地球温暖化問題などを背景に,化石燃料への依存を減らす取り組みが加速しています。その中で植物バイオマス由来のバイオエタノールは,輸送用のガソリン消費量を削減する点から注目を集めています。
ここでは,林産試験場でのヤナギを原料としたエタノール製造の研究についてご紹介します。
バイオエタノールを工業生産するためには,原料を工場の近くで集中的に確保することや,食糧供給への影響を避けるため,食用とならないものを原料とすることが必要とされています。
こうした要求を満たすため,面積あたり,単年あたりの生産性が高く,再生産も容易で,なおかつ非食用の植物をエネルギー作物化すること(表1),そしてこれを集中的に生産し,エタノール原料とすることが検討されています。
ヤナギ(写真1)は,エネルギー作物としての素質を備え,また北海道の環境に適応した植物であることから,本道においてエネルギー作物化が検討されています。こうした背景から,今回の研究においてはヤナギを原料としました。
ヤナギの材部や樹皮にはブドウ糖が鎖状につながってできたセルロースとよばれる成分が40%強含まれています。このセルロースを分解(糖化)してブドウ糖を取り出し,さらに発酵させてエタノールを作ります(図1)。
図1を見ると,エタノールは簡単にできると思われるかもしれませんが,実は糖化の前にひと手間かけなくてはなりません。このひと手間を前処理とよびます。
なぜ前処理が必要かというと,材部や樹皮中のセルロースがリグニンなど他の木材成分によって覆われており,そのままでは容易に糖化できないからです(図2)。
そこで,セルロースの周囲からリグニンなどをできるだけ除去する作業を糖化に先立って行います。今回の研究においては,以前より林産試験場で取り組んできた濃硫酸処理とともに蒸煮処理と蒸解処理の2種類について検討を行いました(写真2)。なお,以下では蒸煮処理および蒸解処理に限定して述べることとします。
蒸煮処理は,原料を高温高圧の蒸気にさらす処理です。この処理は,林産試験場でかつて木材の家畜飼料化について検討した際に用いた技術です。当時の研究において,処理によるセルロース糖化性の向上が認められています。また,蒸解処理は,原料をアルカリ溶液中で煮る処理です。これは製紙産業においてパルプを製造する際に採用される技術で,リグニンを効果的に除去することができます。
この工程では,前処理したサンプルに含まれるセルロースを酵素や酸を使って分解し,ブドウ糖にします。今回の研究では,酵素(セルラーゼ)を用いて糖化を行いました(写真3)。
図3に材部1kg(絶乾)からどのくらいのブドウ糖が得られたかを示します。図中の理論最大量とは,材部に含まれるセルロースが完全に糖化された場合に得られるブドウ糖量のことです。
前処理を行っていない未処理のサンプルでは,ブドウ糖は理論最大量の15%ほどしか得られませんでしたが,蒸煮処理および蒸解処理を行ったサンプルでは理論最大量の85%前後のブドウ糖を得ることができ,前処理を行うことでサンプルの糖化性が大幅に改善されることが分かりました。
糖化によって得られた糖液に酵母を加えて培養し,エタノール発酵を行いました(写真4)。これまでの実験では,材部1kg(絶乾)から蒸煮処理および蒸解処理を介して200mL強のエタノールが得られました。
これまでの研究において,ヤナギからエタノールを製造することに成功しました。今後は,エタノールの製造効率を向上させるための検討を行っていきます。また,これまでは数Lレベルまでの小規模な実験を行ってきましたが,これを50L規模へとスケールアップしていきたいと考えています。
*本研究は,北海道開発局「北海道に適した新たなバイオマス資源の導入促進事業」の一環として,日本データーサービス(株)と共同実施しました。
*蒸解処理実験には日本製紙(株)白老工場の,糖化実験には明治製菓(株)のご協力をいただきました。記してお礼申し上げます。
*木質バイオエタノールに関する情報を,林産試だより2007年7月号に特集として掲載しています。是非ご覧ください。
http://www.fpri.hro.or.jp/dayori/0707/dayori0707.pdf