1.課題の分類 分類番号 整理番号 2.場所名 北海道立道南農業試験場 3.系統名 クリ「道南1号」 |
4.来歴および育成経過
昭和41年、道南の在来品種「銀太郎」の種子を約5000粒は種し、翌年得られた実生の中から葉形が栽培グリに近いもの約500個体選抜した。その後、養成された実生は、は種後7〜8年で結実してきたが、その中から、果実特性、耐寒性等で優良と思われ選抜されたのが本系統である。その後、苗木を養成し生産力、果実特性、耐寒性等の検討をおこなうとともに昭和60年より中央農試および壮讐町において地域適応性について検討してきた。
5.特性概要
(1)樹性および形態的特性
樹姿はやや開張で、樹勢は強く樹体の拡大は早い。樹体は「銀太郎」に比べると明らかに大きくなる。枝しょうの長さは「丹沢」と同程度で枝しょうの太さは「丹沢」より太い。枝しょうの色は、かっ色である。葉形は長だ円状ひ針形。葉身は「丹沢」「銀太郎」よりも明らかに大きい。葉の毛じは「丹沢」より多く、葉柄は「丹沢」より太い。雄花穂は「丹沢」よりやや直立する。
(2)生育相と果実の熟期(収穫期)
発芽期、および開花期は「銀太郎」よりも明らかに早く、開花期は育成地で平均で7月8日であり、「銀太郎」よりも7目早い。果実の熟期は「銀太郎」よりも明らかに早く、育成地では平均して10月2日より果実が落下しはじめ、10月13日まで続く。
(3)きゅう果(いが)と果実の特性
きゅう果の形は扁球で、きゅう果の大きさは「丹沢」と同じく中程度である。きゅう果のとげの長さは「丹沢」と同様、短く、とげの密度は「丹沢」と同程度である。きゅう果は果実が成熟すると、その多くは樹上で裂開し、含有する果実を落とすか、果実を含んだまま落下する。果実は1きゅう果当り1〜3果含まれるが、平均すると育成地で1きゅう果当り1.92ヶである。果実の形は、ほぼ円形で、果皮の毛じは多い。果実の大きさは「銀太郎」よりやや大きく、育成地で重さが12〜13gである。果実の色は、かっ色。双子果は「丹沢」と同じ位発生するが、果頂部裂果の発生は少ない。果肉の色は黄色で肉質は粉質である。果実の比重は1.06と高く、食味は良い。
(4)生産性
収量は、「銀太郎」よりも明らかに多く、生産力は高い。育成地では1年生苗で定植2〜3年目3年生苗では定植当年より結実しはじめる。育成地の実績から、目標収量を300㎏/10aとすると適正に栽培されれば、樹令6〜7年で達成可能と思われる。
(5)耐寒性
「筑波」「ちの7」「銀太郎」よりは、凍害の発生は少なく耐寒性は明らかに高い。地域間の比較では、育成地での凍害の発生は少ないといえるが、中央農試では凍害がかなり認められている。
(6)交配親和性
自家受粉した場合の着きゅう率は11%と低く、実用的には白家不親和に近いといえる。なお、「道南2号」の花粉を受粉した場合、着きゅう率は75%と高く、「道南2号」とは交配親和である。
(7)耐病虫性
標準栽培において、特に問題となる病害虫は認められない。
6.試験成績概要
第1表 樹体生育、生育相、収量
試験 場所 |
系統、品種 (平1年樹令) |
平1年の樹体生育(cm) | 生育相と収穫期 | 1樹当り収量(g) | 1果重 (g) |
||||||
幹周 | 樹高 | 樹巾 | 調査年度 | 発芽期 | 開花期 (開花始) |
収穫期 | 平成 1年度 |
累積 | |||
道 南 農 試 |
道南1号 (6) |
27.0 | 403 | 353 | 62〜平1 | 4.24 | 7.18 | 10.2〜10.13 | 6,162 | 9,722 | 12.2 |
銀太郎 (6) |
18.4 | 345 | 215 | 4.28 | 7.25 | 10.8〜10.19 | 3,363 | 5,317 | 11.2 | ||
中 央 農 試 |
道南1号 (4) |
13.4 | 240 | 170 | 62〜平1 | 5.7 | 7.19 | 10.5〜10.18 | 1,216 | 1,774 | 8.7 |
