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林産試だより2006年7月号 特集『木材と二酸化炭素』 二酸化炭素問題から考える木材生産と利用

●特集『木材と二酸化炭素』

二酸化炭素問題から考える木材生産と利用

性能部 森泉 周

 1.はじめに


 我々の豊かさの追及は,資源,エネルギ-を消費することで成り立っています。これが大気中の二酸化炭素を増加させ,地球温暖化の原因になっていると考えられています。
 1992年に各国が気候変動枠組条約を採択し,大気中の温室効果ガス(二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素等)の濃度を削減,安定化させることによる取組が確認されました。
 その後,1997年に京都議定書で温暖化効果ガスの削減の数値目標が示されました。この中で,日本の総二酸化炭素排出量は2012年までに1990年を基準にして6%の削減が義務付けられ,そのうちの3.9%を森林で吸収するとされております。
 京都議定書の第1約束期間(2012年まで)では,伐採木は二酸化炭素発生源とみなされています.。現在,第2約束期間(2013年以降)に向けて,森林,木材製品などに含まれている全ての炭素を対象にした,貯蓄量を計算する手法について検討されています。


 2.木材の炭素貯蓄としての役割



「森林の成長と貯蔵」

 森林(天然林)の発達段階に応じた炭素固定速度と植物体の炭素貯蔵モデルを図1に示します。木が若いうちは生命力が盛んで炭素固定速度は年ごとに増加しある樹齢に達すると,以降は固定速度は低下し,成熟後期段階・老齢段階では炭素の貯蔵源としての役割は維持していますが,吸収源としての機能は失われています。本来,利用を目的とする人工林では,固定速度が大きくなったところで,適度な伐採を行い,木材として利用し,その跡地に植林を行えば森林はいつも若々しく成長します。



図1 天然林の発達段階に応じた炭素固定速度と
植物体の炭素貯蔵量モデル(藤森1998より)



「木材,木造住宅での貯蔵」

 乾燥した木材は炭素を約250㎏/m3貯蔵しています。一般的な木造住宅での床面積あたり木材使用量は0.18m3/m2になりますから,平均的な大きさである延床面積136m2の木造住宅では,木材を約24m3使用しており,蓄えている炭素量は6tにも及びます。一方,RC造のマンションや鉄筋プレハブ住宅では1.6tと1.5tとなり,木造の4分の1になってしまいます。この木造住宅に貯蔵されている炭素は,木材が成育時に大気中の二酸化炭素を取り込んだものです。
 推定値ですが,現在,日本の全住宅に使われている木材が貯蓄している炭素量は1.41億tで,このうち木造住宅が1.29億tに及びます。これは蓄積されている炭素量に換算すると,日本の全森林の約20%,人工林の50%弱に相当します。このように都市にも木材として炭素資源が蓄積されていますが,新築住宅の着工数や木造率の低下が懸念されており,今後の都市における炭素貯蔵量は低下する可能性があります。


「炭素貯蔵の持続性」

 図2に1haに植えられたスギ造林木の育林期間および木材利用の全過程における炭素貯蔵の状態と,炭素貯蔵の持続性(造林伐採50年,住宅使用33年,家具として再利用17年とする)例を示します。
 この例の場合,50年かかって貯蓄された炭素は,途中大気中に放出される分もありますが,製品に加工された部分について,100年後に成長固定された炭素を全て大気中に放出していきます。これらの木材生産と利用は,伐採地に再造林を行うことを条件とすれば(再造林地は必ずしも伐採地そのものでなくとも良い),持続的に無限の長期にわたって繰り返されるシステムといえます。この間,新たに植林された樹木の成長による炭素貯蔵と住宅や家具材として貯蔵される分を加え合わせた総炭素貯蔵量は,極めて高いレベルを保ち続けることになります。



図2 炭素ストックの持続性-伐採後
再造林を必ず行う(大熊1998)


 3.木質系材料の製造エネルギーと二酸化炭素の放出量



 建築物も多量の資源,エネルギーを消費することで成り立っていますが,木材は多くの建築材料の中できわめて特異な位置にあります。
 各種建築材料生産に要したエネルギ-と炭素放出量を表1に示します。製造工程の分析から得られた計算結果から,一般的な建築材料の生産に要したエネルギ-を示しています。木材,木質材料のエネルギー消費量は他の建築材料に比較して非常に小さくなっています。さらに,木材は,鉄,アルミニウム等の非木質系と比べて,原材料から製造するときのエネルギーのために放出する炭素量は特段に少なく,同じ重さの人工乾燥材と鋼材では190倍,アルミニウムにいたっては実に約800倍弱違います。これは,原材料の生成過程で,木材は非木質系とは逆に二酸化炭素を大量に吸収・固定するためです。また,サッシを製造するときの,サッシ1m2あたりの二酸化炭素放出量は,木製サッシはアルミサッシの30分の1という試算があります。




