成績概要書(2004年1月作成)                      
1.課題の分類 分類番号    整理番号  
2.場所名  北海道立 花・野菜技術センター  北海道立中央農業試験場
3.系統名  花ゆり新品種候補「Li−19」 
       (花ユリの新品種育成試験)(道産ブランド花き品種の育成)
4.来歴および育成経過
 北海道立中央農業試験場で平成10年に上向きで草姿の優れたシンテッポウユリ「ホワイトランサー」を種子親として、花蕾が小さく生育の早い野生種チョウセンヒメユリLilium concolor ver.pulchellumを花粉親として交配・育成された。この交配組合せは種子の獲得が困難であることから、花柱切断受粉法による交配と胚珠-胚培養技術を用いて雑種を獲得した。30花に交配し、肥大した子房から697個の胚珠を摘出して培養したところ300個が発芽し、残りの胚珠から201個の胚を摘出して培養した結果、さらに39個が発芽した。その後、正常に生育し鉢上げに至った181個体を圃場に定植し個体調査を実施した。平成12年に花色・花形や草姿に優れた3個体を選抜し、北海道立 花・野菜技術センターで球根の増殖を行った。球根の生産性が高かった1系統を、平成14年から「Li−19」の系統名を付して生産力検定試験を実施した。また、生産力検定試験圃場において求評会を実施し、外部のゆり関係者による評価を行った。

5.特性の概要(標準品種「ロイヤルトリニティー」 比較品種1「チョウセンヒメユリ」 比較品種2「Li−9」)
 長所:花形と草姿はシンテッポウユリの形態を持ちながら、斑点のない鮮やかな花色と小輪性を有し、生育も旺盛である。小球根での開花性や切花特性に優れるため、一年球の多くを切花生産に利用でき、球根生産の省力・効率化と切花生産での種苗費の低減が可能である。
 短所:球周12cm以上の球根では多輪咲きで草姿のバランスが悪い。葉枯病がやや発生しやすい。
(1) 生育特性
①早晩性:冷凍貯蔵球を用いた5月定植栽培での到花日数は約64日であり、「ロイヤルトリニティー」や「Li−9」と同等で、「チョウセンヒメユリ」より長い。
②草姿等:草丈は「ロイヤルトリニティー」や「チョウセンヒメユリ」と同等である。葉枯病の発生が認められ、「ロイヤルトリニティー」より発生しやすく「Li−9」と同等である。
(2) 切花特性
①花容:花弁色は「Li−9」より透明感のある明るい鮮橙色で斑点はない。花形は「Li−9」のスカシユリ型に対しテッポウユリとスカシユリの中間型で、花径は小輪の「Li−9」よりやや大きいが「ロイヤルトリニティー」より明らかに小さい。花粉は赤橙色で香りはない。
②花房:花蕾数は球周12〜14cm未満の球根で8.9個(成績省略)、同10〜12cmで7.3〜8.4個、同8〜10cmでも4.6〜7.0個(成績省略)と小球開花性が非常に高く、多輪性の「チョウセンヒメユリ」より少ないが「ロイヤルトリニティー」より明らかに多い。花房の形は総状で花梗の長さはやや長いが、花梗と花の向きは上向きのためコンパクトで箱詰めしやすい形状である。
③茎葉:花房と茎長のバランスは球周8〜12cm球では良好であるが、12〜14cm球では多輪となりやや悪い。止葉下節間長がやや長く、葉は長楕円形で着生角度は垂直より約70度である。
(3) 日持ち性(成績省略)
  20℃・16時間日長・湿度80%での1花蕾の観賞日数は5.4日、花蕾数5個の花茎の観賞日数 は10.2日で、「ロイヤルトリニティー」よりやや短いが実用的な日持ち性は有すると思われる。
(4) 増殖性
  りん片挿しでは1.4gのりん片1枚から1.5個の子球を形成し、増殖性はLA系品種やアジアティック系品種とほぼ同等である。特に一年球に占める5g以上(球周約8cm以上)の球根の割合は66.6%と高く、球根肥大性にも優れる。さらに小球開花性が高いため、多くの一年球を切花栽培用として利用することが可能である。

