います。

  

編集事務局から
  レターハーグレスは,昭和62年に創刊され,これまでに36号の発行を数え,各号4ページカラーの誌面で,道内外の各関係機関等へ道立農試のトピックスなどをお知らせしてきました。
そうしたなか,情報の電子化が急速に進み,広報活動においても大きな変革の時がきています。そのような流れを受け, 本誌も次号からは,ホームページでの提供(HTMLおよびPDF形式で配信)を基本とすることにしました。
  これにより,これまでの配布に近い形をつくれるものと考えておりますので,今後とも皆様にはご理解,ご協力をお願いいたします。


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