大規模建築物の内装に使用される木質防火材料について

性能部 耐久・構造グループ 河原崎政行



 公共建築物等の内装木質化の動きについて


 既に訪れた方もいると思いますが,平成22年10月10日にJR旭川駅の新駅舎が一部開業しました。この駅舎では,訪れる人々に旭川の「家具の街」をアピールするため,内装材料には家具で使用される広葉樹材(道産ヤチダモ)を使用しています(写真1)。そのため,駅舎内の雰囲気は暖かみと重厚感があり,さながら旭川家具を連想させるものになっています。このように内装材料は,使用する建築物の雰囲気に大きな影響を与えます。また,建築物が公共施設や駅の場合では,不特定多数が訪れるため,使用される内装材料がつくる雰囲気は非常に多くの人の記憶に残ることでしょう。

 平成22年10月1日に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では,表1に示す公共の用又は公用に供する建築物について,木造化および内装の木質化を促進することが示されています。この法律の目的は,国内で生産された木材(国産材)の需要を拡大することで,林業を再生させ,森林の有する地球温暖化防止や国土の保全などの多面的機能を持続的に発揮させるとともに,地域の経済を活性化させることにあります。公共施設を対象としたのは,これまで木造で建てられることが少なかったため,直接的に国産材の需要拡大に結びつくとともに,不特定多数が集まることから,一般市民に効果的に国産材利用の意義を普及啓発することができるからです。そして,このことを通して将来的に,一般住宅への国産材利用を波及させることを意図しています。
 この法律が施行されたこと,さらに近年の環境保護に対する活動の高まりから,今後は公共施設を含めた大規模建築物に地域材を使用するケースが増えていくことが予測されます。しかし,公共施設などの不特定多数が集まる大規模建築物では,建築基準法で火災時の安全性を確保することが求められます。

   



 内装材料については,火災の際に在館者が安全に避難できるように,法律に定める防火材料の使用を多くの部分で求められます。防火材料は,求められる性能として表2に示す3点があり,そして火災時に要求性能を保持できる時間により3種類に分かれています。
 このようなことから,今後,大規模建築物の内装木質化を進めるには,木質の防火材料が必要になります。木質防火材料は,一般的には燃焼を抑制する薬剤で木材を処理し,基準性能を付与しています。前述の新駅舎についても,内装に防火上の制限が適用されたため,壁や天井には薬剤処理した道産タモ材が使用されています。

 木質防火材料について


 ここで,木質防火材料について少し詳しく説明します。一般的な製造工程の一例を,図1に示します。
 原板は,薬剤の注入前に人工乾燥などにより含水率を一定範囲に調整します。これは,原板の含水率が高いことやバラツキが大きいことが,注入される薬剤量に影響するためです。乾燥した原板は,製品に近い寸法に加工した後,薬剤の注入処理を行います。


 注入処理では,燃焼を抑制する薬剤は水溶液の状態で用い,減圧加圧注入処理装置により強制的に原板に注入します。写真2は,当場の減圧加圧処理装置で,試験用の小型のものです。原板は,密封された装置内にセットされ,真空に近い状態まで減圧することで材内部の空気を吸い出し,その後加圧することで原板の中心部まで薬液を均一に注入させます。
 注入する薬剤量ですが,基準の防火性能を得るために一定量以上が必要になります。図2は,厚さ15mmのスギ板について,注入された薬剤量と燃焼の度合いを表す発熱量の関係を示したグラフです。このように,木材は薬剤処理することにより,著しく燃焼が抑制されます。また,この薬剤量と発熱量の関係は,樹種および薬剤の種類により異なります。木質防火材料を製造する際には,使用する樹種および薬剤ごとに,その関係を把握して基準性能を付与する薬剤量を明らかにする必要があります。
 薬剤処理した材は,通常使用するのに問題のない含水率まで乾燥した後,製品寸法に仕上げ加工を行い,最後に塗装をして製品となります。

   


 今後の林産試験場の研究について


 図3は,北海道と都府県の産業用丸太の樹種別割合を示したグラフです。産業用丸太の主要樹種は,北海道ではカラマツ・トドマツであり,本州のスギ・ヒノキと大きく異なっています。また,道内のカラマツ・トドマツは,現在成熟期を迎えつつあり,安定的に供給できるだけの蓄積があります。このような情勢を踏まえ,当場では来年度からカラマツ材やトドマツ材を用いた木質防火材料の製造技術の開発を進めていきます。
 木質防火材料にカラマツ材およびトドマツ材を用いるには,克服しなければならない課題がいくつかあります。前述したように木質防火材料は,燃焼を抑制する薬剤を注入することで防火性能を付与しています。しかし,カラマツやトドマツは薬液の注入が難しく,同一条件で注入処理しても,本州の主要樹種であるスギ材の半分以下の注入量しか得られません(図4)。それらの樹種に,どのように必要量の薬剤を注入するかが一つ目の課題です。

   


 二つ目の課題は,製品の品質管理です。木材は天然材料なので個体間で性質にバラツキがあり,さらにカラマツ材やトドマツ材に多い節は,他の部分と性質が異なります。それらの性質の違いは,薬剤の注入量や薬剤の燃焼抑制効果に影響を及ぼすことが予想されます。木質防火材料を信頼性の高い製品にするには,天然材料の特徴を考慮した品質管理体制を確立することが必須となっています。来年度からの研究では,これらのことを検討し,木質防火材料の製造技術の開発を行うことにしています。

 おわりに


 本報では,木質防火材料について,基本的な事柄を説明すると共に,当場が今後取り組む研究について紹介しました。「公共建築物等木材利用促進法」が施行されたこともあり,今後は大規模建築物に地域材を利用することが多くなると予想されます。しかし,それらのほとんどの建築物は,これまで鉄やコンクリートで建てられていたため,すぐに全てが木造になることや,内装に木質材料を使用することは難しいように感じられます。

 当場が来年度から行う研究では,木質防火材料について基本的技術から検討し,安定した品質の製品を使用上無理のない価格で製造可能にすることを目指します。この研究成果により,これから増えることが予想される大規模建築物の内装木質化への需要に応えることが可能になり,更に前述の法律が目指す国産材の利用促進への効果が期待できます。また,この研究では,当初から商品化を考慮し,製品の仕様および製造工程の検討を行うことにしています。したがいまして,研究を進めるにあたっては,実際に製品を製造している民間企業の方々のご意見を伺いたいと思っております。その際には,ご協力お願いします。

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