【普及奨励事項】
完了試験研究成績           (平成4年1月作成)
1.課題の分類  草地 育種 寒地型牧草 A-3
          北海道 草地
2.研究課題名  チモシー「北見18号」に関する試験
3.予算区分  指定試験
4.研究期間  完,(昭和53年〜平成3年)
5.担当  北海道立北見農業試業場牧草科
6.協力、分担  根釧農試、新得畜試、天北農試、北農試
          青森畜試、山形畜試、東北畜試、草地試

7.目的
北海道及び東北地方に適する多収で、再生性に優れる中生の晩の品種を育成する。

8.試験方法
(1)育種方法  10栄養系の組合せによる合成品種法。
(2)育成経過
昭和53年〜57年我が国を含めた8か国で育成された中生の23品種系統から3,960個体の基礎集団を養
成し、38個体を選抜した。
昭和58年〜62年38選抜栄養系の多交配後代種子を採種し、多交配後代検定により構成10栄養系を選
抜した。
昭和61年〜平成3年合成1代種子を採種し、系統適応性検定及び特性検定試験を実施した。
昭和62年〜平成3年合成2代種子を採種し、合成1代種子と合成2代種子の比較試験を実施した。

9.成果の概要
(1)形態的特性
「ホクセン」に比較すると、1番草は草丈がやや低く、稈長が低い。茎が細く、茎数が多い。出穂茎数はやや少ない。草型は着葉角度が狭い直立型を示す。2番草は草丈がやや高く、茎数・節間伸長茎割合が多く、出穂茎割合がやや多い。葉色、茎色共に「ホクセン」よリ淡い。
(2)生理生態的特性
出穂始は、北海道では6月27日、東北地域では6月22日で、「ホクセン」に比較すると北海道で3日、東北地域で4日遅く、「ノサップ」に比較すると北海道で10日、東北地域で13日遅い中生の晩の系統である。
斑点病に対して「ホクセン」「ホクシュウ」よりやや低い罹病程度を示す。すじ葉枯病に対して「ホクセン」並かやや高い罹病程度を示す。がまの穂病の発生が留められたが、発生程度は軽微である。
耐寒性は強である。越冬性は「ホクセン」並である。萌芽、早春の生育が良好で、早春の草丈が高い。
倒伏は「ホクセン」並で、耐倒伏性は中程度と考えられる。
1番草刈取後の再生は初年目を除き「ホクセン」よリ良好である。
永続性は、「ホクセン」よリ茎数密度がやや高く、欠株が少ないことから利用4年目の収量がやや高く、やや優れていると推測される。
(3)収量
一斉刈リにおける利用2、3年目の北海道平均収量は「ホクセン」対比108、同じ<利用1〜3年目の東北地域平均収量は99で、出穂始の差を考慮した「北見18号」の収量は、北海道では「ホクセン」よリ多収で、東北地域ではやや多収である。
出穂期刈リにおける利用2、3年目の平均収量は「ホクセン」対比113で、多収を示した。2年目以降の乾物率は、各番草とも「ホクセン」並である。
アカクローバとの混播栽培における「北見18号」・アカクローバ合計収量は、ほぼ「ホクセン」並であるが、「北見18号」の混生割合は「ホクセン」に比較すると後期年次ほど高く、利用3年目の混生割合は、「ホクセン」の21.6%に対し52.0%てあり、アカクローバに対する競合力が優れていると推測される。
(4)放牧適性
放牧地の植生、永続性、季節生産性及び家畜の嗜好性から、放牧適性は「ホクセン」「ホクシュウ」「ノサップ」と同程度と判定される。
(5)飼料成分
分析された各成分の値は「ホクセン」と大差なく、ほぽ「ホクセン」と同程度の飼料成分含有率と推測される。
(6)採種量
一穂当リ種子重が「ホクセン」よリ軽く、穂数が多いものの、2年間平均種子収量は「ホクセン」対比76と低収で、「ホクシュウ」対比では143であった。千粒重は323㎎で、「ホクセン」並かやや軽い。採種した種子の発芽は良好である。

