酸性雨用語集


アルカリ度
水のpHが変化する前に、いくらかの酸を緩衝することができる能力度を示す。これがゼロになると、酸の増加は直接pHの変化につながる。日本の湖沼は、平均的には欧米の湖沼よりアルカリ度が高いと言われている。

酸性雨つらら
通常の雨は大気中の二酸化炭素により弱酸性(pH5.6程度)を示し,非常に長い年月をかけて鍾乳洞などが作られる場合があるが、最近では酸性雨によって、そのような現象が人工の建物でもみられ、酸性雨つららと呼ばれている。これは、溶けたカルシウムが割れ目を伝って落下するときに少しずつ析出し、中が空洞なつららができるためである。コンクリートには、硫酸イオンの成分が含まれているので、酸性雨つららの特徴は、硝酸塩が見られることとなっている。

pH(ピーエッチまたはペーハー)
pHは酸性雨には必ず顔を出す指標であるが、0-14まであり,真中の7が中性、これよりpHが小さいと酸性、大きいとアルカリ性となり,数字が小さいほど酸が強く、H+濃度が高いことを示す。またpHは1違うと10倍、2違うと 100倍濃度が異なる。広範囲の濃度を示すには便利な指標だが,pHが6から5に下がったことは、10倍になったと分かっても、さらに同じだけ酸が増えた場合はpH 4.7で、5からたった 0.3しか下がらないため,分かりにくい場合もある。H+濃度や沈着量は、後述する臨界負荷量などに用いられ、降水の酸性化のみならず、土壌や陸水の酸性化を予測するための重要な指標である。なお、H+濃度は他の成分(陽イオン、陰イオン)のバランスによって決定され、陰イオンの和からH+を除く陽イオンの和を引いた値がH+となる。

硫酸イオン (SO42-)
SO42-は、海塩,火山から排出されるガス、微生物活動によって排出される硫化水素などの自然発生源由来の場合と、主に化石燃料の燃焼によって発生する二酸化硫黄に由来する成分である。海塩由来成分はほぼ中性塩であり、酸性化には寄与しない。そこで硫酸として降水に含まれる成分を考え,非海塩由来成分(non-sea salt: nss-)としてnss-SO42-が用いられる。nss-SO42-濃度や沈着量は降水の酸性化、土壌や陸水の酸性化に関する重要な指標である。

硝酸イオン(NO3-
NO3-は、主に化石燃料の燃焼によって発生する窒素酸化物に由来する成分であり、硝酸として降水に含まれる。そのため、降水においてはnss-SO42-とともに酸性成分と呼ばれる。しかし土壌中では、微生物の活動に使われる際に土壌の酸性化を抑制する働きをする場合がある。また陸水では、湖沼の富栄養化の原因となる栄養塩で,その濃度や沈着量は、H+,nss-SO42-と同様に降水の酸性化、土壌や陸水の酸性化などに関する重要な指標である。

塩化物イオン(Cl-
Cl-は、主に海塩由来の成分であるが,ごみ焼却場から排出される塩化水素(HCl)などが降水を酸性化する場合もあり,しばしば酸性成分として重要となる。

ナトリウムイオン(Na+
Na+は、主に海塩由来の成分と考えられている。特に海に囲まれた日本では全てが海塩由来とされ,SO42-、Ca2+などの海塩由来の割合を算出するのに用いられる。非海塩由来成分(non-sea salt: nss-)は,海塩組成比からNa+を基準に海塩由来のSO42-、Ca2+を算出し、SO42-、Ca2+から差し引いた残りをnss-SO42-、nss-Ca2+と表す。

■カリウムイオン(K+
K+濃度や沈着量は、海塩や化石燃料の燃焼にも由来するが,降水試料が植物の種子や葉、鳥の糞尿などに汚染されていないことを調べる上で重要な指標である。

■カルシウムイオン(Ca2+
Ca2+は、海塩,土壌粒子(黄砂などを含む)、道路粉塵等に由来する成分である。海塩由来成分はほぼ中性塩であり、酸性化や中和には寄与しない。そこで酸を中和するアルカリとして降水に含まれる成分を考え,非海塩由来成分(non-sea salt: nss-)としてnss- Ca2+が用いられる。H+濃度、沈着量の増加,すなわち酸性化は、nss-Ca2+濃度、沈着量の減少によっても引き起こされることから、降水の酸性化に関する重要な指標である。

■マグネシウムイオン(Mg2+
Mg2+は主に海塩由来の成分である。Na+が海塩由来成分であることをチェックする場合に,Na+とMg2+の比がチェックされる。Na+より濃度が低いため,非海塩由来成分の算出にはあまり用いられないが,Na+が他の発生源の影響を受ける場合など,重要な海塩の指標となる。

■アンモニウムイオン(NH4+
NH4+は、農業で使われる肥料や酪農の家畜の糞尿、さらに化石燃料の燃焼などに由来する成分である。降水においては酸を中和するアルカリ成分であるが、土壌中では微生物の活動に使われる際に土壌の酸性化を促進する働きをする場合がある。またNO3-と同様に、陸水では湖沼の富栄養化の原因となる栄養塩で,その濃度や沈着量はH+、NO3-と共に土壌の酸性化などの重要な指標である。

欧州の酸性雨問題
欧州においては、1950年代までは肥料をやらなくても作物がよく育つようになり(窒素化合物の影響)、湖などでは釣れる魚が大型化する(稚魚が死滅、餌のプランクトンの死滅などに起因する)など、原因がわからないまま人々は喜んでいたなどの経緯があった。その後、酸性雨問題の父と呼ばれるスバンテ・オーデン博士らによって、原因や、汚染地域について調査研究が進められ、アンガス・スミスから100 年後、ようやく酸性雨は国際的な環境問題と認められるようになった。欧州における降水の測定網(EMEP)は、1940年代にスカンジナビア半島で始まり、1950年代までには全欧州に広がった。欧州の地域の森林や湖沼への影響は深刻で、21世紀には森林被害だけで毎年 300億ドル、日本円にして3兆7500億円にもなるだろうと言われている。

