水稲新品種候補系統
「空育酒170号」の特性概要

                                                    北海道立中央農業試験場 
                                                    生産システム部水田農業科

1.特性一覧表
系統名 空育酒170号 交配組合せ:北海278号(初雫)/空育158号(吟風)
特性 長所 短所
1.千粒重が重く、多収である。 1.開花期耐冷性が弱い。
2.穂ばらみ期耐冷性が強い。 2.心白発現率が変動しやすい。
3.蛋白質含有率が低い。  
採用予定県および
普及見込み面積
北海道  1,000 ha
調査地 中央農業試験場岩見沢試験地 上川農業試験場
調査年次 平成16〜17年(中苗標肥) 平成16〜17年(中苗標肥)
系統・品種名 空育酒170号 対照 対照 対照 空育酒170号 対照 対照 対照
吟風 初雫 きらら397 吟風 初雫 きらら397
出穂期の早晩性 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
成熟期の早晩性 中生の早 中生の早 中生の早 中生の中 中生の早 中生の早 中生の早 中生の早
草型 中間 中間 中間 穂数 中間 中間 中間 穂数
出穂期(月・日) 8.01 8.02 8.02 8.02 7.24 7.25 7.24 7.25
成熟期(月・日) 9.14 9.15 9.14 9.18 9.09 9.09 9.09 9.10
登熟日数(日) 44 44 43 47 47 46 47 47
稈長(㎝) 63 63 66 64 58 56 62 58
穂長(㎝) 16.3 16.2 15.6 16.3 16.0 16.1 15.3 15.8
穂数(本/㎡) 676 601 604 774 502 492 501 683
芒の多少・長短 少短 稀短 稀短 稀短        
ふ先色 黄白 黄白 黄白 黄白        
脱粒性        
耐倒伏性 やや強〜強 やや強〜強 やや強 中〜やや強        
穂ばらみ期耐冷性 やや強 極強 やや強        
開花期耐冷性 極弱 極弱 やや強        
いもち病
抵抗性
遺伝子型 Pik Pii,Pik Pik Pii,Pik        
葉いもち やや強 やや強 やや弱        
穂いもち やや強 やや強        
玄米重(㎏/a) 67.0 65.6 65.2 61.4 58.0 52.5 56.6 59.5
玄米重標準比(%) 102 (100) 99 94 110 (100) 108 113
玄米千粒重(g) 26.8 25.0 25.1 23.0 25.2 24.3 24.3 22.2
玄米等級 1 1 1 1 1 1 1 1
玄米品質 中上 中上 中上 中上 中上 中上 中下 上下
心白の多少
蛋白質含有率(%) 6.8 7.3 6.7 6.9 6.4 6.8 6.2 6.6
アミロース含有率(%) 22.8 22.5 23.5 20.3 21.9 21.2 22.8 20.1
注1)平成15年度は冷温による不稔発生のため、データは平成16〜17年度の平均とした。
注2)酒米の玄米等級、品質は酒米としての評価を示す。

 

2.酒造適性一覧表
(対照、「吟風」。平成16年度ニセコ町、仁木町産米。道内酒造メーカー4社1回の大規模醸造試験を札幌国税局鑑定官室とりまとめ結果)
項目 札幌国税局鑑定官室コメント
心白発現 「吟風」に比べ劣るものの、過度の心白の発現は高度精米時に砕米の発生が多くなるなど必ずしも心白発現の状況は酒造米の優劣に影響しない
ものと考えられる。
精米適性 無効精米率は低い。精米時間が長めの結果から硬い印象
浸漬吸水 少し長めで、硬い印象
製麹特性 さばけがよいので作りやすい。
酒母 変わらない。
醸造経過 「吟風」に比べ、若干溶解性が良い印象
作業性 原料処理、蒸米および製麹作業性が良好
製成酒の分析値 特に差はない。
官能試験 優劣判別できず。
「空育酒170号」は硬い蒸し米を好む業者、または、きれいなタイプの酒質を好む業者に評価される。
一方、「吟風」は柔らかい酒質を好む業者に評価される。
注)玄米900〜2000㎏を供試。

 

3.「空育酒170号」の特記すべき特徴
 「空育酒170号」は大粒で心白を有する中生の酒造好適米系統である。また、千粒重が重く多収であり、穂ばらみ期耐冷性が強く、蛋白質含有率が低い。

4.奨励品種に採用しようとする理由
 道内初の心白を有する大粒の酒造好適米「吟風」は、平成13年度から本格的に生産が始まった。平成17年には道内10社で46銘柄の「吟風」を100%使用した酒が販売され、全国新酒鑑評会で2年連続金賞を受賞するなど、道内外での評価が高まっている。
 しかし、清酒をめぐる情勢は厳しく、最近の全国的な清酒需要の落ち込みのため、酒造メーカーは清酒の生産量を減らさなければならない現状にある。また、現在北海道内で酒造原料米として3,205トン(平成16年)が使用されているが、このうち北海道米の占める割合は27.7%にすぎない。これらを反映して、平成17年度の道内の酒米作付面積は、「吟風」176ha(前年比72%)、「初雫」10ha(同53%)と、いずれも前年に比べ減少している。
 この状況を打破して、北海道酒米の地位を確固たるものとし、作付面積の拡大を図るには、道内の酒造メーカーにおける北海道米の使用割合を高めることと、酒造好適米として道外への販路を拡大することが必要である。そのためには収量と品質の安定性の一層の向上が求められている。
 「吟風」は酒造適性は高いが、耐冷性が不十分で、蛋白質含有率がやや高いので、年次や地域による収量と品質の変動が大きく、とくに冷害の影響を受けやすい。このため、作付地帯を良地帯に限定せざるをえず、適地外での「吟風」の作付は道産地酒の酒質低下をまねく危険がある。一方、「初雫」の栽培面積は減る一方で、今後も作付け面積の増加は見込めない。
 「空育酒170号」は、心白の発現率はやや低いものの、「吟風」の欠点である穂ばらみ期耐冷性が「強」に改善され、さらに蛋白質含有率が低く、千粒重も重く「初雫」並に多収である。また、大規模醸造試験の結果、「吟風」と醸造適性に差はないが、酒質が異なる。

 以上のことから、「空育酒170号」を「初雫」の全てと、不適地に作付されている「吟風」および「きらら397」などに替えて普及することにより、北海道の酒造原料米の品質向上と安定生産を図り、北海道米の販路の拡大を図る。

5.普及見込み地帯および対照品種
 1)栽培地帯  上川(士別市以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、胆振、日高、渡島、檜山各支庁管内の低蛋白質米安定生産が可能な良地帯
 2)普及見込み面積 北海道 1,000ha
 3)対照品種 「初雫」の全部、および「吟風」と「きらら397」の一部

6.栽培上の注意
 1)初期分げつが少ない傾向にあるので、栽培基準の栽植密度を守り、側条施肥など初期生育を促進する栽培法を心がける。
 2)蛋白質含有率が高いと酒質を低下させる原因となるので、多肥栽培は避ける。