成績概要書                        (平成12年1月)
1.課題の分類 分類番号 整理番号
2.場所名 北海道立北見農業試験場、ホクレン農業総合研究所
3.系統名 たまねぎ新品種候補「北見交27号」

4.育成経過
 「北見交27号」はホクレン農業総合研究所との共同研究において、球肥大が良好で辛みが少なく良食味であり、かつ貯蔵性の高い品種を目標に育成された。「北見交27号」は、ホクレン農総研がアドバンタ社(前ファンデルハーベ社)から導入した細胞質雄性不稔系統「AOPFA」を種子親とし、北見農業試験場が「北見黄」から育成した花粉親系統「81S」を交配して得られた、単交配一代雑種である。平成5年に最初のF1交配を行い、平成6年から「PRCX02」の系統名で、北見農試とホクレン農総研において、生産力検定予備試験を2ヵ年実施した。平成8年から4ヵ年、両場所において生産力検定試験を、また、花・野菜技術センターと北海道農業試験場(平成9年開始)で、地域適応性検定試験を実施した。平成9、10年には、北見市、留辺蘂町、富良野市、岩見沢市、札幌市、士別市において、現地試験を実施した。この間、北見農試とホクレン農総研において、病害抵抗性検定を実施した。また、北見農試、ホクレン農総研、札幌市農業指導センター、武蔵丘短期大学において、内部成分分析と食味試験を実施した。さらに、平成11年に、府県市場、量販店、加工業者、料理専門家、一般主婦にモニター調査を実施した。

5.特性の概要(標準品種「ツキサップ」、対照品種「トヨヒラ」、参考品種「ウルフ」との比較)
[長所]:辛味が少なく、生サラダやソテーの食味評価は高い。貯蔵性もあり、良食味たまねぎとして長期安定供給が可能である。
[短所]:草姿はやや開張し、乾腐病等の病害発生がやや多い。
1)種子特性および苗生育 種子千粒重は4.76gで「ツキサップ」よりやや重い。発芽勢はやや劣るが発芽率は同等である。苗の葉数、草丈は「ツキサップ」、「トヨヒラ」とほぼ同等であるが葉鞘径は太い。
2)葉部生育 7月の葉部生育盛期における葉数は「ウルフ」とほぼ同等である。草丈は「トヨヒラ」、「ウルフ」と同等で、「ツキサップ」より高い。草姿はこれら3品種より開張する。葉色は「ツキサップ」とほぼ同様で中位である。葉折れは「ウルフ」程度でやや多く、葉先枯れは「ツキサップ」同様で、やや多い。
3)早晩性 倒伏期は「ツキサップ」、「トヨヒラ」と同程度で、「ウルフ」よりやや遅い。
4)耐病虫性 乾腐病に対してはこれら3品種より抵抗性が低い。灰色腐敗病などボトリチス属菌による病害と「肌腐れ症状」も多い傾向である。虫害はやや多い傾向である。
5)耐抽台性 「ツキサップ」、「トヨヒラ」と同等である。
6)収量性 平均一球重は「ツキサップ」よりやや優り、「トヨヒラ」並である。規格内率は「ツキサップ」並で、「トヨヒラ」よりやや優る。規格内収量は「ウルフ」より劣るが、「ツキサップ」、「トヨヒラ」と同等からやや優る。
7)球品質および食味 りん葉は厚く、球の硬さは「ツキサップ」、「トヨヒラ」と同等か、やや軟らかい。辛さの指標となるピルビン酸生成量は低く、貯蔵中の増加も少ない傾向である。生サラダ、ソテーの食味評価は一般の春播き品種に比較して高い。外皮色の濃さは「ウルフ」より劣るが、「トヨヒラ」並である。
8)貯蔵性  貯蔵後健全率は「ツキサップ」、「トヨヒラ」より劣るが、「ウルフ」より優る。貯蔵後の皮むけ程度は「トヨヒラ」に優る。

