アメリカの大豆事情

道立十勝農業試験場研究部豆類第一科 田中義則

はじめに

平成9年度の北海道長期海外研究事業により,アメリカ中部のアイオワ州立大学で研究する機会を得ました。「大豆の省力・多収草型育種技術の開発研究」を研究テーマに,大豆の遺伝育種分野で最先端のアメリカにおいて技術の習得と知見を広げ,北海道立農試で取り組んでいる省力栽培向き多収品種の開発に役立てることが目的でした。期間は昨年6月中旬から今年2月までの8ヶ月間でした。

ここでは,滞在したアイオワ州でみたアメリカの大豆栽培の状況および研究動向について紹介します。

アイオワ州の大豆生産規模と生産性

アメリカ農業における大豆は,生産面積,農業生産額ともにトウモロコシに次ぐ重要な輸出作物のひとつであり,1997年の統計では収穫面積 2,828万haで生産量 7,422万tといずれも世界最大の大豆生産を誇っています。そして,アイオワ州は,イリノイ,ミネソタ,インディアナ,オハイオ州などのコーンベルト地帯を構成する州のひとつで,これら5州で全米大豆生産量の約60%を占めています。

その中でもアイオワ州は,最大の作付面積と生産量を誇っています。その規模は,昨年の初秋にアイオワからイリノイに続くハイウエーを一日走っても,トウモロコシ畑と大豆畑が地平線の彼方まで続くほどの広大さです。その年のアイオワ州農家の平均耕地面積は約137haで,主にトウモロコシと大豆の2年輪作で栽培されています。昨年の反収は,全米平均が262㎏/10aに対してアイオワ州は313㎏/10aと高いものでした。昨年は,一昨年に続く豊作年であったこともあり,アイオワ州の大豆生産者で競うコンテスト(増収記録会)では544㎏/10aの多収記録が出ていました。

大豆生産に伴う課題

コーンベルト地帯の大豆とトウモロコシによる典型的な2年輪作体系は,徹底した機械化による生産の効率化と輸出農産物としての収益性を追求した結果といえます。しかし,一方で短期輪作による土壌病害の発生や畑耕起後の大雨によって表土が流亡する土壌浸食などの環境問題は,現在も農家やその地域の大きな問題となっています。

病害では,茎疫病,菌核病,落葉病,斑点細菌病,立枯病(Damping off),そして最近ではフザリウム菌が病原であるSDS(突然死症候群)などの発生が問題となっています。また,大豆の短期輪作で拡大するダイズシストセンチュウ被害も深刻な問題です。対策では、耕種的防除として病害抵抗性品種の選択,緑肥作物導入による長期輪作,栽培方法の改善,病害株の処理など,そして薬剤防除が指導されています。

より抜本的問題解決をめざす環境保全型農業の研究が、1987年からアイオワ州立大学のレオポルドセンターを中心に広範囲に行われています。例えば,トウモロコシと大豆の2年輪作から,トウモロコシ,大豆,トウモロコシ,エン麦,牧草の5年輪作に関する研究や,土壌浸食防止と低コスト生産をねらった大豆の不耕起栽培法の研究があげられます。

不耕起栽培による低コスト,省力化と持続的農業

10年以上前から大豆の不耕起栽培に関する研究が始まりましが,当初は慣行の耕起栽培に比べ前作トウモロコシの茎葉残渣が畑に残るため地温上昇に遅れが生じ出芽率が劣りスタンドの確保が難しい,加湿気味な土壌条件で生育するため土壌病害,特に茎疫病が発生しやすい,さらに雑草管理が難しい,それらの結果収量性が劣るなどの欠点が指摘されていました。

しかし,最近では次に述べる新技術の導入により,生産性,収益性の面でも慣行の耕起栽培と遜色ない水準となっています。まず,播種作業では,地温上昇が早い作土の浅い位置(播種深度1.9~2.5㎝)に精度よく播種可能な不耕起専用播種機の開発。土壌病害では,排水対策とともに茎疫病に有効な種子または土壌処理の殺菌剤の利用。雑草対策では,ラウンドアップやパラコート除草剤による播種前処理体系に加え,モンサントが開発したグリホサート抵抗性遺伝子やデュポンが開発したスルホニルウレア抵抗性遺伝子を組み込んだ除草剤耐性品種による生育期処理体系の実用化(写真1)。この他,パイオニアやアスグロウなどの民間種苗会社が,低温加湿な土壌条件で出芽が良く,茎疫病に抵抗性があり,速やかに畦間を塞ぐ叢生な生育型の不耕起栽培に向いた品種を育成していることも不耕起栽培普及の理由として挙げられます。さらに,十勝地方の農家で一時期試行された狭畦幅による不耕起栽培も指導されています(写真2)。この狭畦幅不耕起栽培は,25~38㎝程度の畦幅で栽培することで畦間の雑草発生を抑制し密植による増収を図るねらいがあります。

