【普及奨励事項】
                 (作成平成2年1月)
1.課題の分類  分類番号  整理番号
2.場所名  北海道立中央農業試験場
3.系統名  ハスカップ「HC1」
4.育種目標  果実が大きく、収量性の高い品種

5.来歴及び育成経過
北海道立中央農業試験場が昭和42年以来収集していた、苫小牧市沼の端の自生株及びそれらに由来する実生株、計約60系統について昭和53年より樹性・収量・果実品質などの調査を行ってきた。昭和59年からはハスカップの新品種育成試験として調査を続けた。昭和61年にそれらの株の中から果実が大きく、収量の高い個体(個体番号:No8)を選抜し、「HC1」の系統番号を付けた。その後さし木による増殖を行い、地域適応性を調査するため、滝川市・長沼町・千歳市・門別町において試作を行い、樹体生育・収量性・果実品質などの検討を行なってきた。

6.特性概要
(1)樹性及ぴ形態的特性
樹姿は開張性で、樹勢は強く、株の大きさは大である。枝の着生は密で、枝は太い。枝の色は濃褐色である。頂芽の形は頂卵形で大きさは中、えき芽の大きさは大である。成葉の形は楕円で大きさは中である。花冠の形はロート形で、色は濃クリーム色である。
(2)生育相
発芽期は4月上中旬で在来1,3及ぴ4号とほぼ同時期である。開花始期は早く、着色始期も やや早い。収穫始は6月末〜7月上旬で早生品種である。収穫期間は他の系統より長い。
(3)花芽の着生及び結実性
一新相当りの着花数は在来1号よりやや劣るが、他の系統と比較して同等以上である。自家結実率は28%で調査系統中最も高かった。自然受粉による結実率も約72%で、在来3,4号より高かった。
(4)生理落果
早期落果及び後期落果はほとんどみられないが、成熟果の果実と果梗の分離は容易で、収種が遅れると多少の落果をみる。
(5)収量性
成株の収量は他の系統より優る。また若齢株ではさし木3〜4年生以降急激に、収穫量が増加し、他の系統より著しく優っている。
(6)果実品質
一果重は大きく、在来1号と同等で在来3、4号より優った。形状は銚子手形もしくは長円形である。果実の色は青黒色である。果実の硬さは中で、果皮は薄い。果実の日持ち性はよくない。
果汁糖度(Brix値)は在来1、4号よりやや低く、果汁酸度は他の系統に比較して低い。種子数は少ない。
(7)加工適性
色素含量が高く、アスコルビン酸含量は中位で、酸含量が低く、種子数も少ないことから、加工用原料として適すると考えられる。
(8)繁殖性
秋または春の休眠枝ざしの活着は良好で、生育旺盛な苗を得ることができるため、増殖は容易である。
(9)耐病虫性
通常の栽培において他の系統と同程度である。

7.試験成績概要
第1表 生育相及び樹体生育

系統名 生育期(月日) 収穫
期間
(日)
着花
節数
(節)
樹体生育
発芽
満開
着色
始期
収穫
始期
収穫
盛期
収穫
終期
樹高
(m)
樹幅
(m)
樹高
樹幅
新梢数
(本)



HC1 4.10 5.21 6.25 7.1 7.9 7.18 19 2.5 0.9 1.0 0.92 235
従来1号 4.11 5.22 6.24 7.5 7.7 7.13 9 2.7 0.7 0.7 1.04 135
従来3号 4.11 5.23 6.26 7.5 7.8 7.14 10 2.5 0.9 0.7 1.27 87
従来4号 4.11 5.24 6.25 7.5 7.7 7.13 9 1.8 0.7 0.6 1.14 115

HC1 4.24 5.30 - 7.1 - 7.16 16 - 0.9 1.1 0.82 -
従来1号 4.24 5.30 - 7.1 - 7.16 16 - 0.7 0.9 0.78 -
従来4号 4.24 5.30 - 7.1 - 7.16 16 - 0.8 1.0 0.8 -

HC1 - 5.18 6.24 7.6 7.12 7.24 19 2.9 0.9 - - -
従来1号 - 5.21 6.27 7.6 7.10 7.14 9 3.1 0.9 - - -
従来3号 - 5.22 6.27 7.6 7.10 7.14 9 2.6 0.8 - - -
従来4号 - 5.22 6.26 7.6 7.7 7.14 9 2.3 0.8 - - -

