新品種候補                  (平成11年1月)

1.課題の分類

2.新品種候補系統名 ペレニアルライグラス新品種候補「天北2号」
  (試験課題名)  (ペレニアルライグラス新品種育成試験)
           (ペレニアルライグラス系統の地域適応性および特性検定試験)

3.場所名(試験期間) 天北農試(平成4年〜)、滝川畜試(平成7〜10年)  

4.育成経過

  ペレニアルライグラス「天北2号」は道内の土壌凍結のない地域を対象に、収量性、越冬性および永続性 等の向上を目標に育成され、「ヤツガネ」、「フレンド」、「Tetraploid Haytype」、「Agresso」由来選抜個 体の多交配後代である5栄養系の組み合わせによる合成品種である。
  1972年より20品種・系統3,600個体を基礎集団とし、冬枯れ抵抗性について個体選抜(94個体)、さらにその栄養系から1977年に16栄養系を選抜した。16栄養系の多交配後代から1983年に116個体を選抜し、栄養系評価試験から1986年に40栄養系を選抜した。1986年に選抜40栄養系を隔離条件で放任採種し、1987年より後代検定および栄養系評価試験を開始し、1988年に「天北2号」の構成5栄養系を決定して合成1代種子を採種した。1989年より生産力検定、1995年より地域適応性検定試 験ならびに各種特性検定を実施した。

5.特性の概要(標準品種「フレンド」と比較)

  1)収量特性:3ヶ年(2〜4年目)合計乾物収量指数は105と勝り、4年目乾物収量指数は104と永続性はやや勝る。季節生産性(CGR指数)が春季において109と勝り、夏季および秋季はそれぞれ103とやや勝る(表1)。
  2)越冬特性:耐雪性、耐寒性は同程度、各種雪腐病耐病性は同程度からやや勝り、萌芽良否および早春の草勢は勝る。総合的な越冬性はやや勝る(表2)。
  3)生育特性:早晩性は晩生に位置づけられる(表2)。形態的特性(出穂期)については草丈は低く、稈長は短く、草型は中間型である(表3)。定着時および播種年の生育はやや緩慢であり、草丈、乾物率、越冬前草勢および越夏草勢は同程度である(表1,3)
  4)葉枯性病害耐病性:冠さび病、網斑病、斑点病、葉腐病の罹病程度は同程度である(表3)。
  5)放牧適性:放牧適性は同程度である(表3)。
  6)兼用利用適性:1番草(出穂期刈り)および2番草以降の多回利用での収量性、1番草刈取後の再生および基底被度からみて兼用利用適性は同程度である(表4)。
  7)混播適性:シロクローバとの混播条件下の合計乾物収量はやや勝る。シロクローバ率がより安定しており、混播適性は優れる(表4)。
  8)採種性:「フレンド」より劣り、「ファントム」と同程度からやや勝る(表4)。
  9)飼料成分:多回利用条件および兼用利用条件のいずれにおいても同程度の成分含有率である(表4)。
  10)蛍光反応:蛍光反応率は合成1代種子が12.2 %、合成2代種子が12.9 %である。
  11)倍数性:4倍体品種である。 
  12)系統内個体変異:既存の品種内個体変異の範囲内にある。
  13)総合評価:「フレンド」に比べ、収量性・永続性に優れ、越冬性はやや勝る。またペレニアルライグラスの特徴である旺盛な秋の生育を保持しつつ、春の生育が良好であり、春早い時期からの利用が可能となる。更に、優れた混播適性は飼料価値の向上に役立つものと考えられる。

 6.試験成績


表1 「天北2号」の収量性、永続性および季節生産性の対「フレンド」比(%)1)
品種・
系統名
3ケ年(2〜4年目)
合計乾物収量指数(%)
同左
4ケ年2)
3場平均の年次別
乾物収量指数(%)
4年目
秋の基底
被度
(3場平均%)
3場平均CGR
(指数%)3)
3場
平均
天北
農試
滝川
畜試

農試
3場
平均
1年目 2年目 3年目 4年目
天北2号 105 106 108 103 103 93 107a 104 104 91 109 103bc 103
ファントム 103 101 101 107 102 96 106 a 102 103 89 98 109a 105
トーブ 102 103 102 102 101 99 103ab 101 103 88 98 107ab 102
フレンド 205.3 170.6 212.7 232.6 262.8 57.5 71.6b 61.9 71.7 90 4.34 3.80c c3.01
cv(%) 2.6 3.5 4.1 3.1 2.1 3.3 3.0 3.6 2.6 1.6 2.9 2.7 4.0
1) 合計乾物収量および年次別乾物収量のフレンドのデータは実数(kg/a)で示した。
2) 1〜4年目合計乾物収量
3) CGRは個体群生長速度。「フレンド」は実数(10日kg/a)、3ケ年(2〜4年目)平均値を示した。

