住宅に長期間使用された構造用合板の接着性能調査

技術部 生産技術グループ 古田直之



 はじめに


 平成21年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」では,耐震性や耐久性に優れた住宅を作り,適切な維持管理をしながら長く大切に使っていくことが求められています。住宅の構造部材に使用されている木材自体は,適切に管理がされていれば,数百年といった長い年月の使用にも耐えられることがわかっています。このことは,国内に歴史的木造建築物が多く現存していることからも容易に想像することができます。
 これに対して,合板や木質ボード類などの接着剤が使用された木質材料については,長年の使用に対して,どの程度性能が維持できるのでしょうか。木質材料に使用されている接着剤は,数十年程度の歴史しかないため,構造部材として長期間使用された場合の耐久性については現時点では明確な回答を得ることはできません。さらに,構造部材として利用された木質材料の性能を実測した事例はほとんどありません。
 今回,実際の住宅に使用された合板について,接着性能の調査を行ったので,ここで紹介したいと思います。

 促進劣化試験と耐久性


 一般的に,合板の耐久性を把握するには,材料を実際の使用環境よりも厳しい環境に置いて性能変化を調べる,いわゆる促進劣化試験が行われています。促進劣化は,通常,煮沸や温水浸せき,乾燥等の処理を繰り返し行います。この手法は比較的短期間で性能変化を調べることができ,性能の異なる材料を同条件で劣化処理することによって,耐久性を比較分析することができます。新たに開発した材料の耐久性を調べるのには最適な手法です。一方で,その促進劣化処理が,実際の使用環境の何年分に相当するのかがわからないため,その材料が実際に使われる環境での耐用年数がどの程度あるのかを把握することはできないという問題があります。

 合板に使用する接着剤の種類と規格


 木質材料にとって接着性能は材料の品質を左右する重要な性能ですが,合板の日本農林規格(JAS)では,以下の3種類に分類されています。
【 特類 】:屋外または常時湿潤状態となる環境において使用することを目的とした類別で,72時間の連続煮沸試験に耐えることが要求されます。主にフェノール樹脂接着剤が用いられています。
【 1類 】:断続的に湿潤状態となる環境において使用することを目的とした類別で,煮沸繰り返し処理(4時間煮沸→60℃で20時間乾燥→4時間煮沸)に耐えることが要求されます。主にメラミン樹脂系接着剤が用いられています。
【 2類 】:時々湿潤状態となる環境において使用することを目的とした類別で,温冷水浸せき処理(60℃水中に3時間浸せき)に耐えることが要求されます。主にユリア樹脂接着剤が用いられています。
 このうち,住宅の骨組みとなる構造部材に使用されている構造用合板では,特類と1類の2種類が規定されています。

 合板の使用の歴史


 日本国内で初めて合板が製造されたのは1907年で,100年の歴史があるとされています。初期の頃は,住宅への利用ではなく,家具などへの利用がほとんどでした。1950年頃から,ホルムアルデヒド系の接着剤が使用されるなど,接着剤の耐水性の向上とともに用途が拡大していきました。1969年に構造用合板のJASが制定され,1974年に枠組壁工法がオープン化されたことなどから,合板の住宅構造部材への利用が始まってきました。その後,合板を使用した住宅の耐震性が認知されるにつれ,合板の構造利用が進んでいきました。

 住宅に使用した合板の調査


(1)調査物件と採取合板の概要
 調査物件は,表1に示した解体や改修される住宅7件で,これらの物件から,写真1に示すように壁下地および床下地に使用されている合板(以下,解体合板)を採取しました。表1にはJASの表示が確認できたものについて,その分類を示しましたが,床下地に使用された12mm厚の合板の多くは型枠用合板でした。今回採取した合板はすべて南洋材を用いた5プライ合板で,これらは腐朽や接着層のはく離の見られるものはありませんでした。

(2)含水率
 解体合板は,電気抵抗式含水率計(?ケット科学研究所製MT-900)を用いて含水率を測定しました。測定結果を図2に示します。なお,A7-Wは採取直後の測定ができなかったため,ここでは表示していません。
 B30-WとC30-Fは含水率が15%を超えており,やや高い値でしたが,その他は10%前後と比較的乾燥状態にあったと思われます。通常,台所や洗面室等の水回りでは,下地材へ水分が進入する可能性が高くなりますが,今回の物件では,水回りにおいても極端に含水率の高い箇所は見られませんでした。

(3)接着性能
 解体合板について,合板のJASに準じて常態接着力および煮沸処理後の接着力試験を行いました。また,比較用として,新品の合板(9mm厚特類,12mm厚1類)についても同様に試験を行いました。試験は写真2に示すように,合板の接着層に達するまで切り込みを入れ,これを上下に引張ることで最大荷重を測定し,せん断強さおよび木部破断率を算出しました。
 煮沸処理は,9mm厚の合板は72時間連続煮沸処理を,12mm厚の合板は煮沸繰り返し処理(4時間煮沸→60℃で20時間乾燥→4時間煮沸)を行いました。これは,入手した解体合板のうち,9mm厚の合板のみが,接着層に茶褐色の着色が見られ,フェノール樹脂接着剤を使用していると考えられたためです。

 図3に常態時のせん断強さと密度の関係を示します。新品合板については,図中に回帰直線を示しましたが,特類,1類とも,密度が高いほどせん断強さが増加する傾向が見られました。したがって,解体合板の値を新品合板の回帰直線と比較することで,劣化の程度をある程度把握することができます。解体合板の値は,新品合板の回帰直線の下部に分布していることから,接着性能が低下していたものと考えられます。また,全体的に1類合板は特類合板よりもせん断強さの低下が大きいことがわかります。

 図4は煮沸処理後の密度とせん断強さの関係を示したものですが,特類合板は,新品合板の回帰直線の下部に分布しているものの,連続煮沸処理後も比較的高いせん断強さを維持していました。一方,1類合板のC30-FやG25-Fでは,煮沸繰り返し処理によって接着層がはく離するものが多く見られました。C30-Fについては,含水率が比較的高かったことから,高湿度環境に長期間置かれたことによって,接着層が劣化した可能性が考えられます。

 図5は煮沸処理後の木部破断率とせん断強さの関係を示したものですが,特類合板は築後30年経過したB30-Wにおいても木部破断率が比較的高く,新品合板と同様の傾向を示していることから,接着層の劣化はほとんど見られないものと考えられます。一方,1類合板の方は,せん断強さの低さに加えて木部破断率が20%未満に集中していることからも,接着層の劣化が進行していたものと考えられます。

 おわりに


 今回の調査で,住宅部材として30年程度使用された合板の接着性能を示すことができました。この調査のみで,構造部材として合板がどの程度の長期使用に耐えるのかを明確にすることはできませんが,この結果は合板の耐用年数を示すための一つの指標になるものと考えられます。このような性能の変化は,含水率や生物劣化の有無など,材料が置かれた環境の影響を大きく受けます。
 今後は,使用環境と性能変化の関係を追求していくとともに,接着性能に加えて,曲げ性能や釘接合性能などについても調査を進めていく予定です。また,これらの調査結果と促進劣化試験の結果を照らし合わせることで,さらに長期間使用した場合の性能変化を予測する手法についても検討していきたいと考えています。

次のページへ