表1 各種材料製造における消費エネルギーと

炭素放出量(中島ほか1991)


 図3に建築構造別に使用された建築材料の生産エネルギ-から算出された単位床面積あたりの炭素放出量を示します。これは,構造別の材料使用量に,前記の放出単位を適用して136m2の一戸建ての住宅を構成する各種材料が製造時に放出する炭素量を推定した結果です。
 建築の主要構成材料(主に構造材料)となる製材品,鋼材およびコンクリートについての炭素放出量の合計をみると,木造住宅はRC造の24%,鉄骨造の35%ときわめて小さい値となっています。言いかえると鉄骨造は2.9倍,RC造は4.2倍の炭素を放出しています。材料の製造エネルギ-から予測されるように木造建築物の二酸化炭素放出量はかなり小さくなっています。特に,木造住宅の躯体である木材からの二酸化炭素放出量はきわめて小さく,一方,コンクリートはすべての構造で放出量が大きいのが特徴です。
 なお,伐採から焼却までの時間が長ければ(耐用年数を長くする。あるいは使用後の解体材を再生資源としてリサイクル利用する),森林の樹木が成長する時間を与えることになりますが,現在はまだ木材の炭素貯蔵は森林と比較すれば,あくまで短期的なものとなっています。




図3 住宅(136m2)を構成する主要材料の製造時
     炭素放出量の構造別比較(岡崎ほか1998)



 4.木材の生産と利用全過程における炭素貯蔵の変化と二酸化炭素の吸収および放出についての収支



 いままでの話をまとめて,造林から木材利用の全過程における二酸化炭素の収支についてのモデルを用いて説明します。図4に1haに植えられたスギ造林木の育林期間および木材利用の全過程における二酸化炭素の吸収・放出量と植林時からの累計を示します。この図では図2における各過程での吸収・放出される炭素量を棒グラフで示し,実線でその収支の累計を表しています。
 このモデルによると1haあたり162.8tの炭素が固定され,1サイクル,100年間で91.6tの炭素が超過放出されますが,この量をどう減らしていくかが問題です。
 木造住宅をRC造や鉄骨造に代えた場合,製造エネルギーや廃棄による放出量が大きくなることは図3からも明らかですが、現在の研究段階では,RC造,鉄骨造における炭素放出量を数値で示すことは困難です。
 なお,解体材の有効利用を図ることが,木材の再利用による,炭素貯蔵期間延長のために必要であると考えられます。廃木材として生じた木質資源でボード等を製造することによって,炭素収支は異なってきます。
 (独)森林総合研究所の大熊理事長(東大名誉教授)が示された例によれば1haの林地から,515.7m3の丸太が生産され,歩留まり60%とすれば,製材品が309.4m3得られます。木造住宅建設に要する木材量を床面積1m2あたり0.18m3とすれば,この材料によって1,547m2(約11棟分)の住宅が建設できたことになります。 また,この住宅の解体材から合計4,360枚の15mmの"3×6"板パーティクルボードが得られるという計算になります。
 人類は,その生活を維持するために何らかの材料を必要としますが,生物資源である木材の生産と利用というシステムにより,他材料よりも少量の炭素を放出することで持続的に必要な材料を確保できるということは,きわめて重要な事実です。




図4 1haに植えられたスギ造林の育林および木材
   利用の全過程におけるCO2 の吸収・放出量と
   育林時からの累計(大熊1998)



 5.循環型社会の構築

 化石燃料や鉱物資源のように枯渇が避けられない資源を前提としたリサイクル循環,あるいはゼロエミッションなどによる『小さな炭素の循環』に大きく依存する社会から,森林・木質資源を活用した循環型社会へ移行していくことが必要な時代になってきました。木を植え,育て,伐採し,利用するサイクルを安定的に行い,生産された木材を長期的,多段階に利用し,大気→森林→木材(リサイクル)→大気という『大きな炭素の循環』を最大限活用していかなければなりません。大きな炭素循環のイメージを図5に示します。
 地球温暖化防止に向けては,将来の世代まで引き継がれる息の長い持続的な対策が必要です。将来的に大気中の二酸化炭素濃度を安定化させるためには,化石燃料の消費を自然の浄化能力の範囲内に止めなくてはなりません。




図5 大きな炭素循環のイメージ




もう少し詳しく知りたい方への参考図書

1)大熊幹章:“地球環境保全と木材利用”,全国林業改良普及協会(2003).
2)吸収源対策研究会:“温暖化対策交渉と森林”,全国林業改良普及協会(2003).
3)有馬孝禮:“木材の住科学”,東京大学(2003)).


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