成績概要書(2003年1月作成)
1. 課題の分類 分類番号   整理番号  
2. 場所名                  北海道立 花・野菜技術センター  北海道立中央農業試験場
3.系統名       花ゆり新品種候補「Li-9」
             (細胞・組織培養による花ユリ育種素材の作出試験)
             (花ユリ育種法の開発と育種素材の作出)
             (花ユリの新品種育成試験)(道産ブランド花き品種の育成)

4. 来歴および育成経過
 北海道立中央農業試験場で小輪品種の育成を目標とし、種子親は花色や草姿の優れたアジアティック系品種「モナ」、花粉親を小輪性の野生種「チョウセンヒメユリ(Lilium concolor ver.pulchellum)」として平成6年に交配して育成された。この交配組合せは通常の交配では種子の獲得が困難であることから、花柱切断受粉法による交配と胚培養技術を用いて雑種を獲得した。46個の胚を培養し、生育した16個体を平成8年から北海道立花・野菜技術センターにおいて養成し、圃場での個体調査を実施した。平成11年に花色・花形に優れ、小輪性や収量に優良性が認められた1個体を選抜して球根の増殖を行い、平成13年から「Li−9」の系統名を付して生産力検定試験を実施した。また、生産力検定試験圃場において求評会を実施し、外部評価を行った。

5. 特性の概要(標準品種「モナ」 対照品種「チョウセンヒメユリ」)
 長所:コンパクトなゆりへのニーズに応える小輪性を有し、花形・葉形や花房などの草姿の形状も良い。切花の収量性が高く、「チョウセンヒメユリ」に比べて栽培も容易であり、球根の生産効率も優れる。
 短所:アジアティック系品種としては葉枯病がやや発生しやすく、小さい球根(球周12cm未満)を用いると切花の規格外率が高くなる。
 (1)生育特性
  ①早晩性:冷凍貯蔵球を用いた5月定植栽培での到花日数は約65日であり、アジアティック系品種「モナ」より約3日早く、野生種「チョウセンヒメユリ」より約8日遅い。
  ②草姿等:草丈は「モナ」や「チョウセンヒメユリ」より短いが、小輪咲きとしては十分な長さである。葉枯病の発生は「チョウセンヒメユリ」より軽微であるが「モナ」よりやや多い。
 (2)切花特性
  ①花容:花弁色は鮮橙色で花弁基部に微小な暗灰赤色の斑点を有する。花形はすかしゆり型で花径は85〜96mmの小輪咲きである。「チョウセンヒメユリ」よりやや大きいが、「モナ」より明らかに小さい。「チョウセンヒメユリ」のような不快臭はほとんどない。
  ②花房:花房の形は総状で第1花梗の向きは垂直より約40度、長さは4.2〜4.7cmである。花向きは垂直より約10度で、箱詰めにも適した花房形状である。球周12〜14cm球での平均的な花蕾数は3.0〜4.6個で、「モナ」や「チョウセンヒメユリ」より少ない。
  ③茎葉:草丈は78〜81cmで「モナ」や「チョウセンヒメユリ」より短いが、茎長は「モナ」より長く、花房と茎長のバランスが良い。葉形は披針形で弱い光沢を有する。
 (3)収量性(採花本数)
  多芽性を有し、1球の球根から約4本の花茎が伸長するため、床面積1aあたり(4444球)の規格内(花蕾数3個以上)採花本数は、球周10〜12cm球で8709本、同12〜14cm球で14302本、 同14〜16cm球では14959本となり、「モナ」(4221本)や「チョウセンヒメユリ」(2222本)を大幅に上回る。球周10〜12cm球は花蕾数3〜4個の花茎が多く規格外率も高くなるため収量性はやや劣る。
 (4))日持ち性
  室温20℃・16時間日長・湿度80%条件下での1花蕾の観賞日数は4.6日で「モナ」よりやや短いが、花蕾数5個の花茎の観賞日数は10.7日で、「モナ」と同程度である。
 (5)増殖性
  りん片1枚から2.0〜2.5個の子球を形成し「チョウセンヒメユリ」より増殖性が高い。平均 一年球重は「チョウセンヒメユリ」よりやや小さいが、養成栽培後の二年球の肥大倍率が高く、平均重・平均球周とも「チョウセンヒメユリ」や主なアジアティック系品種を上回る。分球性が強く、切花栽培用の二年養成球は多芽球となる。切花栽培に実用的な大球の占有率は79.3%である。
 (6)外部評価
  花形の小輪性や花房・草姿のコンパクト性についての評価が高く、新品種として十分な評価が得られた。ホームユースなど利用場面の拡大が期待され、早期普及が求められた。

