新品種候補(作成 平成17年2月)
作物>夏作物>22>1-2-085-1
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育種事業課題名:ばれいしょ新品種候補系統「北育1号」の概要
担当研究室:北海道立北見農業試験場・作物研究部・馬鈴しょ科
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キーワード:ジャガイモ、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性、早生白肉、サラダ適性
1.特性一覧表
系統名 ばれいしょ「北育1号」 組合せ Pentland Dell × とうや
特性 長所 1.ジャガイモシストセンチュウ抵抗性である。
        2.早生白肉で「男爵薯」より収量が多い。
        3.「男爵薯」より中心空洞、打撲黒変の発生が少ない。
        4.調理品質が優れサラダ適性がある。
    短所 1.上いも平均一個重がやや小さい。
採用県及び普及見込み面積 北海道 1,000ha

調査地 北見農試 十勝農試
調査年次 平成11,12,14,15年 平成12,14年 平成11,12,14,15年 平成12,14,15年
品種・項目 系統名 北育1号 男爵薯
(対照)
北育1号 さやか
(比較)
北育1号 男爵薯
(対照)
北育1号 さやか
(比較)
早晩性 早生 早生 早生 中生        
枯凋期 (月日) 9/5 8/30 9/9 9/27 8/27 8/24 8/26 9/8
終花期の 茎長(cm) 51 34 50 54 59 42 59 58
株当たり上いも数(個/株) 12 9.5 13 9.6 12.5 10.1 12.5 7.7
上いも重(kg/10a) 4,750 3,700 4,819 5,119 4,421 3,508 4,492 3,706
対標準比(%) 128 100 94 100 126 100 121 100
中以上いも重(kg/a) 4,008 3,099 4,001 4,875 3,632 2,938 3,717 3,496
対標準比(%) 129 100 82 100 124 100 106 100
上いも平均一個重(g) 86 84 84 116 80 80 81 110
でん粉価(%) 16.3 16.2 16 16.4 15 14.7 15 14.9
品種・系統名 北育1号 男爵薯
(対照)
さやか
(比較)
調査地 全試験箇所平均(北見農試を除く)
調査年次 平成11,12,14,15年 平成12,14,15年
塊茎の特性       品種・系統名 北育1号 男爵薯
(対照)
北育1号 さやか
(比較)
 形 扁球
 皮色 白黄 白黄 枯凋期(月日) 8/28 8/24 8/23 8/31
 肉色 終花期の茎長(cm) 57 42 51 53
 目の深さ やや浅
 休眠期間 やや長 やや長 やや長 株当たり上いも数
(個/株)
11.9 10.1 13.1 9.2
 褐色心腐の多少*
 打撲黒変耐性
 中心空洞の多少* 上いも重(kg/10a) 4,522 4,038 4,857 4,623
 二次生長の多少*
調理特性*       対標準比(%) 112 100 105 100
 煮崩れ 中以上いも重(kg/10a) 3,710 3,416 3,958 4,200
 剥皮褐変
 調理後黒変 対標準比(%) 108 100 94 100
 肉質 やや粘 やや粉 上いも平均一個重(g) 85 90 83 113
 舌ざわり やや粗
 食味** 中上 中上 でん粉価(%) 15 14.7 14.8 14.2
チップ・フライの褐変程度 *   各農試の試験結果による。
**  全体を総合して判定
*** 特性検定試験の成績による。
****粉状そうか病抵抗性は特性検定の結果を
   種苗特性分類調査報告の階級に換算した評価
 サラダ適性
病虫害抵抗性***      
 ジャガイモシストセンチュウ 強(H1) 弱(h) 強(H1)
  疫病抵抗性推定遺伝子型 R2 r R1R3
 塊茎腐敗 やや強
 Yモザイク病
 そうか病
粉状そうか病****

2.ばれいしょ「北育1号」の特記すべき特徴
 ばれいしょ「北育1号」は、早生の生食用系統である。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ。熟期は「男爵薯」より5日程度遅く、収量は「男爵薯」より多い。塊茎の形は扁球で、肉色は白である。中心空洞および打撲黒変発生は「男爵薯」より少ない。水煮後の肉質はやや粘質で、煮崩れ、調理後黒変は「男爵薯」より少ない。サラダ適性を有する。

3.優良品種に採用しようとする理由
 近年、ばれいしょの重要病害虫であるジャガイモシストセンチュウの発生が拡大しており、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種の必要性が改めてクローズアップされているが、生食用ばれいしょの主力品種である「男爵薯」は抵抗性を持たない。そのため、「男爵薯」のかわりとなる早生白肉で、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ品種が求められている。
 これまで、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の生食用ばれいしょとしていくつかの品種が育成されてきたが、未だに早生白肉の抵抗性品種は育成されていない。昭和62年に育成された「キタアカリ」および平成4年に育成された「とうや」は早生ではあるが黄肉であるため、白肉である「男爵薯」が多くを占める生食用ばれいしょ市場の中では扱いが限られる。平成7年に育成された「さやか」は、白肉で、「男爵薯」より剥皮歩留まり、煮崩れ、調理後黒変等で優れた調理加工特性を有することから、業務加工用、特にポテトサラダ用として「男爵薯」に少しずつ置き換わってきているが、中生であり、畑輪作体系上扱いにくい面がある。
 「北育1号」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ早生白肉の生食用系統である。早生であるため、秋まき小麦の前作として無理のない輪作体系を維持することが可能である。また、「男爵薯」より収量性が優れ、中心空洞などの生理障害が少ない。青果用としては、肉質が粘質であるため煮崩れにくく煮物等に最適である。一方でん粉価は「男爵薯」並に高く、ほくほくしたおいしい食味も有し、煮物以外としても汎用性がある。また近年粘質系の人気も高まっており、本系統の青果市場における位置も確立できると期待される。業務加工用としては「男爵薯」より調理加工品質が優れ、業務加工実需者等(ばれいしょ加工適性研究会)によるサラダ適性試験において「男爵薯」および一般サラダに使われている「トヨシロ」以上の評価を得ており、チルド適性試験においても「男爵薯」以上の評価を得ているので、生食用新品種普及の問題点である販路の確保を、青果用の他に業務加工用で図ることが可能である。
 これらのことから、ジャガイモシストセンチュウ発生の拡大が懸念されている網走・十勝管内を中心として、「男爵薯」の一部に置き換えて普及することにより、ジャガイモシストセンチュウ汚染拡大防止、生食用ばれいしょの安定生産および畑輪作体系の安定に寄与するものと考える。

4.普及見込み地帯
 北海道の生食用ばれいしょ栽培地帯

5.栽培上の注意
 1)メトリブジン系の除草剤を植え付け後に散布すると、薬害を生じる場合がある。
 2)疫病抵抗性であるが、抵抗性を侵す新レース出現の可能性があるため「男爵薯」に準じた
  防除を行う必要がある。
 3)「男爵薯」より塊茎の維管束褐変が発生しやすい傾向があるので、乾燥しやすい圃場で栽培
  する場合は注意する。