試験研究は今 No.368「伝染性造血器壊死症(IHN)の戦略-リンパ球に対するアポトーシスの誘導」(1998年12月11日)
伝染性造血器壊死症(IHN)の戦略一リンパ球に対するアポトーシスの誘導
生物には外敵から身を守る能力があり、大部分の微生物は進入した生物の体内で大量に増えることはできません。特定の細菌・ウイルスだけが魚を殺してしまうのには、なにか理由があるはずです。
恐ろしい急病IHN
伝染性造血器壊死症(IHN)はサケ・マスを大量に死亡させる恐ろしいウイルス病です。現在、治療法はありません。魚がIHNに感染すると、外敵から身を守る細胞であるリンパ球が死んでしまうことがわかりました。 また、それがアボトーシスとよばれる細胞死であることもわかりました。
自発的細胞死 アポトーシス
生物はたくさんの細胞により構成されており、それぞれが自分の役割を持っています。役割が果たせなくなり、他の細胞に迷惑をかけそうになったとき細胞は自発的に死んでしまいます。これをアポトーシスと言います。アポトーシスは生物にはなくてはならない大切なしくみなのです。アポトーシスの特徴は細胞がいくつもの小さな泡にわかれることや、DNAが細切れになることです。
IHN感染するとアポトーシスが起きるのはなぜか
なぜ、IHNに感染した魚のリンパ球は本来、強力に働くべきときなのにアポトーシスを起こして死んでしまうのでしょう。
IHNウイルスは6種類のタンパク質で構成されており、このうちどれががリンパ球のアポトーシスに関係しているはずです。6種類のタンパクのうちM2と名前が付いているものがあります。このM2タンパクはウイルスの形そのものをつくるタンパクの1つと考えられています。今回このタンパクがアポトーシスに関係しているか調べました。
IHNウイルスは6種類のタンパク質で構成されており、このうちどれががリンパ球のアポトーシスに関係しているはずです。6種類のタンパクのうちM2と名前が付いているものがあります。このM2タンパクはウイルスの形そのものをつくるタンパクの1つと考えられています。今回このタンパクがアポトーシスに関係しているか調べました。
IHNウイルスのM2タンパクはアポトーシスを誘導する
このM2タンパクを遺伝子導入技術により大腸菌に作らせ、これを試験管内で培養したニジマス由来の細胞に触れさせました。すると細胞はアポトーシスを起こしました。細胞はM2タンパクと接触すると自分はアポトーシスを起こすべきと判断してしまうようです。
ウイルスの作戦-リンパ線に対するアポトーシスの誘導
IHNウイルスのM2タンパクは魚の細胞にアポトーシスを起こさせる能力があり、ウイルス感染時においては特にリンパ球にアポトーシスを起こさせると考えられます。リンパ球は外敵から身を守るべき細胞であるのにIHNウイルスのM2タンパクに接触するとアポトーシスを起こして死んでしまいます。リンパ球がなくなれば魚は外敵に対してなすすべもありません。アポトーシスは生物にとって本来なくてはならない大切なしくみですが、IHNウイルスはこれを利用し、自分が魚の中で増殖するのに一番の邪魔物であるリンパ球を壊していると考えられます。
M2タンパクのアポトーシス誘起能こそがIHNの恐ろしいウイルス病たる理由であると考えています。
M2タンパクのアポトーシス誘起能こそがIHNの恐ろしいウイルス病たる理由であると考えています。
(北海道立水産艀化場病理環境部 畑山誠・鈴木邦夫・坂井勝信)