試験研究は今 No.534「濁りがマガレイの行動に与える影響」(2004年11月19日)
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濁りがマガレイの行動に与える影響
はじめに
現在、サハリン州で生産される天然ガスを日本へ輸送するいくつかのプロジェクトが検討されています。その一つに海底パイプラインを使用する計画もあります。海底にパイプラインを敷設する場合、濁りの発生などの海底環境の変化が水産資源に影響を与える可能性も考えられます。
これまで、生息環境条件の変化と魚類等の行動との関係についての知見が少なかったことから、水産試験場では海底で生じた濁りの影響について、マガレイを対象に水槽実験で調べてみました。
これまで、生息環境条件の変化と魚類等の行動との関係についての知見が少なかったことから、水産試験場では海底で生じた濁りの影響について、マガレイを対象に水槽実験で調べてみました。
実験方法
濁りがカレイに何らかの刺激を与えれば、その影響は行動に現れると考え、行動観察から濁りの影響を評価することを試みました。
実験には中央水産試験場の小型水槽(観測水路長さ1.5メートル、幅0.3メートル、深さ0.35メートル)を使用し、これをアクリル板で仕切りA槽、B槽と二つに分けました。A槽には4、5尾のマガレイと海水を入れ、B槽にはカオリンという粘土の一種で濁らせた海水を入れました。仕切り板を上方にずらすと、濁った海水がA槽へ進入していきます(図1)。A槽に十分濁りが到達したときのA槽の濁度は20~30ミリグラム/リットルとなるように調整しました。この濁度は30センチメートル向こうにある物体のシルエットがかろうじて確認できる程度の濁りです。実験には全長15~30センチメートルの30尾のマガレイを用いました(表1)。
実験には中央水産試験場の小型水槽(観測水路長さ1.5メートル、幅0.3メートル、深さ0.35メートル)を使用し、これをアクリル板で仕切りA槽、B槽と二つに分けました。A槽には4、5尾のマガレイと海水を入れ、B槽にはカオリンという粘土の一種で濁らせた海水を入れました。仕切り板を上方にずらすと、濁った海水がA槽へ進入していきます(図1)。A槽に十分濁りが到達したときのA槽の濁度は20~30ミリグラム/リットルとなるように調整しました。この濁度は30センチメートル向こうにある物体のシルエットがかろうじて確認できる程度の濁りです。実験には全長15~30センチメートルの30尾のマガレイを用いました(表1)。
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図1 実験水槽模式図
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表1 実験に用いたマガレイの全長
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行動の変化を調べるため、濁り添加前の20分間と添加後の20分間におけるマガレイの行動をビデオカメラで撮影し、マガレイの移動距離を計測しました。マガレイが濁りにより何らかの刺激を受けていれば、添加前と添加後で移動距離の差が大きくなるはずです。
移動距離の差を評価する
図2はマガレイ実験魚1個体ごとの濁り添加前、添加後の各20分間の移動距離を示したものです。この図から移動距離の変化を評価することは難しいので、添加前と添加後の移動距離の差を求めて頻度分布図(図3)を作成しました。
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図2 マガレイ実験魚の1個体ごとの移動距離(横軸各1メモリが1個体で合計30個体)
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図3 濁り添加前、添加後の移動距離の差
(移動距離の差=添加後の移動距離-添加前の移動距離)
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この図から約半数に当たる14尾のマガレイで、移動距離の差は5センチメートル以内であることがわかりました。そこで、5センチメートル程度の差が、マガレイの行動から考えて、非常に大きな値なのか、そうでないのかを検討することにしました。そこで実験に用いた30尾のカレイが濁りのない状態で20分間に移動する距離を調べ、その代表値として中央値を求めてみると12.5センチメートルと算出されました。つまり、今回実験に用いたカレイにとって20分間に12.5センチメートル移動することは、ごく普通の行動であると考えられます。このようなマガレイにとって、濁りの添加前、添加後の各20分間における移動距離の差が5センチメートル以内というのは、大きな差ではないと考えられました。
濁度と実験時間の影響
これまでの実験では、濁りを添加してから20分間の行動しか観察していません。長時間濁りにさらされた場合、何らかの影響が現れる可能性があります。そこで同じ実験方法で、濁りを添加してから5日間の経過観察を行いました。1回の実験に5尾のマガレイを使用して2回の実験を行ったところ、すべてのマガレイにおいて衰弱や特異的な行動は見られませんでした。また、4日目から餌を与えたところ、すべてのマガレイではないですが、餌を食べる様子が観察されました。この結果から、濁度30ミリグラム/リットル程度の濁りが長期に継続しても、マガレイは大きな影響を受けていないと考えられました。
濁度がもっと高ければマガレイが何か影響を受ける可能性も考えられるので、これまでの3倍以上の濁度である100ミリグラム/リットル程度にして再度、観察を行いました。その結果、特異的な行動や衰弱は全く観察されませんでした。
濁度がもっと高ければマガレイが何か影響を受ける可能性も考えられるので、これまでの3倍以上の濁度である100ミリグラム/リットル程度にして再度、観察を行いました。その結果、特異的な行動や衰弱は全く観察されませんでした。
まとめ
今回、海水の濁りがマガレイの行動に与える影響について、小型実験水槽を用いた行動観察を通じて検討しました。海水濁度の調節については粘土の一種であるカオリンを用いて行い、マガレイが受ける濁りの影響については濁りの発生前と発生後の移動距離で評価しました。
実験中のマガレイの行動を観察すると、濁度の低い方へ移動するような濁りに対する忌避行動は見られず、また、濁りの発生前後で移動距離にほとんど差が認められず、マガレイは濁りの影響を受けていないという結果が得られました。
実海域で発生する濁りの原因については、波浪等の自然現象や人為的な要因など多様であることから、濁りの程度や濁りの持続期間も広い変動幅を持っていると考えられますが、今回の実験では30ミリグラム/リットル程度の濁度で5日間程度の期間内であれば、マガレイは濁りの影響をあまり受けないものと考えられました。
実験中のマガレイの行動を観察すると、濁度の低い方へ移動するような濁りに対する忌避行動は見られず、また、濁りの発生前後で移動距離にほとんど差が認められず、マガレイは濁りの影響を受けていないという結果が得られました。
実海域で発生する濁りの原因については、波浪等の自然現象や人為的な要因など多様であることから、濁りの程度や濁りの持続期間も広い変動幅を持っていると考えられますが、今回の実験では30ミリグラム/リットル程度の濁度で5日間程度の期間内であれば、マガレイは濁りの影響をあまり受けないものと考えられました。
(中央水産試験場 水産工学室 福田裕毅)