6.試験成績概要
表1 生産力検定試験および地域適応性検定試験における成績(平成8〜11年)
品種及び系統 倒伏期
(月日)
乾腐病率
(%)
その他の
腐敗球率(%)
規格内
球重
(kg/a)
同左比
(%)
一球重
(g)
規格
内率
(%)
貯蔵後
健全率
(%)
北見交27号 8.9 2.0 6.2 529 104 207 88 50.3
ツキサップ 8.10 0.9 4.5 509 100 200 86 62.5
トヨヒラ 8.8 1.3 3.8 512 101 207 84 59.7
ウルフ 8.6 1.3 2.4 617 121 223 91 13.5

注)北見農試、ホクレン農総研、北農試、花・野菜技術センター、北見市、留辺蘂町、富良野市、
岩見沢市、札幌市の成績から、それぞれの場所で供試品種の欠けていない全事例(n=20)の平均。

表2 収穫時と貯蔵6カ月後の内部品質      (平成10年、ホクレン農総研)
品種・系統 調査時 固形分
(%)
Brix
(%)
全糖含量
(%)
ピルビン酸生成量
(μmol/g)
球硬度
(kg)
りん葉
厚さ(mm)
北見交27号 収穫時 10.5 9.3 5.84 5.5 2.14 5.1
6ヵ月 9.4 8.7 6.61 7.9 2.40 4.8
スーパー北もみじ 収穫時 10.7 9.2 5.76 8.8 2.31 4.9
6ヵ月 9.8 8.7 6.41 10.5 2.48 4.5
トヨヒラ 収穫時 10.6 10.2 5.90 6.8 2.23 4.2
6ヵ月 10.7 8.7 7.01 10.3 2.34 4.0
蘭太郎 収穫時 10.3 9.0 5.82 6.2 2.29 4.2
6ヵ月 11.1 9.6 6.48 8.3 2.36 4.3
注)試料:ホクレン農総研産、球硬度:果実硬度計による。


図1 消費者へのアンケート(平成11年、ホクレン農総研)
注)パネラー:コープこうべ組合員約50名。調査法:「スーパー北もみじ」を「3」とした5段階相対評価。調理評価で食味は甘み・辛み等、食感は歯ざわり、その他は変色・へたり等を示す。調理法は任意とした(炒め物(野菜炒め等)、スライス(水さらし、塩もみ)、みそ汁、スープ、卵とじ、肉じゃが、シチュー、オムレツ、オムライス、すき焼き、鉄板焼き、チャーハン、トマトソース、豚汁、酢豚、グラタン、シュウマイ、ポトフ)。各項目について、好ましい方を外側方向に表示した。

表3 乾腐病接種検定における発病株率(%)と薬剤防除効果
品種・系統\年次 9 10 平均
北もみじ 1.3(1.3) 9.4(3.8) 5.4(2.6)
レオ 3.1(4.4) 9.6(1.3) 6.4(2.9)
月輪 6.9(4.4) 27.7(6.9) 17.3(5.7)
北見交27号 7.5(5.6) 27.8(3.9) 17.7(4.8)
北見交27号(防除) 4.4 2.8 3.6
注)平成9、10年、北見農試実施。検定方法は
清水・中野(1995)に準ずる。供試菌株(nFk−900)。
4反復平均。基準品種:「北もみじ」(抵抗性強)、
「レオ」、「月輪」(弱)。( )内数値は胞子懸濁液
無接種の同一汚染圃場の発病株率。「北見交27号」(防除)
:平成9年はベノミル水和剤20倍液に定植前3分苗浸漬、
10年はフルアジナム水和剤50倍液に定植前5分苗浸漬処理による。

7.普及対象地域および普及見込み面積
 普及対象地域   全道のたまねぎ栽培地域
 普及見込み面積  500ha

8.保有種子量
 1)「北見交27号」種子:450g
 2)「AOPFA」種子:アドバンタ社から十分量の供給がある。
 3)「81S」種子:174g

 4)平成12年度F採種用母球数
   種子親「AOPFA」:20,000球、花粉親「81S」:6,000球

9.栽培上の留意点
 1)乾腐病多発圃場での栽培は避ける。ボトリチス属菌による病害、「肌腐れ」症状等による腐敗球についても、年次、場所により多発する事例が認められるので、これらに対する適切な防除の実施に留意する。
 2)地温30℃を超えると発芽率が劣るので、播種後の温度管理に留意する。