試験研究は今 No.406「ニシン種苗の水温耐性試験について」(1999年11月26日)
ニシン種苗の水温耐性試験
平成8年から行われている日本海地域性ニシンの人工種苗放流事業では例年5~6月に漁港等で約3週間中間育成を行い、7センチメートルほどに成長した種苗を放流しています。ところがこの時期の水温上昇や昼夜の水温変化が問題になっています。従来、日本栽培漁業協会等で行われているニシン放流事業では比較的寒冷な太平洋沿岸で中間育成が行われ、水温が問題になることはなかったようです。しかし、この時期の日本海沿岸、特に港内等では日照により水温が上がりやすく、時には表面水温が20度近くになることがあります。冷水系の魚種であるニシンが高水温に強いはずもなく、現場からは「これ以上は危険」という水温の基準を定めて欲しいとの声があがっています。しかし実際のところニシン稚魚がどれくらいの高水温まで耐えられるのか、ということについてはデータがありませんでした。そこで今回稚内水試で種苗の高水温耐性・水温変化耐性について室内試験を行いましたので紹介します。
材料には平成11年留萌産の人工種苗(平均全長約7センチメートル)を用いました。平成11年6月から試験を開始しましたが、途中飼育水のトラブルにより中断を余儀なくされたこともあり、結局3回の試験を行いました。
第1回目(以下試験1)は、500リットル円形水槽3基に種苗を200尾ずつ収容し、それぞれ1日に1度ずつ温度を上げる試験区1(高水温耐性試験)、1日おきに温度を上げ下げする試験区2(水温変化耐性試験)及び無調温の対照区としました。飼育水は施設の一次濾過水(水温14~15度)を用い(約2リットル/分の掛け流し)、試験区の水温調節は小型ポンプで調温装置と水槽を循環する方法で行いました。
表(上段)に試験1の経過を示しました。7日目の6月21日、一次濾過水にひどい濁りが生じたため試験を中止しましたが、それまでの経過から20度程度の高水温や、その範囲内ならば±5度程度の急激な水温変化では種苗はほとんど死なないことが分かったため、これらを踏まえて次の試験を行いました。
第2回目の試験(以下試験2)は100リットル角形水槽3基に種苗を50尾ずつ収容し、試験1同様の区分としましたが、試験区1はより高温(20度)からスタートしました。また試験区2は中間育成の実態を考えて昼間に水温を上げ、夕方から下げる方法に変更しました。なお、飼育水は施設の調温水(16~17度)を用い(約2リットル/分の掛け流し)、試験区の水温調節は投げ込み式のヒーターで行いました。
表(中段)に試験2の経過を示しました。試験区1では26度で急激な斃死が始まり、約20時間後までに半数が死亡しました。試験区2では16.5度~25度(±8.5度)まで急激な温度変化を与えましたが全く死にませんでした。これらから、ニシン種苗の致死温度は25~26度にあるが、急激な温度変化にはかなりの耐性があることが分かってきました。
第3回目の試験(試験3)は、試験2で得られた致死温度を確認する目的で行いました(表の下段)。少し乱暴ですが1日目に試験区1を25度、試験区2を24度まで上げ、2日目にそれぞれさらに1度ずつ上げたところ、24時間後までに試験区1は全滅したのに対し、試験区2は半数以上が生き残りました。以上から、やはり25~26度の間でニシン種苗は生理的に破綻を来すようです。ただし、中間育成の開始サイズの種苗(全長4~5センチメートル)は、今回の7センチメートル種苗より水温耐性が劣る可能性があります。また、すぐに死ななくても後で障害が現れることも考えられ、これらは今後の課題です。
5~6月の本道日本海で水温が25度になるようなことはまずあり得ません。実際の中間育成では高水温のみで斃死が起こることよりも、むしろそれに伴う溶存酸素の低下、そして濁り、波浪によるスレ等が中間育成の現実的な問題と言えそうです。しかしこれらを人為的にコントロールすることは非常に難しいので、結局のところ中間育成場所を慎重に選ぶことが最も重要なことでしょう。
表 ニシン種苗の高水温耐性・水温変化耐性試験の概要
材料には平成11年留萌産の人工種苗(平均全長約7センチメートル)を用いました。平成11年6月から試験を開始しましたが、途中飼育水のトラブルにより中断を余儀なくされたこともあり、結局3回の試験を行いました。
第1回目(以下試験1)は、500リットル円形水槽3基に種苗を200尾ずつ収容し、それぞれ1日に1度ずつ温度を上げる試験区1(高水温耐性試験)、1日おきに温度を上げ下げする試験区2(水温変化耐性試験)及び無調温の対照区としました。飼育水は施設の一次濾過水(水温14~15度)を用い(約2リットル/分の掛け流し)、試験区の水温調節は小型ポンプで調温装置と水槽を循環する方法で行いました。
表(上段)に試験1の経過を示しました。7日目の6月21日、一次濾過水にひどい濁りが生じたため試験を中止しましたが、それまでの経過から20度程度の高水温や、その範囲内ならば±5度程度の急激な水温変化では種苗はほとんど死なないことが分かったため、これらを踏まえて次の試験を行いました。
