試験研究は今 No.704「人工ふ化したカワヤツメ幼生の放流と追跡調査」(2012年1月6日)
はじめに
カワヤツメは北海道の河川漁業における重要な対象種であり(図1)、主に石狩川や尻別川で全道の80パーセントが漁獲されています。漁獲量は1980年代がピークで、その後急激に減少しました。カワヤツメの資源回復を切望する漁業者や食品加工関係者から、新たな増殖技術の開発の要望が試験場に寄せられました。
試験場では、簡便な操作で、専用の施設や設備を必要としない省力的かつ効率的なふ化技術を開発し、江別漁業協同組合、尻別川漁業協同組合、瀬棚郡内水面漁業協同組合及び厚沢部町河川資源保護振興会に技術普及してきました。
これらの団体から、ふ化した幼生の放流方法に関する問い合わせが試験場に寄せられ、H21年度からは、適切な放流方法を検討するため、人工ふ化で得られた幼生(人工種苗)を河川に放流・追跡し、これらの定着や生残、成長を明らかにすることで、人工種苗放流の有効性を検証する試験を実施しています。
今回は、厚沢部町河川資源保護振興会の協力で、厚沢部川に試験放流した結果の概要を紹介します。
試験場では、簡便な操作で、専用の施設や設備を必要としない省力的かつ効率的なふ化技術を開発し、江別漁業協同組合、尻別川漁業協同組合、瀬棚郡内水面漁業協同組合及び厚沢部町河川資源保護振興会に技術普及してきました。
これらの団体から、ふ化した幼生の放流方法に関する問い合わせが試験場に寄せられ、H21年度からは、適切な放流方法を検討するため、人工ふ化で得られた幼生(人工種苗)を河川に放流・追跡し、これらの定着や生残、成長を明らかにすることで、人工種苗放流の有効性を検証する試験を実施しています。
今回は、厚沢部町河川資源保護振興会の協力で、厚沢部川に試験放流した結果の概要を紹介します。
-
-
図1 カワヤツメ成魚
-
人工種苗の放流
試験放流用に雌雄1個体から採取した成熟卵と精液を用いて、約10万尾の幼生を生産しました。
この幼生を厚沢部川の3カ所に放流しました
(図2)。
この幼生を厚沢部川の3カ所に放流しました
(図2)。
図2 厚沢部川における調査定点の位置と概要(写真は手前が下流方向)
定点1は水田の排水が流入し、底質は主に砂泥でした。定点2も水田の排水が流入しているものの、安野呂川の流れの中心から5~20メートルほど岸側に入り込んだ池のような構造(ワンド)であり、水の流れはほとんどありませんでした。定点3の左岸は岩盤ですが、右岸の柳の下には砂泥が堆積していました。
放流前に各定点に生息する魚の種類を調べたところ、全ての定点でカワヤツメの幼生が確認されました(図3)。
放流前に各定点に生息する魚の種類を調べたところ、全ての定点でカワヤツメの幼生が確認されました(図3)。
定点1はマドジョウが最も多く生息していた優占種であり、定点2ではカワヤツメ、スナヤツメ及び種判別が困難であったヤツメウナギ類(ヤツメウナギ各種類)の幼生が優占し、定点3ではヤツメウナギ各種類、ウグイ、サクラマスの出現割合がほぼ同等でした。
ふ化後13日目の幼生を各定点に放流したところ、幼生は、泳いでは休み、泳いでは休み、を繰り返し、河床にたどりつきました。ほとんどの幼生は動きを停止し、マドジョウやウグイなどの魚類に補食されていました。
僅かな幼生が、砂泥中に潜り込みました。今回放流した幼生は、体の色が白く、卵黄が多く残っていたことから(図4)、砂泥に潜る十分な能力が備わっていない発育段階であったと思われます。
今後、放流に適した発育段階、放流時期及び他の生物からの補食を避ける放流方法を検討する必要があります。
ふ化後13日目の幼生を各定点に放流したところ、幼生は、泳いでは休み、泳いでは休み、を繰り返し、河床にたどりつきました。ほとんどの幼生は動きを停止し、マドジョウやウグイなどの魚類に補食されていました。
