新品種候補【普及奨励事項】 (平成6年1月)
1.課題の分類
2.場所名:北海道立十勝農業試験場
3.新品種候補系統名：菜豆十育B62号
4.来歴
「菜豆十育B62号」(以下,「十育B62号」と略す)は,早生で多収,大粒良質の金時類品種の育成を目標とし,昭和60年に北海道立十勝農業試験場において早生の「大正金時」を母,大粒良質の「福白金時」を父として人工交配し,以後選抜,固定を図ってきた系統である。
昭和61年春季に暖地(鹿児島県沖永良部島)において世代促進を行った。
平成2年には「十系B185号」の系統番号を付し生産力検定予備試験に供し,平成3年から
「十育B62号」の系統名で生産力検定試験,道内関係機関の地域適応性検定試験および特性検定試験等に供し,さらに平成4年から道内各地の奨励品種決定現地調査等に供してきた系統で,平成5年にはF10である。
5.特性
1)形態的特性
胚軸の色は淡赤紫で,伸育性と草型は有限矮性である。草丈は中であるが「大正金時」よ
りやや高く,主茎節数は少である。花色は淡赤紫である。莢の長さは中であるが「大正金時」よりもやや長く,幅は広,硬軟は硬である。若莢の地色は緑,斑紋の色は「大正金時」がまれに赤色を生ずるのに対し,無である。
一莢粒数は極少,子実の大小はI「大正金時」の中の大に対し,「北海金時」と同じ大であ
るが,形は「北海金時」の長楕円体に対し,「大正金時」と同じ楕円体である。
種皮の斑紋の種類は無,種皮の地色は赤紫,原色は無である。
2)生態的特性
開花期および成熟期は「大正金時」と同じ早であるが1〜2日遅く,「北海金時」の成熟期よりは早い。耐倒伏性は中,葉落ちの良否は「大正金時」r北海金時」のやや否に対しやや良である。子実収量は「大正金時」より多収であるが,中に分類される。
黄化病抵抗性は「北海金時」より弱く,「大正金時」とほぼ同じである。
黄斑モザイク病およびモザイク病抵抗性は弱く,炭そ病抵抗性は弱でともに「大正金時」
と同じである。
3)加工適性
アミログラム粘度は「大正金時」よりやや低く,原料豆の種皮重率は「大正金時」よりや
や低く,成分含有率はほぼ同じである。煮熟増加比および製あん歩留まりは同等で,煮熟豆は軟らかい。
また,加工製品の試作および食味試験では「十育B62号」はやや軟らかく,香りがやや弱かったが,ほぼ同様の製品で,評価では好まれる場合が多かった。
以上のことから,加工適性は総じて「大正金時」と同等と判断される。
6.試験成績
1)育成地における試験成績| 系統名 または 品種名 |
開花 期 (月日) |
成熟 期 (月日) |
倒 伏 程 度 |
葉 落 良 否 |
草 丈 (㎝) |
主 茎 節 数 |
分 枝 数 (本/株) |
莢 数 (本/株) |
一莢 内 粒数 |
子 実 重 (kg/10a) |
標準 対比 (%) |
百粒 重 (g) |
品 質 (等級) |
| 十育B62号 | 7.16 | 9.11 | 0.9 | 1.8 | 40 | 5.1 | 3.3 | 12.3 | 2.77 | 272 | 113 | 95 | 2下 |
| 大正金時 | 7.15 | 9.9 | 0.5 | 3.5 | 38 | 5.2 | 3.3 | 12.8 | 2.84 | 241 | 100 | 77.5 | 3上 |
| 北海金時 | 7.14 | 9.16 | 0.7 | 3.6 | 43 | 5.1 | 3.2 | 12.3 | 2.97 | 281 | 117 | 95.3 | 3中 |
2)普及見込み地帯における試験成績
①地域適応性検定試験成績
| 試験 場所 |
系統名 または 品種名 |
成熟 期 (月日) |
子実 重 （kg/ 10a) |
標準 対比 (%) |
百粒 重 (g) |
品 質 |
| 北見 農試 |
十育B62号 | 9.1 | 307 | 114 | 99.1 | 3上 |
| 大正金時 | 9.8 | 270 | 100 | 81.2 | 3上 | |
| 北海金時 | 9.17 | 343 | 127 | 98.8 | 3上 | |
| 上川 農試 |
十育B62号 | 8.31 | 265 | 148 | 77 | ２上 |
| 大正金時 | 8.3 | 179 | 100 | 63.5 | 2中 | |
| 北海金時 | 9.4 | 218 | 122 | 77.6 | 2中 | |
| 植物 遺伝 資源 セン ター |
十育B62号 | 8.17 | 169 | 109 | 71.6 | 2中 |
| 大正金時 | 8.16 | 156 | 100 | 63.9 | 2中 | |
| 北海金時 | 8.2 | 187 | 120 | 78.5 | 2上 |
②奨励品種決定現地調査等
| 試験 場所 |
系統名 または 品種名 |
成熟 期 (月日) |
子実 重 (kg/ 10a) |
標準 対比 (%) |
百粒 重 (g) |
品 質 |
| 十勝 中部 |
十育B62号 | 9.18 | 210 | 105 | 85.1 | 3中 |
| 大正金時 | 9.17 | 200 | 100 | 71.5 | 3下 | |
| 北海金時 | 9.22 | 228 | 114 | 82.9 | 3下 | |
| 十勝 山麓 |
十育B62号 | 9.15 | 196 | 114 | 87.6 | 3下 |
| 大正金時 | 9.14 | 168 | 100 | 72 | 4上 | |
| 北海金時 | 9.19 | 197 | 117 | 85 | 4上 | |
| 十勝 沿海 |
十育B62号 | 9.21 | 251 | 107 | 84.1 | 3中 |
| 大正金時 | 9.2 | 235 | 100 | 72.4 | 3下 | |
| 北海金時 | 9.24 | 269 | 114 | 85.5 | 4上 | |
| 網走 内陸 |
十育B62号 | 9.18 | 260 | 107 | 88 | 3中 |
| 大正金時 | 9.18 | 243 | 100 | 75 | 3下 | |
| 北海金時 | 9.2 | 309 | 127 | 87 | 3中 | |
| 道央 中部 |
十育B62号 | 9.15 | 318 | 107 | 91 | 4上 |
| 大正金時 | 9.13 | 298 | 100 | 76.9 | 3下 | |
| 北海金時 | 9.18 | 346 | 116 | 92 | 4上 |
7.配布しうる種苗量：1,050㎏
8.適地および普及見込み面積
北海道一円 3,000ha
9.栽培上の注意
1)草丈がやや高く倒伏等を招くことがあるので,多肥栽培を避ける。
2)大粒であるので,脱穀時の粒の損傷に注意する。
3)インゲン黄化病の防除を徹底するとともに圃場の雑草化したクローバの除去に努める。
4)その他の病害防除と肥培管理は,従来の品種に準じて行う。