銀太郎 (4) |
11.7 | 200 | 115 | 5.9 | 7.23 | 10.12〜10.22 | 989 | 1,412 | 7.1 | ||
壮 瞥 町 |
道南1号 (6) |
16.8 | 250 | - | 平1 | 4.21 | (7.13) | 10.7〜10.17 | 786 | - | 12.2 |
銀太郎 (6) |
11.9 | 196 | - | 4.25 | (7.12) | 10.12 | 956 | - | 6.0 |
第2表 果実特性
項目(調査 年度) 系統 品種 |
1きゅう果 当りの果数 (63〜平1) |
双子果 発生率(%) (63〜平1) |
果頂部 裂果率(%) (平1) |
比重 (62〜平1) |
道南1号 | 1.92 | 8.4 | 0.0 | 1.06 |
銀太郎 | 1.69 | 17.1 | 4.5 | 1.03 |
森早生 | 1.06 | |||
丹沢 | 14.0 | 0.0 | 1.03 | |
伊吹 | 7.8 | 0.0 |
第1図 10a当り換算収量(=1樹当り収量×66(樹/10a))
第3表 官能テスト
系統 | 項目 | パネラー数 | 「対照より好 ましい」とし た人数 |
「対照の方が 好ましい」と した人数 |
「どちらとも いえない」と した人数 |
道南1号 | 外観 | 35 | 3 | 32 | 0 |
食味 | 35 | 17 | 15 | 3 |
第4表 各場所における凍害状況
項目 | 系統品種 | 道南農試 | 中央農試 | 壮瞥町 | |||||
凍害調査1 (56〜57) |
凍害調査2 (56〜57) |
試験1 (59〜平1) |
試験2 (61〜平1) |
試験1 (59〜平1) |
試験2 (61〜平1) |
試験1.2 (62〜平1) |
|||
凍害発生 程度 (0〜100) |
道南1号 | 11 | 4 | 7 | 0 | 30 | |||
銀太郎 | 4 | 17 | 2 | 57 | |||||
筑波 | 41 | ||||||||
ちの7 | 15 | ||||||||
凍害によ る枯死樹 発生率(%) |
道南1号 | 4 | 0 | 20 | 0 | 0 | 50 | 0 | (衰弱樹 も含ん だ割合) |
銀太郎 | 5 | 67 | 0 | 100 | 88 | 83 | |||
筑波 | 24 | ||||||||
ちの7 | 11 |
第5表 交配親和性
♂/♀ | 道南1号 | 道南2号 | ||||||||
交配きゅ う果数 |
着きゅ う果数 |
同左 (%) |
果数/ きゅう果 |
一果重 (g) |
交配きゅ う果数 |
着きゅ う果数 |
同左 (%) |
果数/ きゅう果 |
一果重 (g) |
|
道南1号 | 27 | 3 | 11 | 1.00 | 11.3 | 32 | 24 | 75 | 1.67 | 10.4 |
7.普及対象地域および普及見込み面積
道南(渡島、桧山)およびそれに準ぢる地域。60ha。
8.保有種苗
実生台木に接木した6.7年生樹、10樹。穂木として約10㎏あり増殖用種苗に問題はない
9.栽培上の注意事項
(1)排水不良地や風当りの強い場所は凍害が発生しやすいので十分な改善を図る。
(2)低率で自家結実するが実用的には自家不結実に近いので、必ず受粉用の異品種を混植する。
一般に受粉に有効な花粉の飛散距離は10m内外といわれているので、栽植に当っては10m以内に受粉用品種が存在するように配置する。なお、「道南2号」とは相互に親和性があり受粉用品種として適当である。
(3)陽当りが不良になると樹勢が低下したり、病害虫の発生を助長したりするので、間抜や整枝せん定によって陽当りの改善を図る。
(4)無防除で栽培すると、果実に虫害を被ることが多いので、防除暦に従う。