HC1 - 5.20 6.28 7.5 - - - 2.8 0.5 - - -
従来1号 - 5.2 - 7.5 - - 2.6 0.5 - - -  

HC1 - 5.27 - 7.5 - - - 2.3 0.6 - - -
従来1号 - 5.31 - - - - - 2.4 0.6 - - -
注)千歳・門別の株齢は平成元年で4年生、他は5年生。

第2表 収量及び果実品質

系統名 収量 一果重
(g)
糖度
(Brix%)
酸度
(g/100mL)
種子数
(個)
自家結
実率(%)
(g/株) (kg/10a)



HC1 1710 678.9 1.1 10.5 2.47 8 28.0
従来1号 980 389.1 1.1 11.1 3.01 9 12.8
従来3号 1088 431.9 0.8 10.3 3.11 15 10.9
従来4号 869 345.0 0.7 10.7 3.16 11 11.8



HC1 232 61.9 0.7 12.5 2.22 - -
従来1号 51 13.6 0.8 12.8 3.44 - -
従来3号 66 17.6 0.6 11.7 3.05 - -
従来4号 15 4.0 0.4 12.1 3.48 - -

HC1 351 97.6 0.9 12.0 - - -
従来1号 132 36.7 0.9 12.8 - - -
従来4号 116 32.2 0.6 13.1 - - -

HC1 455 240.7 0.7 12.1 2.47 - -
従来1号 116 61.4 0.7 12.1 2.47 - -
従来3号 74 39.1 0.6 10.3 2.74 - -
従来4号 159 84.1 0.5 11.6 3.25 - -

HC1 45 18.0 0.7 9.9 - - -
従来1号 14 5.6 0.5 11.5 - - -
門別 HC1 81 101.3 0.8 9.0 - - -
従来1号 5 6.3 0.5 9.8 - - -
注1)中央農試成株(平成元年で定植後22年生)の収量は昭和56〜63年までの平
  均、一果重は昭和57〜平成元年までの平均、糖度は昭和56〜平成元年(62年を
  除く)平均、酸度は昭和60,63,平成元年平均。種子数は昭和56〜平成元年(60
  〜62年を除く)平均。自家結実率は昭和60〜平成元年(62年を除く平均)。
 2)中央農試のさし木株以下は平成元年度で示す。

第3表 果実成分分析結果
系統 糖(%) 果汁
pH
有機酸
(クエン酸
%)
アスコルビン酸(mg%) 色素
(OD510nm
pH1)
ペクチン
(%)
グル
コース
シューク
ロース
全量 還元
酸化
HC1 2.6 痕跡 3.05 2.5 45.7 12.1 33.6 0.391 0.50
従来1号 3.0 痕跡 2.87 2.9 34.4 13.6 20.8 0.340 0.40
注1)中央農試流通加工科成績(昭和60〜61年)より抜枠。
 2)分析・定量は下記の方法による。
  供試試料:収穫後冷暗所(1℃)に約1カ月貯蔵後分析。
  糖:水抽出,シュガーアナライザーにて定量。
  有機物:0.1N NaOH 滴定植よりクエン酸換算にて算出。
  アスコルビン酸:5%メタリン酸抽出、ヒドラジン法にて定量。
  色素(アントシアン):1%HCl エタノール抽出、pH1にて調整後510nmにおいて吸光度測定。
  ペクチン:AIS(アルコール不溶性固形物)よりEDTA-ペクチナーゼ抽出、カルバゾール硫酸法により定量。


     第1図 一果重と一株収量の関係(昭和60年)
          成株(定植後18年生)15系統調査。

8.普及対象地域及ぴ普及見込み面積
全道一円、全栽培面積の約25%、約35ha

9.保有種苗
親株(定植後22年生)1株、さし木及ぴ茎頂培養株(5年生)100株。(穂木5kg)

10.栽培上の注重点
(1)新植または改植更新の際は、他の2〜3系統を混植する。
(2)樹勢が強く、開張性であるので、株間をやや広めとし、270〜330株/10a(列間2.5m×株間1.2〜1.5m)程度の栽植とする。