10.総括的な成果の具体的数字
表1 主要形質の試験成績
形質 場所 北見18号 ホクセン ホクシュウ ノサップ Isd(5%) 備考
草丈(早春) 北見農試 41.5 37.2 44.5 40.5 1.72 cm
草丈(1番草) 131.0 138.7 116.8 136.1 3.61
穂長 16.0 15.4 17.5 13.3 0.88
葉長 31.1 30.8 31.2 26.6 1.70
葉幅 1.3 1.3 1.2 1.2 0.05
茎の太さ 5.6 6.2 5.3 5.7 0.42 1:細〜9:太
茎数 5.0 4.9 7.2 5.0 0.39 1:少〜9:多
出穂割合 7.4 8.0 4.3 8.8 0.43   〃
草型 3.7 5.3 3.9 3.2 0.39 1:直〜9:葡
永続性 5.2 3.1 6.1 4.9 0.31 1:極不良〜9:極良
出穂始
(月/日)
全道平均 6/27 6/24 6/30 6/17   北海道は2、3年目の、東北
地域は2〜4年目の平均
東北平均 6/22 6/18 6/28 6/9  
全場平均 6/24 6/21 6/29 6/13  
斑点病
罹病程度
全道平均 2.0 3.0 2.6 2.2   1:無又は微〜5:甚
東北平均 2.2 2.6 2.5 2.5  
全場平均 2.1 2.9 2.6 2.2  
すじ葉枯病
罹病程度
全道平均 2.7 2.4 2.4 3.2   同上
東北平均 1.8 1.8 1.7 1.6  
全場平均 2.2 2.1 2.0 2.3  
黒さび病
罹病程度
山形畜試 1.3 1.4 1.7 1.7   同上
北見農試 9.0 8.9 9.0 7.8   1:極弱〜9:極強
耐寒性 根釧農試    
越冬性 全道平均 1.6 2.0 1.8 1.7   1:良〜5:不良
東北平均 1.5 1.3 1.2 1.5  
全場平均 1.6 1.7 1.5 1.6  
再生 全場平均 2.6 3.2 2.8 2.1   同上
到伏程度 全場平均 2.3 2.5 1.7 3.2   1:無又は微〜5:甚
2か年間合
計乾物収量
(㎏/a)
根釧農試 119 226.4 101 135 12.8 「ホクセン」は実収量でそ
の他は「ホクセン」対比で
示した。2か年は2、3年目、
3か年間は2〜4年目の合
計収量。北見熟期は各品種
系統の出穂期刈りの収量で
ある。
北見農試 102 206.8 92 109 n.s.
新得農試 107 261.6 100 116 4.2
天北農試 110 226.5 93 108 8.5
北農試 104 252.3 102 111 4.7
全道平均 108 234.7 98 116 7.9
北見熟期 113 166.8 112 117 10.9
3か年間合
計乾物収量
(kg/a)
青森畜試 101 375.9 93 109 5.3
山形畜試 96 438.5 86 95 8.1
東北農試 101 364.3 91 108 9.0
東北平均 99 392.9 90 104 6.5
放牧前草量 新得畜試 103.9 99.4 100.6 101.8   2,3年目の平均乾物重(kg/a)
利用率 42 39 42 41   2,3年目の平均(%)


(1番草葉部) 草地試 37.4 35.0 29.8 37.6   乾物の分解率で、酵素法
(αアミラーゼ+セルラーゼ)
により求めた。
(1番草茎部) 33.3 32.7 29.2 30.0  
(2番草   ) 32.1 30.7 32.1 29.5  
チモシー割合 北見農試 52.0 21.6 40.5 78.1 9.95 混播の利用3年目の合計(%)
採種量 北見農試 2.49 3.27 1.74 4.97 0.771 2,3年目の平均(kg/a)
注)北見農試の形態的形質は、早春の草丈以外は1番草に調査した。永続性は4年目1番草の茎数密度で
評価した。「ホクシュウ」の出穂始は北見及び根釧農試が全区出穂しなかったため推定値である。

11.成果の活用面と留意点
1)適応地域及ぴ普及見込み面積
適応地域は北海道並びに東北北部とする。普及見込み面積は約4万ha。
2)栽培利用上の留意点
中生の晩の品種として北海道では年間2回、東北地域では3回程度の採草利用を主体とするが、放牧にも利用できる。アカクローバとの混播栽培における競合力は、「ホクセン」よリ優れているものの、「ノサップ」ほど強くない。
3)育種家種子の供給計画
現在保存中の育種家種子は3.2㎏である。毎年3㎏の育種家種子を供給する予定である。なお、平成3年度よリ家畜改良センター十勝牧場において本系統の予備増殖を開始している。

12.残された問題とその対応
採種性の向上。競合力を左右する要因の解明。

13.研究成果の区分
①普及に移しうる成果。