6.求評会における評価
  生産力検定試験圃場での求評会において、外部のゆり関係者ら(生産者・市場・小売り・種 苗販売・農協・市町村農業センター等)にアンケートによる評価や意見を聴取したところ、花 色についての評価が特に高く、花形や花の大きさ、新奇性などでも良い評価が得られた。特に 球周12cm未満の小球根での十分な花蕾数と切花のボリューム、花房の形状が良くコンパクトで 箱詰めしやすいことなどの意見があげられ、現地での試作や早期普及などが要望された。

7.試験成績概要
表1 冷凍貯蔵球利用5月定植作型での成績
系統名
品種名
試験
年次
(平成)
供試

球数
定植期

(月日)
到花日数

(日)
草丈

(cm)
茎長

(cm)
止葉下節間長
(cm)
花径

(mm)
花蕾数

(個/本)
花梗長

(cm)
葉幅

(mm)
葉長

(cm)
採花本数

*1
葉枯

*2
Li-19 14 5 5月21日 64 102.0 73.6 9.9 103 8.4 8.8 12.2 9.5 4444
15 20 5月29日 64 105.1 76.2 9.0 94 7.3 8.5 12.3 8.9 4444
ロイヤル
トリニティー
14 30 5月21日 65 103.8 85.4 6.8 167 5.0 5.6 18.9 11.9 4444
15 30 5月29日 62 103.8 82.9 6.6 164 5.0 5.0 16.0 10.4 4444
チョウセン
ヒメユリ
14 30 5月21日 57 122.6 95.5 6.7 77 10 5.6 8.6 11.7 2222
15 20 5月29日 53 93.9 72.0 5.3 75 19.2 4.9 6.6 6.6 2111
Li-9 14 50 5月21日 66 81.4 66.0 4.9 85 4.6 4.7 11.7 6.5 17420
 供試球根の球周はLi-19が10cm〜12cm未満、他は12cm〜14cm未満.
 *1 採花本数:花茎数と障害株等の発生率から算出(単位:本/a).
 *2 葉枯:観察による葉枯病の発生程度(無-微-少-中-多).
 
表2 一年増殖養成試験の結果
分類
 *1
系統名
品種名
花色 試験年次
    *2
りん片平均重
(g)
一年球
球数
*3
平均重
(g)
占有率
≧5g
12 13 14
La Li−19 1.4 1.5 8.7 66.6
LA ロイヤルトリニティー     2 1.7 4.2 24.2
LA テュランドット   2.1 0.7 13.6 78.7
チョウセンヒメユリ   1.2 0.9 4.6 30.4
Aa Li−9 1.1 1.9 2 7.6
*1 分類:La(テッポウユリ系品種×小輪性野生種)  a(小輪性野生種)
     LA(テッポウユリ系品種×アジアティック系品種)
     Aa(アジアティック系品種×小輪性野生種)
*2 試験年次:りん片挿し年次. ○印の年次データを平均した. 
*3 球数:りん片1枚あたり収穫球数



写真 Li−19の草姿と花容

表3 アンケートによるLi−19の評価
評価項目 平成14年(n=14) 平成15年(n=25)
良い
*1
悪い どちらとも
いえない
良い
*1
悪い どちらとも
いえない
花色 78.6 0.0 21.4 (84.0) 4.0 12.0
花形 (72.0) 4.0 24.0
花の大きさ (76.0) 4.0 20.0
全体の草姿 71.4 0.0 28.6 (52.0) 8.0 40.0
新奇性 71.4 0.0 28.6 (68.0) 12.0 20.0
使いやすさ 85.7 0.0 14.3 (56.0) 4.0 40.0
総合評価 (85.7) 0.0 14.3
  単位:%    *1 ( )内は 「特に良い」を含む数値.  

8.普及対象地域および普及見込み面積
 普及対象地域:全道一円(施設栽培)    普及見込み面積:0.9 ha

9.配布しうる種苗量
 球根(切花栽培用):200 球         組織培養球(増殖用):50 球

10.栽培上の留意点
(1) 凍結貯蔵球利用5月定植作型での成績であり、長期抑制および促成作型は未検討である。
(2) 多輪性が強いため大球の使用は避け、球周8〜10cm(平均花蕾数5〜7個)または10〜12cm(同7〜8個)の小球根を使用する。また、球根生産では球周8〜12cmの一年球を出荷し、8cm未満の極小球のみ2年養成を行う。
(3) 葉枯病がやや発生しやすいので、発生動向に注意し、アジアティック系品種に準じた適切な防除を行う。