1.課題の分類  分類番号  整理番号
2.場所名  北海道立道南農業試験場
3.系統名  イチゴ「道南8号」

4.来歴
 昭和62年1月に道南農試において光沢良好で、果実が硬い道南農試選抜系統「59交13-37」を種子親に、果皮色が濃く、果形の良い「麗紅」を花粉親に交配し、116実生を得、ハウス内では種育苗し、ウドンコ病の確病株を淘汰し、68個体を同年9月に露地圃場に定植した。昭和63年6月に、この68個体の中からウドンコ病の罹病がな<、生育が旺盛で果実品質の良い9個体を選抜し、直ちにランナーで増殖し、1個体当たり20〜30個体の子株を得、同年9月に「62交102-1」〜「62交102-9」の系統番号を付け、ハウス予定地内に定植した。平成元年にハウス半促成作型で、果実品質及び生育特性等により系統選抜を行い、特性に優れた「62交102-7」に「道南8号」の新系統名を付し、平成2年から、生産力検定及び地域適応性検定に移し、品質、収量性及び地域適応性の検討を行った。

5.特性の概要
(1)形態的特性
 草姿はやや立性、草勢は強で、草丈は高く「宝交早生」に比べ旺盛な生育を示す。
 分けつは「宝交早生」に比べ少ない。
 葉色は濃く、葉は「宝交早生」に比べ厚く、小葉は大きく、葉の欠刻は鈍鋸歯状で、葉数は少ない。葉柄長は「宝交早生」とほぼ同じか、やや短い。
 ランナーは「宝交早生」に比べ太<、発生は7〜10日遅いが発生数は多い。したがって増殖に問題は無いと考えられる。花柄の長さは「宝交早生」並であるが、太さは太く、花及ぴ花弁の大ききは「宝交早生」より大きい。花房当たりの花数は「宝交早生」より多い。
(2)収量性
 上物収量は「宝交早生」並である。なお、定植の遅れや小苗定植により「宝交早生」に比べ減収する場合がある。平均1果重は゜宝交早生」より2〜3g重く大果である。屑果の発生が少ないため、上物率は「宝交早生」に比ぺ10%程度高い。
(3)果実特性
 果皮は鮮紅色で果肉は淡橙色で「宝交早生」に比べると果皮果肉とも淡い。果形は円維形で光沢があり、外課は「宝交早生」に比べ良好である。中心空洞は「宝交早生」より大で、比較的小さい果実にも入る。中心空洞は生食用としては大きな問題とはならないと考えられるが、スライスしてケーキ用に用いる場合、問題となる可能性がある。香りは「宝交早生」並で、Brix及び酸度は「宝交早生」より高く、食味は醐味があるため好みが分かれるが、ほぼ「宝交早生」並である。果皮は「宝交早生」に比べ強く、「盛岡16号」に比べやや弱く、「ペルルージュ」に比べ弱い、果肉は「宝交早生」に比べやや硬く、「盛岡16号」に比べ軟らかく、「ペルルージュ」に比べ同じか、やや軟らかい。日持ち性は「宝交早生」より優れ、「盛岡16号」並で、「ペルルージュ」よりは劣る。完全着色果でも「宝交早生」の8分着色果以上の日持ち性を示す。
(4)生態的特性
 露地状態での花芽分化期は大野町で9月下旬と「宝交早生」より10日程度運く、開花始期は「宝交早生」に比べ、10〜14日程度遅い.成熟日数は「宝交早生」に比べ5日前後早く、収穫始期は「宝交早生」に比ぺ7〜10日遅い中生であり、「盛岡16号」に比べても遅く、「ペルルージュ」並かやや遅い。休眠性は「宝交早生」より深い。
(5)その他
 灰色かび病については接種検定は行っていないが、圃場では、草勢が強いため過繁茂になり易く、同病の発生を助長し、灰色かび病による病巣の発生が多くなる場合がある。

