水稲新品種候補系統
          「上育438号」の特性概要
                                                       北海道立上川農業試験場
                                                         水稲育種指定試験地
1.特性一覧表

系 統 名 上育438号 交配組合せ 空育151号/上育418号
特  性 長所
1.冷凍ピラフに適する 2.多収である

3.耐冷性が強い
4.いもち病抵抗性が強い
短所
1.玄米等級が劣る
2.登熟日数が長い
3.炊飯米として食味が劣る
採用予定県および
 普及予定面積
北海道 1,200 ha
調査地 上川農業試験場(比布町) 中央農業試験場(岩見沢市)
調査年次  平成11年〜平成14年(中苗標肥)  平成11年〜平成14年(中苗標肥)
系統・品種名・形 質
上育438号
対照品種
あきほ
比較品種
きらら397

上育438号
対照品種
あきほ
比較品種
きらら397
出穂期の早晩性
成熟期の早晩性
草型
早生の中
中生の早
偏穂数
中生の早
早生の晩
穂数
中生の早
中生の早
穂数
早生の中
中生の早
偏穂数
中生の早
早生の晩
穂数
中生の早
中生の中
穂数
出穂期(月・日)
成熟期(月・日)
登熟日数(日)
7.24
9.13
51
7.25
9.10
47
7.27
9.14
49
7.28
9.17
51
7.31
9.15
46
8. 3
9.19
47
稈長(cm)
穂長(cm)
穂数(本/㎡)
一穂籾数
割籾歩合(%)
71
16.5
698
49.5
22.0
65
16.8
749
44.1
26.6
65
16.6
765
45.1
34.4
66
16.5
579
58.1
8.4
66
16.8
661
50.3
6.1
64
16.6
677
54.7
16.2
芒の多少・長短
ふ先色
脱粒性
稀短
黄白
稀短
黄白
稀短
黄白
     
耐倒伏性
障害型耐冷性
いもち病真性
 抵抗性遺伝子型
葉いもち耐病性
穂いもち耐病性
中〜やや強
極強
Pia,Pii,Pik


やや強


Pia,Pii,Pik

やや弱
中〜やや強
やや強
Pii,Pik

やや弱
     
玄米重(kg/a)
玄米重標準比(%)
玄米千粒重(g)
玄米等級
65.1
116
24.5
2中下
56.3
100
21.9
1中
60.1
107
22.5
1中下
59.4
115
24.7
2下
51.7
100
22.0
2中
53.2
103
22.8
2中上
アミロース含有率(%)
蛋白質含有率(%)
食味
用途
20.5
6.8
中中
冷凍ピラフ等
20.2
7.1
中上
加工用等
20.0
7.1
中上
米飯等
20.5
8.0


19.9
7.8


19.6
7.8


注1)品種育成時の種苗特性分類の出穂期は、「きらら397」早生の晩、「あきほ」中生の早、成熟期は「あきほ」「きらら397」は中生の早である。
  2)出穂期、成熟期の早晩生は、現地試験のデ−タを含めて考慮した。

2..特記すべき特徴
 「上育438号」は出穂期が早生の中と早いが、登熟日数が長いため成熟期は中生の早になる。耐冷性が極強と強く、いもち病抵抗性も強い多収系統である。炊飯米の粘りが少ないため冷凍ピラフ等の加工適性に優れる。

3.奨励品種に採用しようとする理由
 近年、外食や調理済み米飯の利用が増加している。その中で、冷凍ピラフは一般家庭や外食産業に利用されているため、需要が伸びており、その原料となる加工用米が実需者から強く求められている。「あきほ」は加工適性に優れる北海道米として実需者の要望が強い品種であるが、収量が「きらら397」より下回る傾向にある。そのため、最近3カ年の作付面積は平成12年6,042ha、13年4,335ha、14年3,054haと減少しており、現在は実需者の要望に十分には応じられない状況である。
 「上育438号」は、「きらら397」に比べ炊飯米の粘りが少ないため白飯の食味は劣るもののピラフ等の加工適性は「あきほ」に優れる。出穂期は「あきほ」「きらら397」より早い早生であり、成熟期は平年では「あきほ」より遅く「きらら397」に近い中生であるが、冷害年では「あきほ」に及ばないものの「きらら397」より早くなる。耐冷性は極強と強く、いもち病抵抗性も強く栽培しやすい。収量性が高く、平年で「きらら397」より1割以上の多収となる。冷害年においては耐冷性が「あきほ」「きらら397」より強いため不稔が出にくく、また出穂期・成熟期が早いため遅延型の冷害にも強く平年より基幹品種との収量差が拡大し多収となる。
 以上のことから、本系統を「あきほ」の一部に替えて作付けすることにより、北海道産米の需要拡大につながるとともに安定生産を図ることができる。 

4.普及見込み地帯
 1) 栽培地帯適地  上川(風連以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、日高、胆振、渡島および檜山各支庁管内
 2) 対照品種     「あきほ」
5.普及見込み面積  北海道  1,200ha
6.栽培上の注意
 1) 出穂期が早生で早期異常出穂や苗が徒長する恐れがあるので、成苗移植では育苗時の適正な管理に努める。
 2) 初期の分げつ性がやや劣り、穂数確保が難しいので植付け株数は機械移植基準を守る。
 3) 刈り遅れによる品質低下が懸念されるので適期刈り取りを励行する。


図  「上育438号」の作付地帯ならびに収量比率