6. 試験成績概要
 第1表 冷凍貯蔵球利用5月定植作型での主要成績
系統名
品種名
種名
試験
年次
(平成)
供試
球数
定植期

(月日)
到花
日数
(日)
草丈

(cm)
茎長

(cm)
花径

(mm)
花蕾数

(個/本)
花梗長

(cm)
葉幅

(mm)
葉長

(cm)
花茎数

(本/球)
葉枯
発生
*1
Li−9 13 10 5月17日 64 77.6 61.6 96 3 4.2 10.4 9 3.9
14 50 5月21日 66 81.4 66 85 4.6 4.7 11.7 6.5 4
モナ 13 15 5月17日 67 84.5 58.8 164 5.5 7.3 14.5 10 1
14 20 5月21日 69 86.5 63 162 6.3 7.5 15 10.8 1
チョウセンヒメユリ 13 10 5月17日 57 97 80.3 75 6.7 5.2 10.3 9.2 1
14 30 5月21日 57 122.6 95.5 77 10 5.1 8.6 11.7 1
  供試球根の球周は12cm以上14cm未満 *1 葉枯発生:無-微-少-中-多(観察による評価)

 第2表 単位面積あたり採花本数の試算(平成14年)
系統名
品種・種名
球周*1
(cm)
採花本数
(本/a)*2
規格別採花本数 (本/a)
規格内*3 規格外
Li−9 14-16 17455 14959 (11224) 2496
12月14日 17420 14302 (5017) 3118
10月12日 17418 8709 (2351) 8709
モナ 12月14日 4221 4221 (3778) 0
チョウセンヒメユリ 12月14日 2222 2222 (1926) 0

 第3表 外部評価(アンケート)の結果
評価項目 平成13年 14年
花色・花形 良い 66.70% 78.60%
悪い 0 7.1
草姿 良い 58.3 78.6
悪い 4.2 0
新奇性 高い 58.3 50
低い 0 0
総合評価 良い 54.2 50
悪い 4.2 7.1

 第4表 日持ち性試験の結果
系統・品種名 Li-9 モナ
供試本数 9 2
1花蕾観賞日数 4.6 5.4
5花蕾開花日数 5.8 5.5
5花蕾観賞日数 10.7 11















   試験年次:平成14年 写真(左から)「モナ」「Li-9」「チョウセンヒメユリ」の花形と 「Li-9」の草姿

 第5表 りん片挿しによる増殖・養成試験の結果
系統名
種名
品種名
花色 一年増殖養成試験 二年養成試験(平成13-14年)
試験
年次
(平成)
りん片
平均重
(g)
一年球
平均数
(球/片)
一年球
平均重
(g)
平均球重 肥大 平均*1
球周
(cm)
大球*2
占有率
(%)
定植時
(g)
養成後
(g)
Li−9 橙系 12月13日 1.5 2.5 1.8 2.7 33.3 12.3 13.7 79.3
13-14 0.7 2 3
チョウセンヒメユリ 橙系 12月13日 1.4 1.3 3.6 3.8 23.3 6.1 12.1 46.4
プラトー 橙系 12月13日 1.4 1.8 2.7 2.7 21.3 7.9 -10.8 31
ベアトリクス 橙系 12月13日 1 1.7 3.8 3.8 15.3 4 -10.6 10.6
アラスカ 白系 12月13日 1.6 0.9 3.5 3.5 17.1 4.9 -9.7 20.5
ビバルディ 桃系 12月13日 2.7 1.2 3.5 3.5 15.3 4.4 -11.1 9.5
  *1 平均球周:( )内は球周6cm未満の小球を除いた数値. *2 大球:球周12cm以上球.

7. 普及対象地域および普及見込み面積
普及対象地域:全道一円(施設栽培)     普及見込み面積:0.8ha

8. 保有種球(平成14年12月現在)
   球根:150球(球周12-16cm:約4500g)    一年球:400球(球周12cm未満:約3000g)
   増殖用りん片:約2000枚(1228g)        茎頂培養球(in vitro):約150球

9. 栽培上の留意点
 (1)凍結貯蔵球利用5月定植作型での成績であり、長期抑制および促成作型は未検討である。
 (2)アジアティック系品種としては葉枯病がやや発生しやすく、発生動向に注意し適切に防除する。