1.課題の分類
2.場所名  北海道立十勝農業試験場
3.新品種候補系統名  だいず十育216号

4.来歴
 だいず「十育216号」(以下「十育216号」と略す)は、ダイズシストセンチュウ抵抗性強のあお豆品種の育成を目標とし、昭和53年に北海道立十勝農業試験場において「十育186号」を母、「トヨスズ」を父として人工交配し、以降選抜、固定を図ってきた系統である。昭和60年には、「十系720号」の系統名を付し生産力検定予備試験Aに供し、昭和63年から「十育216号」の系統名で生産力検定試験、道内関係機関の奨励品種決定基本調査および特性検定試験等に供し、さらに同年から道内各地の奨励品種決定現地調査等に供してきた系統で、平成3年にはF13である。

5.特性
(1)形態的特性
 胚軸の色は緑、花色は白、小葉は円葉で、毛茸は色が白、直毛、その多少は中程度である。主茎長は「早生緑」と同様の短、主茎節数は少、分枝数は「早生緑」および「トヨムスメ」と同様に中である。伸育型は有限であり、熟莢色は淡褐を呈する。
 粒の形は、「早生緑」と同じく球、粒の大小は大の小である。粒の子葉色および光沢は各々黄および弱である。また、種皮の色は「早生緑」と同じく緑、臍の色は「早生緑」の黒、「音更大袖」の暗褐に対し黄である。外観上の品質は「早生緑」より優る。裂皮粒の発生は「早生緑」よりやや多いが「キタムスメ」より少ない。低温障害による臍周辺着色粒の発生は「トヨムスメ」より少ない。
(2)生態的特性
 開花畑は「早生緑」より早く、「トヨムスメ」と同じく中の早に分類される。一方、成熟期は「早生緑」の中の早より遅く、「音更大袖」および「トヨムスメ」並の中である。生態型は夏大豆型に属する。子実収量は「早生緑」および「音更大袖」より多収で、「トヨムスメ」並である。
 ダイズシストセンチュウに対する抵抗性は、「早生緑」および「音更大袖」の弱に対し、「トヨムスメ」と同じく強である。低温および黒根病に対する低抗性は各々中および弱である。裂莢の難易は「トヨムスメ」と同様に易である。倒伏抵抗性は「早生緑」および「音更大袖」の中に対し、強である。
 子実の粗蛋白含有率および粗脂肪含有率は「早生緑」および「音更夫袖」と同じく低および中である。
(3)加工適性
 製菓用原料としての特性は、「音更大袖」とほぼ同等で、「早生緑」より優れる。煮豆製品は「早生録」に比べて粒揃いが良く煮くずれの少ない傾向にあり、舌ざわりがなめらかで味が良く軟らかな煮豆との評価で、「音更大袖」並に良好である。また、豆乳中の固形分含有率、製品評価等からみた豆腐加工道性は、「音更大袖」および「トヨムスメ」並に良好である。

6.試験成績
1)育成地における試験成績
系統名
または品種名
開花期
(月日)
成熟期
(月日)
主茎長
(㎝)
主茎
節数
分枝数
(本/株)
倒伏
程度
子実重
(kg/a)
子実重
対比(%)
百粒重
(g)
品質
十育216号 7.16 10.4 46 10.3 5.7 31.9 115 34.4 2中
早生緑(標準) 7.23 9.29 53 12.6 6.7 27.7 100 33.7 3中
音更大袖(比較) 7.23 10.3 58 13.2 6.3 30.1 109 37.5 3上
トヨムスメ(比較) 7.19 10.3 54 10.2 4.7 31.3 113 37.2 2下
注1)試験年次は昭和63年〜平成3年。2)標準播による。3)品質は検査等級である。

2)普及見込地帯における試験成績
①奨励品種決定基本調査
試験場所 系統名
または品種名
成熟期
(月日)
主茎長
(㎝)
主茎
節数
分枝数
(本/株)
倒伏
程度
子実重
(kg/a)
子実重
対比(%)
百粒重
(g)
品質
北見農試 十育216号 10.1 48 10.5 5.9 30.7 112 32.8 2中
早生緑(標準) 9.28 56 12.7 6.8 27.3 100 33.8 2中
音更大袖(比較) 10.2 65 13.3 5.7 28.5 104 35.1 2下
注)試験年次は昭和63年〜平成3年。

②奨励品種決定現地調査等
地域 系統名
または品種名
成熟期
(月日)
主茎長
(㎝)
倒伏
程度
子実重
(kg/a)
子実重
対比(%)
百粒重
(g)
品質
十勝 十育216号 10.7 51 30.5 110 34.8 2下
早生緑(標準) 10.3 55 27.7 100 34.7 3上
音更大袖(比較) 10.8 63 29.2 105 37.2 2下
網走 十育216号 10.5 44 35.7 119 33.0 2中
早生緑(標準) 10.1 45 29.9 100 35.2 2中
音更大袖(比較) 10.5 56 33.8 113 37.2 2中
注1)試験年次 十勝:昭和63年〜平成3年、網走:平成2〜3年。
 2)試験箇所数 十勝:27、網走:6

7.配布しうる種苗量 原原種:15㎏、原種:220㎏、その他:20㎏

8.採用予定県:北海道

9.適地および普及見込面積
 北海道の十勝、網走地域およびこれに準ずる地帯 800ha

10.栽培上の注意
 1)ダイズわい化病抵抗性は弱なので、防除を徹底する。
 2)ダイズシストセンチュウに対して「トヨムスメ」並の抵抗性を持つが、栽培に当っては適正な輪作を
  前提とする。
 3)収穫期が遅れると種皮色が淡くなり、裂莢は易であるので、成熟後すみやかに収穫する。