■北米の酸性雨問題
北米においては、1950年代に入って降水の測定網が整備され始め、1972年のストックホルム会議、1973年の全米の小中学生による全国調査が行われた。この小中学生による酸性雨調査結果によってはじめて発生源から遠く離れた地域でもpHの低い雨が観測されたことに触発され、ようやく1976年には、カナダも含んだ酸性雨の測定網(NADP)が整備された。その結果、汚染物質の40%は中西部で排出されているにも係わらず、降水の汚染は北東部に集中しており、特に五大湖の南東部、米国とカナダの国境付近に、最もpHの低い地域がある。これらの地域の山地では森林が死滅したり、魚が住めなくなった川や湖が各地でみられている。また、最近では西部でも低pHの雨や雪がみられるようになってきた。

日本の酸性雨問題
日本においては古くは奈良の大仏の鋳造時に多くの酸性雨が降ったであろうと推測されている。また1884年から70年間、亜硫酸ガスなどの汚染物質を排出し続けた有名な足尾銅山事件は、酸性雨としてもしばしば取り上げられている。これらは、いずれも大気中の硫黄酸化物などによる大気汚染として有名になり、後日、酸性雨問題がクローズアップされることによって、改めて酸性雨問題の中に位置づけられるようになった。このことは,酸性雨による被害が広く知られるようになるまで,二酸化硫黄の降水への取り込みは「降水の大気浄化能力」といった形で研究が行われていたことでもわかる。つまり、酸性雨は新しい環境問題ではないが、「降水の酸性化による環境影響」が本当に問題視され始めたのはここ40年程度でしかない。これは、自然の浄化能力を過信したことに起因している。

東アジアの酸性雨問題
これらの酸性雨の問題は、工業化が進んだ欧米や日本などの先進国だけではなく、近年、急速な工業化を急ぐ発展途上国でも問題が起こっている。例えば中国では、硫黄分の多い石炭を用いた工業化が進み、都市の内部では日本の川崎や四日市のひどいとき以上の大気汚染が起こっており、そのスモッグは4000人もの死者を出したロンドン・スモッグにも匹敵するといわれている。当然、汚染物質を削減する装置もなく、高煙突化もしてないので、周辺の地域では高濃度の汚染物質を含んだpHの低い雨が降っている。この影響によって、観光地として有名な峨眉山をはじめ、各地で森林が枯れたり、歴史的建造物などへの被害が起こっている。他にも韓国、台湾,マレーシア、などでも酸性雨の調査研究が進められ,現在は東アジア各国共同で酸性雨のモニタリング(EANET)が行われている。

■日本の酸性雨に関する調査研究
1975年から関東地方で、「湿性大気汚染調査」が始まり、その後、環境庁の第一次、第二次酸性雨対策調査が行われている。その後健康影響に関する報告は減少したが、降水の酸性化の自然生態系への影響に関する調査研究は全国に拡大している。その中では、関東地方のスギ枯れや苫小牧地方のストローブマツの異常落葉、広島の松の立ち枯れ、神奈川の大山、群馬の赤城山、さらに記憶に新しい奥日光における種々の樹木の立ち枯れや日本海側の地域におけるナラ類の枯死などの植物影響が観測されており、酸性降水や酸性霧との関連が検討されている。また陸水への影響についても、中部山岳地帯の河川のpH低下などが報告されている。

酸性雨に対して弱い地域
土壌の耐酸性に関する実験結果では日本の土壌は酸に対する緩衝能力に優れている土壌が多く、欧州や北米のような土壌、陸水の酸性化は起こりにくいと考えられている。このように酸性雨の負荷に対する基準を,臨界負荷量(Critical load)と呼び,全国の臨界負荷量についての研究も行われている。

■アスファルト粉じん
アスファルト粉じんはスパイクタイヤの使用に伴って削られて発生した道路ダストである。成分中に炭酸カルシウム(CaCO3)が多く含まれていたため,降水中の酸を中和し,pHを高くしていたが,この中和作用は主に都市部であり,山間部ではあまり寄与していなかった。またアスファルト粉じんには石油精製の残さ等が含まれており、アスファルト粉じん問題が続いていたならば、重金属や化学物質による環境汚染がさらに問題となっていたことも考えられる。この様に、様々な環境問題は複雑に関連していることを示しており、環境問題の対策は難しいことが分かる。

■酸性雪
雨は降ると同時に、植物や土壌に接触し、河川や湖に比較的短時間で流出するが、雪は積雪として春先の融雪時まで蓄えられる。この時、雪に含まれる酸性成分も同様に積雪中に蓄えられる。東北などでは積雪期間中も成分の溶出が起こるが、北海道では春先の融雪時まで蓄積される。積雪中の成分は融雪率20%で50%の成分が、融雪率50%で80%の成分が流出するという報告がある。そのため融雪初期には濃縮されたpHの低い融雪水が流出する。また春先はまだ土壌が凍っている場合も多く、また融雪水は積雪中の氷板を伝って流出することも多いため、土壌の緩衝をあまり受けずに河川や湖沼に作用する。そのため融雪水の陸水生態系に及ぼす影響は、短期的であるが雨の場合に比べて大きいと考えられている。このような低pHの融雪水の影響をアシッドショック(Acid shock)と呼ぶ。

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