僅かな幼生が、砂泥中に潜り込みました。今回放流した幼生は、体の色が白く、卵黄が多く残っていたことから(図4)、砂泥に潜る十分な能力が備わっていない発育段階であったと思われます。
今後、放流に適した発育段階、放流時期及び他の生物からの補食を避ける放流方法を検討する必要があります。
幼生の追跡調査
放流から27日目、定点2のヨシの根付近から、放流魚と思われる2尾の幼生を採集しました(図4)。他の定点では放流魚と思われる幼生は確認できませんでした。
定点2には、28,000尾の幼生を放流していますので、幼生の発見率は0.01パーセントと低い値となりました。全長が7.3ミリメートルから8.9ミリメートルへと伸長していたことから、幼生は1日あたり 0.06ミリメートル程度成長していると考えられます。ただし、上述の通り、定点2には野生のカワヤツメの幼生が生息していますので、これら2尾が放流魚であるか否かは目下のところ明らかではありません。これを明らかにするために、現在、人工受精に用いた親魚、放流した幼生及び河川で採集した幼生のDNAを調べています。放流後に人工種苗と思われる幼生を採集できた定点や個体数が少なかったことは、現段階で人工種苗放流の効果は低いと言わざるを得ません。
今後、上述の放流方法を検討すると同時に、幼生が生息する環境の構造や機能を理解し、その上で環境に適応する放流を心がけなければなりません。
定点2には、28,000尾の幼生を放流していますので、幼生の発見率は0.01パーセントと低い値となりました。全長が7.3ミリメートルから8.9ミリメートルへと伸長していたことから、幼生は1日あたり 0.06ミリメートル程度成長していると考えられます。ただし、上述の通り、定点2には野生のカワヤツメの幼生が生息していますので、これら2尾が放流魚であるか否かは目下のところ明らかではありません。これを明らかにするために、現在、人工受精に用いた親魚、放流した幼生及び河川で採集した幼生のDNAを調べています。放流後に人工種苗と思われる幼生を採集できた定点や個体数が少なかったことは、現段階で人工種苗放流の効果は低いと言わざるを得ません。
今後、上述の放流方法を検討すると同時に、幼生が生息する環境の構造や機能を理解し、その上で環境に適応する放流を心がけなければなりません。
-
-
図4 放流時の幼生(上)と定点 2 で採集した幼生(下)
-
おわりに
今回は、カワヤツメの親魚が遡上困難と思われる頭首工(堰)の上流域において放流適地の候補を探しましたが、厚沢部川では3カ所しか見つけることができませんでした。頭首工の下流域でも、ヤツメウナギの幼生が生息している場所は、砂泥が堆積した場所で、水位変動が小さく、比較的安定した岸辺でした。その多くは、農業排水の樋門付近に堆積した土砂や植生の根付近でした。このように厚沢部川の幼生の生息環境は、河川内で断片的に分布し、その数も少ないのが現状です。人工種苗の放流試験を実施した今回の環境でさえも、幼生にとって好適な生息環境であったかは不明です。
カワヤツメの増殖技術を開発する上で、人工種苗が適応できる河川環境の評価と再生産環境の修復及び復元にかかる調査研究も併せて実施する必要があります。本研究を進める上で、厚沢部町河川資源保護振興会の皆様には、多大なるご協力を賜りました。この場をお借りしてお礼申し上げます。
カワヤツメの増殖技術を開発する上で、人工種苗が適応できる河川環境の評価と再生産環境の修復及び復元にかかる調査研究も併せて実施する必要があります。本研究を進める上で、厚沢部町河川資源保護振興会の皆様には、多大なるご協力を賜りました。この場をお借りしてお礼申し上げます。
(さけます・内水面水産試験場 道南支場 楠田 聡)