試験研究は今 No.671「平成22年度水産研究本部成果発表会の概要について」(2010年09月01日 )
口頭発表
「磯焼け対策の一つの試み」(中央水産試験場 金田友紀)
ウニの過剰摂食による磯焼け解消のために、ウニの摂食行動を流速により抑制できるよう計算したウニ増殖礁を寿都に設置した。その結果増殖礁天端面では計算通りウニの侵入が阻止されホソメコンブの群落が形成された。また施設縁辺に蝟集したウニは十分な身入りの改善も図られた。
「栽培漁業で資源を増やす」(栽培水産試験場 村上修)
マツカワの大量放流が2006年からえりも以西海域で開始され,近年漁獲量は急増し放流効果が顕著に現れてきた。放流技術の確立、放流効果の把握を目的に各種調査等を行っており,放流適地や回収率等が明らかになりつつある。これらの成果により最適な放流技術開発が可能となる。
「元気なホタテガイは美味しさ長持ち」(中央水産試験場 武田忠明)
生鮮ホタテ貝柱の商品価値を大きく低下させる硬化の防止について検討した。それには、漁獲後のホタテガイの低温蓄養(一晩)と取り出した生鮮貝柱の高溶存酸素海水浸漬パックの併用が効果的であり、これにより生鮮貝柱は、摂氏0度流通で5日程度の活状態の維持が可能となった。
「新しい技術でたこ資源を管理する」(稚内水産試験場 佐野稔)
地理情報システム、漁船のGPSデータ、漁獲量から宗谷海峡のミズダコ資源量推定を行った。
また、過去のデータからの資源解析やたこ漁業に最適な潮流発生時間予測を行った。その結果ミズダコの分布、資源量の推定、資源管理方法の提案、出漁意思決定支援が可能になった。
また、過去のデータからの資源解析やたこ漁業に最適な潮流発生時間予測を行った。その結果ミズダコの分布、資源量の推定、資源管理方法の提案、出漁意思決定支援が可能になった。
「群来はこうして戻ってきた」(中央水産試験場 山口幹人)
日本海ニシン増大推進プロジェクトにおける資源管理、種苗放流の効果を試算した。資源管理効果は2008年度で約1750トンとの結果が得られた。放流効果は2008年度で約66トンとなるとともに産卵親魚重量も管理目標の15パーセントになり、資源の底支えになっていることが示唆された。
「最近わかってきたサケ属3種の増殖効果の違い」(さけます・内水面水産試験場 宮腰靖之)
サケ、カラフトマス、サクラマスの資源管理方策を検討する上で重要な増殖効果の評価に必要な調査方法を魚種ごとに検討した。その結果種間で放流サイズや沿岸環境と回帰率の関係、母川回帰性が大きく異なることが明らかとなりつつあり、資源管理に向けた知見が蓄積された。
「健康で良質な増殖用サケマス種苗を生産する」(さけます・内水面水産試験場 水野伸也)
健康かつ良質な増殖用サケマス種苗を生産するために、健苗性評価技術の開発及び健苗性向上のための飼育技術開発を行った。その結果、健苗性評価には代謝系のパラメーター測定が適し、市販配合餌料に天然植物性油脂を添加することで健苗性向上が図られることが明らかとなった。
ポスター発表
「ナマコ資源量を明らかにする新しい技術」(網走水産試験場 桒原康裕)
ナマコの資源量を把握するために画像解析技術と海底地形図を応用した資源量推定技術開発を行った。その結果漁船に装着したデータロガーから得られた海底地形図と潜水撮影調査の結果を層別抽出法と組み合わせることにより実用的な調査精度が得られることがわかった。
「新しい技術によるホタテ漁業の支援」(栽培水産試験場 清水洋平)
ホタテガイ漁業用の天然ホタテガイ幼生と他の二枚貝幼生の判別のため、抗ホタテガイ幼生ポリクローナル抗体を作製して免疫染色技術の開発を試みた。その結果本抗体がホタテガイ幼生に対し高い特異性を示し、簡易かつ効率的な幼生出現状況調査、採苗情報発信が可能となった。
「生餌に替わる新たな餌料を開発する」(釧路水産試験場 阪本正博)
未低利用水産資源を活用してえび籠漁業に使用する人工蝟集餌料を開発した。これはホッコクアカエビ等に対し生餌と比較して蝟集効果、耐食害性、ハンドリングやコストの点で優位であることが試験調査船による実証試験でも確認された。
「かご網目の大きさを変えて、大きなエビだけ獲る」(中央水産試験場 山口浩志)
ホッコクアカエビのえびかご漁業において、資源維持増大を図りつつ漁獲収入を維持できる網目の大きさについて検討した。各網目の籠により漁獲された抱卵・非抱卵それぞれのエビの大きさからモデルを作成して資源量の将来予測を行い、最適な網目を算出できた。
「麻痺性貝毒発生を予測してホタテ漁業を支援する」(中央水産試験場 嶋田宏)
オホーツク沿岸の地まきホタテ漁場で麻痺性貝毒の発生予測を試みた。稚内-網走間の水位差が低下すると沖合の貝毒プランクトンが沿岸に出現した。本海域の麻痺性貝毒は貝毒発生時期前に沖合の貝毒プランクトンの分布を把握し稚内-網走間の水位差を監視すれば予測可能であった。
「野生魚はどれくらいいるのだろう」(さけます・内水面水産試験場 佐々木義隆)
道東のある河川に遡上するサケについて、自然産卵魚を対象に稚魚の降下生態と親魚の遡上生態を解明し、母川回帰遡上尾数の推定が可能となった。これは北海道の河川に遡上する野生魚の存在を明らかにし、サケ定置網漁業のMSC(エコラベル)取得のための重要な情報となる。
「絶滅危惧種イトウの資源を復元する」(さけます・内水面水産試験場 下田和孝)
北海道のイトウ資源の現状、保全方法について産卵床や稚魚の分布調査、禁漁措置の効果調査、個体群の集団遺伝学解析から検討した。その結果産卵域での禁漁措置は効果のあることや、遺伝的組成に地域差があり個体群の復元にはそのことを考慮する必要があることがわかった。
口頭発表・ポスター発表の様子
(水産研究本部 三坂尚行)