以上のようにアメリカにおける大豆生産は,従来の高い生産性に加え,最近の不耕起栽培や除草剤耐性大豆品種の利用による低コスト生産,さらに長期輪作の試行と土壌浸食対策などの持続的または環境保全型の農業を同時に目指しているといえます。

日本向け食用大豆品種の開発

現在日本では年間約470万tの大豆を消費し,そのうちの約98%がアメリカを始めとする海外からの輸入に頼っています。国産大豆の生産量は1995年で12万t,自給率は約2%です。用途別の需要量では製油用が78%,食品用が20%,残りが飼料用です。国産大豆はすべて食品用に向けられますが,その自給率もわずか約15%にすぎません。その他の食品用大豆の大半はアメリカからの輸入ですが,その中でもIOM大豆(インジアナ,オハイオ,ミシガン州産)が多く輸入されています。しかし,近年はより国産大豆に近い品質の(白目大粒でたんぱく質含量が高い)バラエティー大豆の輸入が徐々に増えています。このバラエティー大豆は,豆腐・油揚げ専用種としてアメリカで品種改良されたもので,主にビントン81などが日本メーカーから高い評価を得ているようです。

私も渡米以前から日本向け食用大豆品種の存在は知っていましたが,滞在したアイオワ大学の大豆育種研究室で,地元の大豆生産団体かの資金援助に加え日本の豆腐,納豆,煮豆メーカからの委託研究が行われていること(写真),最近の育成系統の中には百粒重が31g前後の白目大粒で高たんぱく質の系統があることを知り非常に驚きました。また,バラエティー大豆品種は,一般に加工用品種に比べ収量性が劣るためプレミアムを付けて契約栽培されています。しかし,新しい系統は収量性の点でも改良されているため,今後生産農家にとっても魅力ある品種となりそうです()。

これまでも国産大豆は豆腐,納豆,煮豆・惣菜等の業界において品質,味,風味の点で高い評価を受け,特価製品や高付加価値食品として利用されてきました。しかし,1970年以降国産大豆は,米の生産制限による転作大豆面積の拡大とその規制緩和による作付面積の減少と最近の天候不順などが原因で,生産量が大きく変動し供給不安定と原料価格の高騰を招きました。この間、日本の大豆食品加工メーカーは原材料の安定的確保と低価格原料をアメリカに求め,その結果アメリカは日本をはじめ経済成長の進むアジア各国の食品用大豆市場に一層注目するようになったと考えられます。

大豆の先端研究

アイオワ州立大学で現在取り組んでいる基礎研究として,遺伝子組換えや遺伝子の機能解析に必要なゲノム解析,中国などから導入した大豆遺伝資源の特性評価,トウモロコシやタマネギなどで利用されている雄性不稔遺伝子と媒介昆虫を用いたF1(ハイブリットダイズ)に関する研究が盛んでありました。そして、これらの研究が着実に進展しているという印象を受けました。

また,大豆の新品種開発の分野では,多数の民間種苗会社がお互いに激しい競争を行っています。そして,これら民間の品種開発を農務省や大学の研究機関が基礎研究の分野から支えています。さらに,費用のかかる基礎研究に対しては生産団体,民間種苗会社,それに日本の加工メーカーが資金援助をしていました。このような産学官の連携による研究システムの充実も印象に残りました。

おわりに

他にカナダも日本の納豆大豆市場に向けた品種開発と生産を行っています。しかし,国産大豆は,豆腐,納豆,煮豆・惣菜等の用途において品質,味,風味の点で依然輸入大豆には負けない高い評価を受けています。よって,大豆を生産する側として国産大豆の品質と美味しさを守り,安全で安定的供給を望む消費者や実需の期待に応える努力がこれからも必要でしょう。そして,私ども農業試験場は、今後も優良品種と新技術の開発を通じて生産者のみなさまを支援して参りたいと思います。

 

 アイオワ州立大学で開発された日本向け食品用大豆品種

品種名

収量
(㎏/10a)

成熟期
(月日)

粒大
(g/100粒)

タンパク質含有率(%)

脂肪
含有率(%)

特性

VINTON 81

334

9/11

21.4

36.6

18.1

白目・大粒・高蛋白

IA2034

401

9/15

21.2

37.1

17.5

白目・大粒・高蛋白

IA3009

376

9/19

30.2

35.0

18.8

白目・大粒

IA2035

309

9/15

6.9

38.2

14.2

白目・極小粒

IA2030

375

9/13

21.2

36.0

18.5

リポキシゲナー欠失

注) 1997年の試験成績から一部抜粋。タンパク質と脂肪の含有率は,水分13%換算。