表2 「天北2号」の越冬関連形質および出穂時期
品種・
系統名
耐雪性検
定におけ
る枯死面
積率(%)
耐寒性検定にお
ける再生程度
(%)
雪腐黒色
小粒菌核
病罹病程
1)
雪腐褐色
小粒菌核
病罹病程

1)
紅色雪腐
病罹病程
1)
雪腐大粒
菌核病罹
病程度1)
4)



4)


4)



天北農試
(6月の日)
自然積
雪区2)
雪区3) 出穂始 出穂期
天北2号 67 90a 10 2.0c 2.2 3.1 4.1c 5.4a 5.3a 5.7a 4.7 b 20.1 b
ファントム 67 54 b 5 2.4ab 2.0 3.2 4.1c 5.2a 4.8b 5.0b 2.2c 17.4c
トーブ   70ab 7 2.5a 2.1 3.5 5.6a 3.7c 4.0c 4.8b   
フレンド 67 92a 8 2.1c 2.1 3.2 4.9b 4.5b 4.3bc 5.1b 9.1a 24.8a
cv(%) 0.9 24.4 107.3 9.9 4.8 8.2 7.7 6.7 6.4 4.9 2.1 1.0
1) 1:極微〜9:甚 2)土壌凍結深37cm 3)土壌凍結深51cm 4) 1:極不良〜9:極良
 

表3 「天北2号」の定着時草勢、出穂期の形態的特性、葉枯性病害耐病性および家畜の採食程度
品種・
系統名
定着時
草勢1)
出穂茎
草丈
(cm)
穂長
(cm)
稈長
(cm)
草型
2)
冠さび
3)
病程度
網斑病
3)
病程度
斑点病
3)
病程度
葉腐病
3)
病程度
葉枯性(総
合)3)病害
罹病程度
家畜の
採食程度4)
めん羊 肉用牛
天北2号 6.0 b 108 b 26a 82 b 4.5 1.6 2.1 1.9 b 2.0 2.0 b 71 63
ファントム 6.4b 102c 24 b 79 b 4.0 1.5 2.2 2.0a 1.5 2.0 b 63 61
トーブ 7.1a         1.6 2.1 1.9ab 1.5 2.3ab    
フレンド 7.0a 115a 27a 89a 5.0 1.8 2.3 2.0a 2.0 2.8a 68 59
cv(%) 3.7 2.8 2.8 4.1   12.3 6.3 2.9 50.4 14.8 8.3 8.4
1) 1:極不良〜9:極良  2) 1:直立〜9:ほふく  3) 1:極微〜9:甚 4) %

表4 「天北2号」の兼用利用適性、混播適性、採種性および乾物消化率(IVDMD %) 
品種・
系統名
兼用利用条件
下乾物収量1)
wc混播条件
下の2)3ケ
年合計
乾物収量
wc率3)
(乾物
中%)
wc率
3)
標準
偏差
wc率
3)
変動係
数(%)
精選種子収量
(天北農試、kg/a)
IVDMD(%)
1番草 2番草
以降
1997年 1998年 多回刈
全平均
兼用利用
1番草
天北2号 98a 102 b 104 32 15.7 50.4 1.99 4.19 b 79.3 72.3
ファントム 83 b 113a 100 27 15.2 57.1 2.30 2.65c 79.3 73.5
フレンド 120.3a 65.1 b 151.3 29 16.7 59.0 3.05 6.05a 79.6 67.6
cv(%) 7.2 1.9 3.6 17.1 8.3   36.8 4.7 1.0  
1) 2ケ年(2〜3年目)の合計値の対「フレンド」比%、「フレンド」は実測値(kg/a)
2) 3ケ年(1〜3年目)の合計値の対「フレンド」比%、「フレンド」は実測値(kg/a) 3) 3ケ年(1〜3年目)の平均値

 7.種子の供給計画 
  育種家種子 平成10年 15kg、平成11年 15kg(予定)
 

 8.普及対象地域および栽培利用上の留意点
  道北、道央および道南
  土壌凍結地帯での栽培をさける。
  利用目的は放牧利用とするが、1番草は採草できる。