第2回目の試験(以下試験2)は100リットル角形水槽3基に種苗を50尾ずつ収容し、試験1同様の区分としましたが、試験区1はより高温(20度)からスタートしました。また試験区2は中間育成の実態を考えて昼間に水温を上げ、夕方から下げる方法に変更しました。なお、飼育水は施設の調温水(16~17度)を用い(約2リットル/分の掛け流し)、試験区の水温調節は投げ込み式のヒーターで行いました。
表(中段)に試験2の経過を示しました。試験区1では26度で急激な斃死が始まり、約20時間後までに半数が死亡しました。試験区2では16.5度~25度(±8.5度)まで急激な温度変化を与えましたが全く死にませんでした。これらから、ニシン種苗の致死温度は25~26度にあるが、急激な温度変化にはかなりの耐性があることが分かってきました。
第3回目の試験(試験3)は、試験2で得られた致死温度を確認する目的で行いました(表の下段)。少し乱暴ですが1日目に試験区1を25度、試験区2を24度まで上げ、2日目にそれぞれさらに1度ずつ上げたところ、24時間後までに試験区1は全滅したのに対し、試験区2は半数以上が生き残りました。以上から、やはり25~26度の間でニシン種苗は生理的に破綻を来すようです。ただし、中間育成の開始サイズの種苗(全長4~5センチメートル)は、今回の7センチメートル種苗より水温耐性が劣る可能性があります。また、すぐに死ななくても後で障害が現れることも考えられ、これらは今後の課題です。
5~6月の本道日本海で水温が25度になるようなことはまずあり得ません。実際の中間育成では高水温のみで斃死が起こることよりも、むしろそれに伴う溶存酸素の低下、そして濁り、波浪によるスレ等が中間育成の現実的な問題と言えそうです。しかしこれらを人為的にコントロールすることは非常に難しいので、結局のところ中間育成場所を慎重に選ぶことが最も重要なことでしょう。
表 ニシン種苗の高水温耐性・水温変化耐性試験の概要
試験1 | 試験区1 | 試験区2 | 対照区 | 備考 | |||||
設定水温 | 実測水温 | 死亡率 | 設定水温 | 実測水温 | 死亡率 | 実測水温 | 死亡率 | ||
(℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (%/日) | ||
6月15日 | - | 14.6 | 0.0 | - | 14.6 | 0.0 | 14.5 | 0.0 | 予備飼育 |
6月16日 | 17.0 | 16.5 | 0.0 | 18.0 | 18.2 | 1.0 | 14.6 | 0.0 | |
6月17日 | 18.0 | 17.6 | 0.0 | 14.5 | 14.3 | 0.0 | 14.4 | 0.0 | |
6月18日 | 18.0 | 17.7 | 0.0 | 14.5 | 14.5 | 0.0 | 14.5 | 0.0 | 濁りにより休止 |
6月19日 | 19.0 | 18.9 | 0.0 | 19.0 | 19.1 | 0.0 | 14.8 | 0.0 | |
6月20日 | 20.0 | 19.7 | 0.0 | 14.5 | 14.9 | 0.0 | 14.8 | 0.0 | |
6月21日 | 21.0 | 20.6 | 0.5 | 20.0 | 20.2 | 0.0 | 15.2 | 0.0 | 濁りにより休止 |
試験2 | 設定水温 | 実測水温 | 死亡率 | 昼間水温 | 夜間水温 | 死亡率 | 実測水温 | 死亡率 | 備考 |
(℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (%/日) | ||
6月25日 | -'* | 16.2 | 0.0 | 22.0 | 16.5 | 0.0 | 17.0 | 0.0 | *予備飼育 |
6月26日 | 20.0 | 19.8 | 2.0 | 24.0 | 16.0 | 0.0 | 16.2 | 0.0 | |
6月27日 | 22.0 | 21.9 | 0.0 | 24.0 | 16.0 | 0.0 | 16.3 | 0.0 | |
6月28日 | 23.0 | 23.4 | 0.0 | 25.0 | 16.5 | 0.0 | 17.0 | 0.0 | |
6月29日 | 24.0 | 24.0 | 0.0 | 25.0 | 18.7 | 0.0 | 16.3 | 0.0 | |
6月30日 | 25.0 | 24.7 | 2.0 | (試験終了) | 16.8 | 0.0 | |||
7月1日 | 26.0 | 25.7 | 52.1 | 16.4 | 0.0 | ||||
試験3 | 設定水温 | 実測水温 | 死亡率 | 設定水温 | 実測水温 | 死亡率 | 実測水温 | 死亡率 | 備考 |
(℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (℃) | (%/日) | (℃) | (%/日) | ||
7月3日 | - | 15.6 | 0.0 | - | 15.3 | 0.0 | 15.7 | 0.0 | 予備飼育 |
7月4日 | 25.0 | 24.7 | 14.0 | 24.0 | 24.1 | 8.0 | 15.6 | 0.0 | |
7月5日 | 26.0 | 26.4 | 97.7 | 25.0 | 25.2 | 28.3 | 15.6 | 0.0 |
(稚内水試資源増殖部 吉村圭三)