【普及奨励事項】
1.課題の分類  作物育種  分類番号    整理番号
          畑作まめ類 分類番号 I-a 整理番号 111-2-2
2.場所名  北海道立十勝農業試験場
3.新品種候補系統名  だいず「十育182号」
              (十交3510・P2・1・7・1・9・5・P9〜P15・7・2・1)

4.来歴
 本系統は、ダイズシストセンチュウ抵抗性品種の育成を目標として、昭和35年北海道立十勝農業試験場において、「PI 84751(U.S.A.より導入した中国の飼料および青刈り用だいず)」を母とし、「コガネジロ」を父として人工交配を行ない、F2以降、ダイズシストセンチュウ圃場で選抜固定を図ったものである。昭和52年より、「十育182号」の系統名で地方適否を検定するとともに、特性検定試験、納豆加工適性試験に供試した。昭和54年度で雑種第19代である。

5.特性
 (1)形態的特性:主茎長は、「トヨスズ」よりやや長い。主茎節数は、「トヨスズ」より1〜2節多い。分枝数は、「トヨスズ」より多い。分枝は、基部で開張した後、直立し、主茎頂部の高さ程度まで伸長する。葉形は長葉、花色は赤紫、毛茸は白色、熟莢は淡褐色を呈する。多莢形で、やや分枝にかたよって着莢する。一莢内粒数も、2.4〜2.5と、「トヨスズ」より多い。子実はやや扁球形、種皮色は黄〜極淡褐色(いわゆる白目種)を呈する。子実の大きさは、小粒の中(100粒重13〜15g)に属する。粒はやや不揃いであるが、外見的品質は良好である。
 (2)生態的特性:初期生育は、「トヨスズ」より劣る。開花期は、「トヨスズ」より1〜2日遅いが、成熟期は「トヨスズ」より4〜5日早く、中生の早に属する。耐倒伏性は、「トヨスズ」並であるが、多肥密植条件下では、「トヨスズ」より強い。ダイズシストセンチュウに対する抵抗性は、「Peking」系の低抗性因子をもち、「トヨスズ」より強い。マメシンクイガの被害、菌核病の発病程度は「トヨスズ」同様に弱い。裂莢性は、圃場立毛状態では、「トヨスズ」より裂莢しにくい。
 子実収量は、標準栽培では「トヨスズ」より15%前後劣るが、密植することにより、標準栽培の「トヨスズ」並の収量性を示す。年次によって、「トヨスズ」同様、臍周辺の着色がみられ、品質が低下する場合がある。子実の粗蛋白含量は、「トヨスズ」並、粗脂肪含量は「トヨスズ」より、やや低い。子実は、納豆加工適性をもっている。

6.試験成績
(1)育成地における成績 (十勝農試、昭和51〜54年4カ年平均)
系統名
または
品種名
開花

(月日)
成熟

(月日)
倒伏
程度
主茎

(㎝)
主茎
節数
分岐

(本/株)
稔実
莢数
1莢内
粒数
a当り収量(㎏) 100
粒重
(g)
品質
全量 子実重
(㎏/a)

(%)
十育182号 7.25 9.27 0.2 45 11.7 6.3 84.8 2.46 39.8 23.0 80 13.0 上下
トヨスズ 7.21 10.6 0.1 44 10.6 4.5 53.4 1.95 51.6 28.6 100 31.9 上下

(2)配布先における成績
試験場所 系統名
または
品種名
試験年次 成熟期
(月日)
主茎長
(㎝)
子実重
(㎏/a)
比(
%)
100粒重
(g)
品質
上川農試 十育182号 昭52〜54 9.20 55 25.0 82 11.4 中下
キタコマチ 9.19 57 30.5 100 28.1 中上
原々種農場 十育182号 昭52〜54 9.16 41 22.5 95 12.7 中上
ユウヒメ 9.19 48 23.7 100 31.5 上下
北見農試 十育182号 昭53〜54 9.28 59 24.3 76 12.1 中上
ヒメユタカ 10.1 77 32.1 100 32.0 中上
中央農試 十育182号 昭52〜54 9.24 43 25.4 71 14.1 上下
ユウヒメ 9.30 49 35.9 100 40.4 上中

(3)十勝地帯における現地試験の「トヨスズ」に対する熟期差と収量比(%)
地域区分 市町村名 試験年次 熟期差(日) 子実重(㎏/a) 比(%)
十勝中部 十勝農試
(芽室町)
51〜54 -9 23.0 80
幕別町 52〜54 -5 31.2 102
本別町 52〜54 -7 28.5 98
十勝山麓 新得町 52〜54 -11 22.4 98
上士幌町 52〜54 -7 22.4 89
鹿追町 52〜54 -12 24.6 102
十勝沿海 豊頃町 52〜54 -6 28.6 95
大樹町 52〜54 (-5) 18.2 79

(4)ダイズシストセンチュウに対する抵抗性
                  (個/個体当り)
  十育182号 トヨスズ 北見白 Peking
シスト数 0.1 81.3 255.0 0
根粒数 21.3 35.3 32.7 11.0

注1.十勝農試における昭51・52・54年の3カ年平均
(調査月日:昭51.7.16、昭52.7.14、昭54.7.9)

7.配布しうる種子量  478㎏

8.採 用 県  北海道

9.栽培適地および普及見込面積
 本系統は、「トヨスズ」より早熟であるが、耐冷性にやや難点があり、夏季及び収穫・乾燥期の気象条件を総合的に考慮して、十勝中部地域に適する。
  対象品種:トヨスズ。
  普及見込面積:800ha。

10.栽培上の注意
 (1)対象品種「トヨスズ」に比べ、「トヨスズ」の栽植株数では低収となるので、密植栽培する。
 (2)密植栽培によって、菌核病が多発しやすいので、防除を行なうこと。
 (3)ダイズわい化病、マメシンクイガなどの防除は、従来の品種と同様に行なうこと。
 (4)初期生育が緩慢であるので、肥培管理などによって、初期生育の確保をはかること。
 (5)刈取後の乾燥は、納豆加工適性をもたせるため、急激な人工乾燥をさけ、自然乾燥すること。
 (6)生産した子実の選別に留意し、莢雑物(特に菌核など)を除去すること。
 (7)均一な品質の納豆用だいずを安定して供給するため、集団栽培することが望ましい。
 (8)その他、栽培にあたっての注意事項は、「トヨスズ」に準じてよい。