6.試験成績概要
表  道南8号の標準品種「宝交早生」対比特性
試験場所 道南農試 中央農試
品種系統名 道南8号 宝交早生 道南8号 宝交早生
年次 平2 平3 平4 平均 平2 平3 平4 平均 平2
***
平3 平4 平均 平2
***
平3 平4 平均
定植期(月日) 9.14 9.10 8.27   9.14 9.10 8.27   9.28 9.18 9.1   9.28 9.18 9.10  
収穫期(月日) - 5.7 5.15 5.11 - 4.26 5.6 5.1 6.5 5.31 5.31 6.2 5.26 5.28 5.28 5.27
上物収量(kg/a) 325 314 411 350 285 184 285 252 148 305 209 221 310 251 182 247
↑(標準比) 114 170 144 139 100 100 100 100 48 122 115 89 100 100 100 100
株当たり上物重量(g) 634 612 710 652 552 360 491 468 309 549 409 422 646 450 355 484
平均一果重(g) 13.9 12.1 15.8 13.9 11.9 9.4 11.7 11.0 12.5 12.4 12.4 12.4 9.4 10.6 11.6 10.5
外観品質* 4 4 4 4 3 3 3 3 4 3 5 4 3 3 3 3
食味* 3 2.5 3 2.8 3 3 3 3 2.5 2.5 2 2.3 3 3 3 3
空洞** 3 2 2 2.3 3 3 3 3 1 1 1.2 1.1 3 3 3 3
日持ち性* - 4 4 4 - 3 3 3 4 - 4 4 3 - 3 3

試験場所 道南農試 中央農試
品種系統名 道南8号 宝交早生 道南8号 宝交早生
年次 平2 平3 平4 平均 平2 平3 平4 平均 平2 平3 平4 平均 平2 平3 平4 平均
定植期(月日) 9.4 9.15 8.22   9.4 9.15 8.22   9.15 9.6 8.30   9.15 9.6 8.30  
収穫期(月日) 5.4 5.14 5.24 5.14 5.4 5.14 5.11 5.10 6.1 5.30 6.11 6.3 6.1 5.30 6.6 6.2
上物収量(kg/a) 143 274 155**** 191 133 288 204 208 131 151 156 146 174 187 156 173
↑(標準比) 108 95 76 92 100 100 100 100 75 81 100 85 100 100 100 100
株当たり上物重量(g) 322 568 348 413 300 597 459 452 236 272 514 341 314 337 516 389
平均一果重(g) 16.7 12.4 14.0 14.4 13.6 10.6 10.7 11.6 12.1 12.6 11.3 12.0 12.2 9.2 11.5 11.0
外観品質* 4 4 4 4 3 3 3 3 - 3 4 3.5 - 3 3 3
食味* 4 2.5 3 3.2 3 3 3 3 4 3.5 5 4.2 3 3 3 3
空洞** 3 1 2 2 3 3 3 3 - 2 2 2 - 3 3 3
日持ち性* 4 - - 4 3 - - 3 4 3 4 3.7 3 3 3 3
*:外観品質、食味、日持ち性は標準品種「宝交早生」を3として、5:良〜1:不良
**:空洞は、5:小〜1:大
***:ハウス予定地の準備が出来なかったため 9月14日に仮植し、9月28日に定植した。
****:後作の準備のため収穫を打ち切ったため未収穫果有り。

7.普及対象地域及ぴ普及見込み面積
 全道一円、・ハウス無加温半促成栽培面積150haの内70h中生のため、「宝交早生」と組み合わせて、収獲出荷の分散平準化を図ることができる。

8.保有種苗
 露地仮植苗(道南農試)200株、(植物遺伝資源センター)200株
 茎頂培着苗(in vitro)、(植物遺伝資源センター)1000株

9.栽培上の注意点
 「宝交早生」の栽培法に準ずるが、草勢が強いため過繁茂になり易く、灰色かび病による病果が多発する危険性があるので、密植は避ける。
 定植の連れや小苗定植による減収が「宝交早生」よりも大きいため、早期、大苗定植に努める。